No.125
午後8時16分。 下町アパート105号室。
地方都市から上京して早五ヶ月、策士・葛原は大都会の生活にも馴染みの色を漂わせていた。
個性は強烈だが、アパートの住人にも恵まれ、念願だった恋人もできた。 今まさに順風満帆な一人暮らしを謳歌していた。
ピンポーン!
誰だ? ジミーさんにしては早いな。
スナイパーが葛原の部屋を訪れるのは、午後11時過ぎであってた。
もしかして琴江!? あいつ、部屋に来るときは前もって電話しろって言っておいたのに、ほんとに困ったやつだな。 昨日会ったばかりなのに、もう俺に会いたくなったのか。
恋にほだされた哀れな男が、喜び勇んで開けた扉の先には、涙に濡れたスナイパーが立っていた。
うわっ、ジミーさんだったか・・・
葛原の期待は、虚しく空を切る結果となった。
「ジ、ジミーさん! どうしたんですか? 涙なんか流しちゃって」
「大輔・・・ 俺、字が読めないんだ。 手紙を読んでくれないか?」
「えっ、手紙?」
『ジミーさまへ
何から書いていいのか分かりませんが、まずはあなたに謝らなければならないことがあります。
あなたも薄々は察しているとは思いますが、私は高校在学中の未成年者なんです。 今まで隠していたご無礼を、お許しください。
あの日、大人の恋愛にあこがれていた私達は、不安を抱えながら静江に誘われ従いて行った合コンの場で、あなたに出会いました。
そして、一目であなたに私の全てが奪われていくのが分かりました。 気が付けばあなたに恋をしてました。
身分を偽ってのデートは、非常に楽しくもあり、心苦しくもありました。 次逢ったときには本当のことを打ち明けよう、いや、今日だけは神様に見逃してもらって、明日こそ真実を告げよう、そのうちズルズルと時間だけが過ぎていきました。
もう自分では引き返せない場所まで来たのだと実感しました。 それと同時に、気付いたこともありました。 私はあなたに恋をしていたのではなく、あなたの筋肉に恋をしていたのです。
その事実に気づいても、あなたに申し訳ないと思いつつも、逢わずにはいられなくなっていました。
もしあの時、あなたに私の制服姿を見られていなければ、そのまま交際を続けていたことでしょう。
お互いにとって、今が一番いい機会なのかもしれませんね。 さびしいけど、ここでお別れしましょう。
ひと月にも満たない短い間だったけど、何よりも誰よりも幸せでした。
ジミーさん、さよなら。
今までありがとうございました。
絹江より』