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伝説のスナイパー  作者: まこと
14/162

No.14

スナイパーはセダンに追い回されながら全力で走り続けていた。 はたからから見れば、さぞ異様な光景に映ることであろう。

だがここは閑静な住宅街、深夜ともなると人通りが途絶え、警察も滅多に巡回に来ない地域なのだ。

それも計算に入れたつもりだったが、車に追い回されながらここに来るとは夢にも思わなかっただろう。 自業自得である。

「壬生、どうなっとるんだ? さっぱり彼奴に追い付かんじゃないかっ! もっと気合入れて飛ばさんかっ!」象山院が巨躯男、壬生に檄を飛ばす。

「申し訳ございませんね。 飛ばしてはいるんですが、こうまで曲がり角が多くては減速せざるを得ないんですよ。 それにあの男の脚の速さは、オリンピック選手の比じゃないですからね。 まあ、先生はそんな心配せずに、高みの見物と決め込んでて下さい」

壬生は飄々とした物言いで、それに応える。 明らかに雇い主を見下している態度である。

ドンッ!

「なんだと! 貴様、ワシに口答えするつもりか!」怒りに任せ、運転席のシートを殴り付ける。

「そっちこそ余計な口出しせずに、黙って見てたらどうなんだ!」

「よせ! 先生に対して失礼だぞ」能見が壬生の血気を鎮める。

「ふんっ」

「壬生、あんな奴の言うことなんて気にする必要ないさ。 どうせ、車の運転もまともにできない死に損ないの負け惜しみだ」壬生に劣らずの巨躯男、溝呂木が壬生を気遣い、雇い主を愚弄する。

「だからこそ余計イラつくんだよ。 無能なくせに、自分を何様だと思ってるんだ? あの世に逝って、神様気取りでいるつもりなのか?」

へっ、ルームミラー越しに薄ら笑いを浮かべ、雇い主を見下している。

「はいはい、先生への鬱憤晴らしはそこまで。 そんなことは先生も承知の上なんだから、あとは目の前の殺し屋を仕留めることに集中しましょ」滑川が仲裁に入り、無事に事を収めた。

「き、ききさまらーっ!」象山院が怒りに声を荒げる。


ちっ、さすがにペースが落ちてきたな・・・

当然だ。 いくらスナイパーがトップアスリート並みの健脚の持ち主であろうと、何キロも全力で走り続けたらスタミナが保つはずがない。

それでも容赦なく後方のセダンが迫り、発砲してくる。

パンッ、パンッ!

「うおっ!」

肩や足元を掠める。

やばい! 弾が当たる!

スナイパーは左右ジグザグに走り始めた。

直線に走れば恰好の標的になるが、左右に走れば銃弾が当たるリスクを抑えることが出来るのだ。

パンッ、パンッ、パンッ!

「うおっ!」

それでも何発かに一発は体を掠めることもある。

くそっ、このままじゃ、いつか必ず当たるぞ。 体力を消耗するけど、しょうがない・・・ アレをやるか。

左右ジグザグに走りながら道端に寄り、やがて壁を走り出した。

「な・・・なんだあいつ!? 壁を走ってるぞっ」

「うそだろ!? どういう身体能力してるんだよ・・・」

後方のセダンの中では誰もが呆気に取られていた。

スナイパーは、何も銃器の扱いに特化しているわけではないのだ。 驚嘆すべきは、その身体能力にこそあった。

「仕事」の半数近くは銃器ではなく、素手によってターゲットを仕留めてきたのだ。

「いてっ!」壁が終わり、生け垣に足が嵌り顔面から落下した。

「よし、彼奴が力尽きたようだ。 溝呂木、今度こそ生け捕りにして、依頼人の名前を聞き出せ!」

「分かってますよ。 そのあとは我々の好きにしていいんですね、先生?」溝呂木が残忍な笑みを浮かべる。

「ああ、好きにせえ。 ワシは依頼人が園山かどうかさえ聞ければ、それでいいんだ」

「ならば、遠慮なく」

セダンが追い付き、溝呂木が発砲する。

パンッ、パンッ!

スナイパーの肩部にヒットするはずだった二発の弾丸が後方のアスファルトにヒットし、火花を散らす。

「た、弾を避けた!?」溝呂木が驚きの声を上げた。

秒速450m/sで発射する弾丸は神経の伝達速度から考えて「見切る」ことは不可能であるが、銃口の向きやトリガーを引くタイミングさえ分かれば回避することは可能なのだ。

チャンス!

ゴッ! 反射的にスナイパーは溝呂木の顔面に右拳を放った!

助手席から撥ね飛ばされ、壬生もろともドアを突き破り、路上に転がり出て、完全に沈黙した。 顔面陥没である。

スナイパーはすぐさま立ち上がり二メートルはある生け垣を跳び越え、逃走していった。

人間の領域を超えた行為である。

な、なんとか逃げ切れたな・・・

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