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伝説のスナイパー  作者: まこと
135/162

No.135

葛原 大輔巡査は、今日もまたいつもと変わらぬルーティンワークに従事し、疲弊し切った体で帰路に着いていた。

大都市・東京への配属で、凶悪犯罪に携われるのではと期待を抱き上京したのだが、待っていたのは故郷と何一つ変わらぬ駐車違反の取り締まりと、近隣パトロールの繰り返しであった。

公僕と揶揄されながらも、か弱き市井から無情に罰則金を巻き上げる姿は、まさに国家の忠犬そのもである。

「早く凶悪犯でも捕まえて、手柄立てて昇進できないもんかな」

葛原が懇意にしているスナイパーこそ、理想に描いている凶悪犯そのものであるが、当人はその事実に一切気付くべくもない。

愚にも付かぬ願望を口にしながら、アパートの前に辿り着いた時、スナイパーを見つけた。 待ち人来たるとは、この事であろう。

検挙しようものならば、警視総監賞は確実である。 二階級特進など目ではない。 ホワイトカラーに身を包み、凶悪犯罪の第一線で活躍出来るチャンスである。

葛原が声をかける前に、スナイパーの出で立ちが普段と違う事に気付いた。 世間から弱者的扱いを受けるアキバ系ファッションではなく、ホームレスに限りなく近い、薄汚れたコートに身を包んでいた。

「ジミーさん。 こんなに暑いのに、そのコートはまだ早いんじゃないんですか? 秋はまだまだ先ですよ」

「ああ、大輔。 服を全部洗濯したから、これしかないんだ」

「それならコートを脱いだ方がいいですよ。 せっかくいい体してるんだから、周りにアピールしないと」

コートを脱ごうものならば、肉体美をアピールする前に、懐の拳銃をアピールする事になる。 それだけは避けねばなるまい。

「い、いや、いいんだ、いいんだ。 今日はこの格好でいたいんだ」

ふーん。 葛原は気のない返事を返すだけでたった。 警視総監賞から一歩後退したようである。

「あ、そうだ! 仕事終わったんで、これからまた無銭飲食でもやりに行きませんか?」

「いや、今日は辞めておくよ。 これから大事な用事があるんだ。 すまないが、また今度誘ってくれないか」

「それは残念。 分かりました、また明日にでも誘いますね」

「ああ、悪いな」

こいつとは、もうこの先、会うことはないんだろうな・・・

いつもと変わらぬ日常が、明日も必ず訪れると信じて疑わない葛原を羨望の眼差しで見つめていた。

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