No.129
スナイパーを囲んでの「悲しみの饗宴」では、スケープゴートである椎名を虐め抜く事に従事された。
「おい! まずい酒を買ってきた罰だ、今から俺がいいと言うまでブタの真似をしろ!」
「は、はい! かしこまりました」
そう言うや否や、醜く肥った体を無理矢理に押し曲げ四つん這いになった。 その姿は正しく豚そのものである。
「ぷぎーっ! ぷぎーっ! ぷごぉ!」
「ぶははは! これは傑作だ。 おまえの前世は絶対豚だったな! この豚野郎がっ、もっと鳴け鳴けーっ!」
屈辱に耐え涙を流す椎名の前世は、やはり豚であった。 スナイパーの前世占いは見事に的中したのだ。
「ふふっ。 ジミーさん、大分元気が出てきたみたいですね。 こうやってみんなで騒いでバカなことをやってれば、失恋の痛手なんかすぐ癒えるはずですよ。 そのうち時間が経てば好きだった感情も忘れて、何かのきっかけでふと思い出したときに、そんなこともあったなって懐かしめる日が必ず来ますよ」
経験者は何とやら、恋愛に免疫のないスナイパーに救済措置を施す。
「ああ、きっとそうかもしれないな。 大輔、いろいろとありがとう。 おまえがいてくれて心強いよ」深々と頭を垂れた。
スナイパーが心から葛原に感謝の意を述べたのは、これが初めてであった。
女には振られたけど、こうして俺を心配してくれる仲間がいるんだ、日本もまだまだ捨てたもんじゃないかもな。 夜にこのバカとラーメン食べに行って、たまにあの豚をいじめる生活も悪くないな。
少女を失った事により、再びアンダーグラウンドな世界に引き込まれるのではと危惧したが、唯一の友である葛原と、下僕の椎名にその危機を救われる結果となった。
「ぷぎ・・・ ぷぎぃ・・・ ひいぃ、もうやだよ・・・ 旦那様、すいませんでした・・・ もうお許し下さい」
とうとう屈辱に耐え切れなくなった椎名が豚の真似を放棄し、床に突っ伏して泣き出した。
「こらぁ! 誰がやめていいと言ったんだっ! もっと鳴け、おらぁ!」
べちぃ! スナイパーの死の張り手が、椎名の背中に炸裂した。
「ぷぎぃー!」あまりの激痛に獣声を響かせ、無様に仰け反った。
汗ばんだTシャツからは、皮膚が張り裂け、鮮血が滲んでいた。
椎名の背中には、恐らくは一生消えないであろう伝説のスナイパーの手形がスタンプされたのだ。
「ジミーさん、そんなに椎名さんをいじめたらかわいそうですよ」
あまりにも哀れに思った葛原が、スナイパーに制止を呼びかけた。
「何甘いこと言ってんだ。 この豚野郎には、これくらいで丁度いいんだよ」
「それもそうですね」あっさりと引き下がった。