No.147
幼子に渡せば、必ず拒絶されるであろう、阪神タイガースのユニフォームが入ったボロボロのプレゼント箱を後生大事に抱え持つ、これほど滑稽な姿があるだろうか。
非常事態であるにもかかわらず、感情が露わになり、笑いが止まらない。
笑っているつもりでいたが、次第に涙が溢れ、終いには嗚咽を漏らし泣いていた。
不器用ではあるが、これほどにまでに愛情を注げる健気な人間を、今まで見た事がなかった。
俺もこれくらい愛されてたら、もっと違った人生があったかもな・・・
能見の幼少時代は、両親からの虐待に始まった。 行政すらも干渉できず、暗黒の日々を送っていた。
能見が十を数える頃、就寝中の両親をドライバーで刺殺し、アパートに火を放ち、逃走した。 以来、ホームレス同然の生活をしながら、窃盗や強盗で生計を立てていた。
「の、能見、一体どうしたんだ?」
初めて見る護衛人の涙に、衝撃を禁じ得ずにいた。
「いや、失礼。 先生は余程、お孫さんを愛してらっしゃるんですね」涙を拭いながら尋ねる。
「当然だろう。 寅恵が遺していった一粒種、寅子の娘だぞ。 愛してないはずがなかろう」
寅恵とは、寅子が生まれてすぐ他界した象山院の細君である。
「それなら、何としてでもお孫さんの許へ急ぎましょう」
傲慢で体裁ばかりを繕う小心者、能見が象山院に対するイメージであるが、それが払拭されつつあるのを感じた。
「あ、ああ、そうだな」
「そんなに心配なさらなくても大丈夫です。 壬生がそんな簡単にやられるはずはありません。 あいつの強さは、一流軍人でも太刀打ち出来ないほどですから」
な・・・ なんなんだ、なんなんだよ、こいつの強さ・・・
能見が太鼓判を押していた壬生は、スナイパーを前に片膝を付き、息も絶え絶えであった。
「おいおい! どうしたんだ、デカいの。 さっきから俺が一方的に殴ってばかりじゃないか。 後悔させるんじゃなかったのか? あの二人も逃げおおせたようだし、少しは反撃してこいよ」
「くっ、全部お見通しだったのかよっ・・・ だったら、遠慮はいらないなっ!」立ち上がり様に、左拳を打ち込む。
脱力からのマックススピード。 これ以上にない完璧な打撃であるが、スナイパーが事もなげに左拳を躱し、凶器の右拳を顔面に打ち込む。
壬生が口から血を噴き出し、昏倒した。
「んーっ! んーっ!」唇は裂け、前歯が砕け散った。 涙で視界が歪む。
2メートルを超えようかという巨漢が、180センチにも満たぬ男に倒され、地べたをのたうち回る姿は、哀れ以外の何者でもない。
こ、殺される・・・