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伝説のスナイパー  作者: まこと
127/162

No.127

下町アパート106号室在住のデブ椎名は、美少女アニメ『物乞いふさ』の主人公、町田 ふさに心奪われていた。

物乞いで生計を立てているふさが、憲兵に捕縛され、銃殺刑に処されるまでの十五年の激動に満ちた半生を描いた作品である。

そのキャラクター性は、今まで清き交際を続けてきた架空の「恋人達」とは、明らかに一線を画していた。

貧民層に生まれたふさが、日銭を稼ぐ為、街行く富裕層の紳士連に哀願の眼差しで物乞いをする姿は、無能な視聴者共に興奮を与えた。

それは社会から疎外され、虐げられ続けた椎名とて例外ではなかった。

紳士連に媚を売るふさの物乞い姿に、支配欲を刺激された椎名の妄想世界では、ふさのパトロンとして貿易商を営むスナイパーの財産を横流ししていた。 椎名の横領が発覚すれば、ふさの眼前でスナイパーに拷問をかけられ、命を落とす設定となっているのだ。

今や、スナイパーに破壊された塩化ビニル製の恋人達や、胡蝶蘭の面影をまとった木嶋 美香に未練を残すことなく、新たな美少女との出会いに胸を踊らせていた。

「ああ、今日もおふさちゃんの物乞い姿がたまらないよ。 そんな庄屋の甚兵衛さんにたかっても、金子はほとんどもらえないのに・・・ 僕ならもっと恵んであげられるよ」

スナイパーの財産から恵んでいるだけである、自身の懐は何ら痛もうはずがない。

『物乞いふさ』が最終回を迎えると同時に、スナイパーに横領が発覚し、守護天使であるふさに見守られながら、拷問により命を落とす予定となっていた。


ピンポーン!

椎名の愚かしい妄想を寸断させるに十分な音量の呼び鈴が鳴った。

「うるさいな、もう! 甚兵衛さんの後に恵んであげようと思ってたのに。 おふさちゃん、ちょっと待っててね、すぐ戻るから」

そう言うや、DVDプレーヤーの一時停止ボタンを押した。

椎名は、自身が贔屓にしているアニメがリアルタイムで放映されている最中は、着信が鳴ろうと人が訪ねて来ようと、居留守を決め込み、対応の一切を遮断する。

「はい、どなたですか?」

他者との関わりを最小限に抑えたいのか、扉を開ける事なく対応する。

『夜分遅くにすません、隣の葛原です。 今日は椎名さんに相談したいことがあって来ました』

僕に相談なんて、余程切羽詰まった状況なんだろうな。 ほんとに困った奴だな、あの若造が。

頼られたのが余程嬉しかったのか、天の岩戸はすんなり開き、そして驚愕した。 葛原の後ろにスナイパーが立っていたのだ。

「だ、旦那様っ・・・!」

椎名は、依然として妄想世界に没入したままの状態である。

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