表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説のスナイパー  作者: まこと
147/162

No.147

幼子に渡せば、必ず拒絶されるであろう、阪神タイガースのユニフォームが入ったボロボロのプレゼント箱を後生大事に抱え持つ、これほど滑稽な姿があるだろうか。

非常事態であるにもかかわらず、感情が露わになり、笑いが止まらない。

笑っているつもりでいたが、次第に涙が溢れ、終いには嗚咽を漏らし泣いていた。

不器用ではあるが、これほどにまでに愛情を注げる健気な人間を、今まで見た事がなかった。

俺もこれくらい愛されてたら、もっと違った人生があったかもな・・・

能見の幼少時代は、両親からの虐待に始まった。 行政すらも干渉できず、暗黒の日々を送っていた。

能見が十を数える頃、就寝中の両親をドライバーで刺殺し、アパートに火を放ち、逃走した。 以来、ホームレス同然の生活をしながら、窃盗や強盗で生計を立てていた。

「の、能見、一体どうしたんだ?」

初めて見る護衛人の涙に、衝撃を禁じ得ずにいた。

「いや、失礼。 先生は余程、お孫さんを愛してらっしゃるんですね」涙を拭いながら尋ねる。

「当然だろう。 寅恵が遺していった一粒種、寅子の娘だぞ。 愛してないはずがなかろう」

寅恵とは、寅子が生まれてすぐ他界した象山院の細君である。

「それなら、何としてでもお孫さんの許へ急ぎましょう」

傲慢で体裁ばかりを繕う小心者、能見が象山院に対するイメージであるが、それが払拭されつつあるのを感じた。

「あ、ああ、そうだな」

「そんなに心配なさらなくても大丈夫です。 壬生がそんな簡単にやられるはずはありません。 あいつの強さは、一流軍人でも太刀打ち出来ないほどですから」


な・・・ なんなんだ、なんなんだよ、こいつの強さ・・・

能見が太鼓判を押していた壬生は、スナイパーを前に片膝を付き、息も絶え絶えであった。

「おいおい! どうしたんだ、デカいの。 さっきから俺が一方的に殴ってばかりじゃないか。 後悔させるんじゃなかったのか? あの二人も逃げおおせたようだし、少しは反撃してこいよ」

「くっ、全部お見通しだったのかよっ・・・ だったら、遠慮はいらないなっ!」立ち上がり様に、左拳を打ち込む。

脱力からのマックススピード。 これ以上にない完璧な打撃であるが、スナイパーが事もなげに左拳を躱し、凶器の右拳を顔面に打ち込む。

壬生が口から血を噴き出し、昏倒した。

「んーっ! んーっ!」唇は裂け、前歯が砕け散った。 涙で視界が歪む。

2メートルを超えようかという巨漢が、180センチにも満たぬ男に倒され、地べたをのたうち回る姿は、哀れ以外の何者でもない。

こ、殺される・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ