No.120
自身が長い間、信奉してきた常識を否定された少女の胸中は、憤怒に駆られていた。
「あんだって! ちょいと、血液型占いを馬鹿にする奴は、あたいが許さないよ! あれはよく当たるって、みんな言ってるんだよ」
仮想多数票を得た静江が、勝ち誇ったかのように琴江を見やる。
「あっ、あたしも当たってると思う時あるよ!」道江も静江に同意を示す。
「琴江、これはほんとによく当たるんだよ。 あたしも雑誌で、当たってると感じる時あるもん」
日本人の占い好きが及ぼす悪しき風習に毒されたのか、絹江も血液型占いの「信奉者」であった。
「当たっていると〝思う〟や当たっているように〝感じる〟だけで、確定ではないんでしょう? 」
リアリストの琴江が、未確定要素を指摘する。
「知らないのかい? テレビでもよく特集を組んで演ってるんだよ」
「マスメディアなんて数字さえ稼げれば、嘘でも流すわ。 いい? 血液型と性格に、相関関係なんてあるはずないじゃない。 血液型物質は血液脳関門を越えられないの。 そんな血液型物質が脳内の化学物質や、シナプス結合にアプローチすることは物理的に不可能。 血液型の違いが、性格の違いに結び付けること自体ナンセンスよ。 それに人間は一面性ではなく、多面性の生き物よ、性格判断が当たっていると感じたり、外れていると感じたりもするわ。 そんな眉唾な子供だましを信用するなんて、おめでたいとしか言いようがないわね」
科学的根拠を鎧った琴江が、一気にまくし立てる。
何の根拠もない理論武装で抗おうにも、残虐非道の琴江に敵うはずがないのだ。
「だって相性診断だって・・・」
道江がなおも食い下がり、信奉者達も頷く。
「みんな。 そうやって世の中を色分けして、自らの視野を狭めてどうするのよ? それだけ出会いを捨ててるのよ。 相性なんて、血液型で分かるほど薄っぺらなものじゃないわ」
「それでも葛原君を、寝取ったことには変わりないんだろう? そんな泥棒猫が、よくもまあ、ご立派なことをのたまえたもんだねぇ!」
恋愛に敗北を喫した少女に、何を言おうとも無駄であった。
「寝取った覚えはないわ。 葛原さんとは、あなた達と同じく友達としての域を出てないもの」
「きぃーっ! そんな見え透いた嘘をを、いつまでつくつもりだい!」