No.136
もう二度と会えなくなるであろう唯一の友を前に、これまでの思い出が堰を切ったように蘇った。 気付けば一人、涙を流していた。
「ちょ、ちょっと、ジミーさん、どうしたんですか!?」
「え? あ、いや、何でもないんだ」
駄目だ、これ以上この場にいたら、決心が鈍ってしまう。
暗殺者と警察では、決して交わろうはずがない。
いつかは葛原を殺し兼ねない状況に陥るだろう。 そうなる前に、自身が身を引かねばならない。
「大輔、今日は誘ってくれてありがとう。 じゃあな」
それだけ言うと、スナイパーは後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にした。
これが、スナイパーと葛原が交わした最後の言葉であった。
その後、葛原は国会議員襲撃事件の主犯格であるスナイパーと共謀した嫌疑をかけられたばかりか、時期を同じくして同アパートの101号室に住む木嶋 美香が銃殺体で発見された。
弾丸の線条痕が襲撃時の物と一致したのが決め手となり、国会議員襲撃並びに、同アパート住民殺害に関与したとされ、終身刑を言い渡された。
そして、葛原の携帯電話の着信履歴から、頻繁に連絡が取られていた鞘木 琴江も同様の嫌疑をかけられ、取り調べでは不覚にも知能犯ですら及びも付かぬ奸智を披露した為、襲撃事件の計画者として、終身刑という、未成年者にしては異例の刑罰が下された。
これが葛原 大輔と鞘木 琴江の末路である。
希代の美少女・琴江の投獄により似非ダンスチームは空中分解し、散り散りになっていったメンバー達。
ダンスチームのリーダー格である洞口 静江は、解散後もダンスを続けていた。 ジャンプターン決めのダンスは、静江の三半規管を完全に破壊し尽くし、歩行すらままならない状況に陥っていた。
そんなふらつく足で登校していたところ、大型トラックに跳ねられ、四肢は断裂し、植物状態となり、4年後に死亡した。
合コンの席でスナイパーを罵倒した愛坂 道江は、生放送番組の大食い選手権に出場し、大量のホットドッグを喉に詰まらせ死亡した。 その死に至るまでの一部始終が、全国に放送された。 醜態を晒すとは、まさにこの事であると言えよう。
スナイパーと恋仲に堕ちた腰元 絹江は、スナイパーの完全なる肉体が忘れられず、失意の日々を送っていた。 それはスナイパーが、国際テロリストだと知っても尚の事であった。
だが、次第に自身が究極の肉体を手に入れればいいのではないかという結論に達し、ボディビルアジア選手権覇者・寺野小路指導の元、ウェイトトレーニングを開始した。
元来、筋肉に強い執着心を持った少女である、所属後すぐに頭角を現し、高校を卒業する頃には、都内でも名が知れた存在となっていた。
かつてスナイパーが恋い焦がれた少女の姿は見る影もなく、繊細な体には、過剰な筋肉が搭載され、透き通る白肌は小麦色へと変貌を遂げた。
そして、二十代も半ばに差し掛かろうかという時に悲劇が起きた。
その日は大胸筋の鍛錬の為、ベンチプレスから始まった。 寺野小路をアシストに付け、バーベルを挙げ切ったところで、突如両肘が折れ、高重量バーベルが頚骨を直撃し、そのまま死亡した。
スナイパーに関わった者は、皆すべからく不運な目に遭うのだ。