No.124
満面の笑みのスナイパーとは対照的に、少女は気落ちした様相を呈していた。
「電話に出なくて、ごめんなさい。 ちょっといろんなことを考えてたんです」
「謝ることないよ。 絹江ちゃんが今こうして目の前にいるんだから、ただそれだけで十分だよ。 ところで、どんなことを考えてたの? 人生の先輩である俺が何でも相談に乗るから、言ってみなよ」
有頂天なスナイパーは、少女の気落ちした表情にも気付かず、人生の救済アドバイザーを買って出た。
だが、人生経験が極めて希薄なスナイパーに相談を持ちかけるのは、愚の骨頂と言えよう。
「外は暑いだろう。 さ、中に入ってくれよ」
「いえ、いいんです。 今日はこれをジミーさんに渡しに来ただけですから」
少女はバッグから封筒を取り出し、スナイパーに手渡した。
「いいの? ありがとう。 もしかして俺へのラブレターだったりして!」
少女からの手紙にはしゃぐ中年の姿は、見るに堪えないものである。
「時間があったら、読んでみてください。 それじゃあ、あたしはこれで。 ジミーさん、さよなら」
スナイパーは、少女の言葉に言い知れぬ不安を覚えた。
さよなら・・・ もしかしたら、もう二度と会えないのか?
「あのさ、明日も会えるよね?」
「・・・はい」
「よかった。 またいつもの場所で待ち合わせしようね」
「はい。 じゃあ、失礼します」
「あ、待って! 今まで言わなかったけど・・・ 絹江、好きだよ」
「ありがとうございます。 あたしもジミーさんが大好きです」
深く会釈をし、二度と振り返ることなく、その場を後にした。
スナイパーは少女の去り行く姿を抱き留めることも出来ず、ただ黙って見ているだけだった。
これが、少女と交わした最後の言葉であった。
自室に戻ったスナイパーは、不安に駆られながら、震える手で封筒から手紙を取り出し、涙を流した。
「うおーっ! 全然読めねーよっ!」
極めて短時間のうちに各国の公用語を習得するスナイパーだが、文字のリーディングやレタリングに関しては、その限りではないのだ。
ただこの手紙は、別れの手紙であると直感した。
ダーンッ! ダーンッ!
『うるさんだよっ、この密入国がっ! あたしに何べん迷惑をかければ気が済むんだよ! 今からおまえをぶっ殺しに行ってやっから、首洗って待ってろっ!』
スナイパーの悲しみを他所に、暴君・美香の暴走は加速度を増すばかりである。