No.122
護衛者・能見との邂逅により、平穏な日常から一転、闇の世界に足を引きずられそうになる。
再び陽の当たる世界に這い上がろうと、頼みの綱である少女に逢瀬を要求したが、級友の自殺を思い留まらせるとの理由で、敢え無く撃沈。
そのまま帰宅する気にもなれず、当て所なく街を徘徊していた。
「ちくしょう、今日は散々な一日だったな・・・」誰にともなく呟く。
だがスナイパーの受難は、これだけに留まらなかった。
午後4時31分。 通常ならば、この時間帯には少女と書店に立ち寄り、平面上に写るボディビルダー達の肉体をつぶさに観察し、少女が筋肉の出来映えを揶揄する脇で、機嫌を損なわせまいと平身低頭で追従しているはずだった。 だが現実は一人、街中を徘徊しているだけであった。
と、そこへスナイパーの想い人、腰元 絹江が似非ダンスグループのメンバーと共に、姿を現した。
「あっ、ジミーさん・・・」先にスナイパーの存在に気付いたのは絹江であった。
まずい・・・ 何でよりによってこんな所にジミーさんがいるの!?
ここは厓円高校周辺。 折悪しく今は下校途中、少女達は学校指定の純白の制服に身を包んでいた。
絹江はスナイパーに社会人であると偽り、擬似交際を続けていた。 そして今、その社会人と言う擬態が、スナイパーに露呈してしまったのだ。
「絹江ちゃん!」
愚鈍なスナイパーも、絹江達の存在に気付いたようである。
「おや、噂をすれば何とやら。 マッチョな彼氏さんじゃないかい。 こんちは、元気だったかい?」
開口一番、静江が横柄な態度でスナイパーに挨拶をする。
どうせまともなルートで入国したんじゃないんだろう? 絹江には悪いけど、密入国者には、これくらいの扱いで十分ってもんだよ。
静江が勝手に判断したスナイパーの素性は、ほぼ的を得ていた。
「あ、ジミーさんだ。 こんにちは」
「ごきげんよう」
静江に倣い、道江も琴江も会釈をする。
「こんにちは。 みんなお揃いみたいで。 あれ? それは会社の制服? じゃないよね・・・?」
スナイパーが、欺瞞の目を少女達に向ける。
「ジ、ジミーさん、ごめんなさい!」
そう言うや否や、絹江は純白な制服をひるがえし、全力でスナイパーの元から走り去って行った。
残されたのは、気まずさの余り俯く少女達、そして呆然と立ち尽くすスナイパー。
何も考えられない時間だけが、そこにあった。