No.117
絹江の怒りをどうにか鎮め、似非ダンスグループに普段の活気が蘇ってきたかに見えたが、再び暗雲が漂い始める事となる。
「絹江とジミーさんの門出は祝福するとしても、琴江、あんたはどうなんだい? 練習に参加しないのは、葛原君と付き合ってるからじゃないだろうね?」
静江が嫉妬心剥き出しで、琴江に疑惑の目を向ける。
「ちょっと待ってよ! 琴江、あたしの葛原さんに手出したの?」
道江の表情が、食べ物以外の事で初めて歪んだ。
「葛原さんは誰の物でもないわ。 彼と会おうと会うまいと、それは私と彼の勝手、誰からもとやかく言われるつもりはないわ」
「それは、つまり葛原君との交際を、認めたと捉えていいのかい?」
「どうぞお好きに。 捉え方も人それぞれ、私もとやかく言うつもりはないわ」
「ちょっと! 葛原君は、あたいと付き合ってたんだよ! それを泥棒猫みたいに横からかっさらって、恥ずかしいと思わないのかい!」
クレバーに突き返す美少女とは対照的に、十人前の静江は、我を忘れ喰ってかかる。
「人聞きの悪いことを言わないで欲しいわね。 それに彼は、静江と付き合ってる事実はないと言ってるのよ。 そして私も彼と付き合ってる訳ではない、ただの友達としてのお付き合いに徹してるだけよ」
「ふんっ、どうだか! 泥棒猫の言ってることは当てにならないからねっ! とにかくこれ以上ちょっかい出すのは止めておくれよ。 少しは葛原君の迷惑も考えて行動して欲しいもんだよ」
嫉妬に狂った少女の胸中たるや、如何ばかりであろうか。
「別に私が連絡してる訳じゃないわ。 葛原さんから、お誘いの電話がかかって来るだけよ」
「あーっ、そうかい、そうかい! 何でも葛原さん、葛原さん! 飽くまで自分には責任はないと言いたいんだね、あんたは?」
「そういうことになるわね」
「きぃーっ! 人を馬鹿にするのもいい加減におしよ! ほら、道江もぼーっとしてないで、この泥棒猫に何か言ってやりな!」
「あのさ、あたし達だけで何を言っても埒が明かないから、葛原さんに本当の気持ちを直接聞いてみたらどうかな?」
食べ物にしか興味を示さない大食漢の道江にしては、聡明な意見を出した。