No.148
こ、こんな奴に勝てるはずないじゃないかよっ・・・ 滑川っ! 俺はもう駄目だ・・・ こいつに殺される! 早く助けてくれよ。
「た、た助けてくれーっ! 助けてくれーっ! 頼むよ、助けてくれよぉ」
頼みの滑川は、壬生の祈りも虚しく、どこからもアプローチがない。
「へぇ、前歯がなくても、しっかり喋れるんだ。 これは一つ勉強になったぞ」
スナイパーが、コンバットブーツで唇の裂傷部を蹴り上げる。
「んがーぁ! あぐぅ、んがぁ」壬生は再び口元を押さえ、もんどり打った。 激痛と大量の出血、自身の口元が歪に変形していることを確認し、恐慌状態に陥った。
「そんなに筋肉があっても、打たれ弱くちゃ意味ないんじゃないのか」
過剰なまでに搭載された壬生の筋肉も、スナイパーの前では何の用も成さない、言わば無用の長物であった。 スナイパーに骨格や筋肉と言った、物理的要素は一切通用しない。
「や、やっぱり、素手では・・・ 勝て、ないか・・・ さ、さすがは伝説のスナイパーと、言われてるだけあるな・・・」
壬生が力なく立ち上がり、懐からコンバットナイフを取り出した。 刃渡り30センチオーバー、グリップはカイザーナックル仕様となっており、斬撃はもちろん、打撃にも特化した大型ナイフである。
「俺のことを知ってるんなら、そんなナイフだけじゃ、どうにもならないことも知ってるんだろうな?」
「ふっ・・・ な、何事もやってみなきゃ、分からんだろうがーっ!」ゼロ距離からの加速で、スナイパーとの間合いを一瞬で詰め、ナイフを振り下ろす。
シュッ!
「うおっ!」間一髪で躱し、顎に右拳を打ち込むが、踏み込みが浅かったため壬生へのダメージは期待できない。
「なんだよ、ナイフを持ったら急に速くなったじゃねえかよ」
「ああ。 これで本気が出せそうだ。 もう口元の痛みもなくなって、気分爽快だぜ!」
脳内からアドレナリンが大量に放出されているのだ、唇の裂傷部からの出血は止まり、激痛は遮断された。
再びゼロ加速。
刺突。
なぎ払い。
振り上げ。
振り下ろし。
上下、右左、央斜、切っ先がスナイパーの急所を狙う。
そもそもナイフは、刀剣とは違い、躱されても態勢の立て直しが容易で、ショートレンジでこそ、その持ち味を発揮する武器なのだ。
「どうした? ずっと避けてばかりじゃないか! 少しは反撃してこいよ!」剛脚を繰り出し、挑発する。
「じゃ、遠慮なく」
ドボッ! 剛蹴を躱し、股間を蹴り上げる。
「きゅいっ・・・」
壬生が顔をすぼめ、情けなく倒れ込んだ。