No.115
午後3時10分。 都立厓円高校では、終業のチャイムと同時に、勉学と言う苦役から解放された学徒達が方々に散り、学舎は次第に放課後の空気に包まれた。
ここから支配交代の時間である。 教師に代わり、学徒が校内を支配する。 自由を得た若者達は、有り余る情熱を様々な方向に向けた。
溢れ出る若さを部活動に捧げる者や、自身の可能性を信じ、更に勉学に励む者、ほんのひと時の青春を異性との逢瀬に懸ける者、何の目的も持たず、ただ自暴自棄に過ごす者。 それぞれが、それぞれに放課後の余暇を存分に満喫していた。
たが、そのいずれにも属さぬ者達もいた。
そう、厓円高校を代表する似非ダンスグループの少女達である。
「絹江、琴江、今日はミーティングの日だよ。 駅前のマックに行くよ」
似非ダンスグループのリーダーの座を、暴君・美香に明け渡した卑怯者の静江が二人を呼び止める。
「えっ、あっ、静江ごめん。 今日はこれから予定が入ってるんだ。 悪いけど、また今度誘ってよ」
普段なら発案者からの報復を恐れ、追従の意を示す臆病者の絹江だが、先の合コンをきっかけに、今や自身の意見を貫くまでに急成長を遂げていた。
「私も今日はパスするわ。 絹江と同じく予定が入ってるの」
残虐非道の琴江も絹江に便乗し、静江を冷たく突き離す。
「またかい、またかい。 練習にもろくすっぽ参加しないで、あんた達最近すっかり付き合い悪くなったんじゃないかい?」静江の憤懣が炸裂する。
「練習までまだ時間あるから、みんなでマック行って月見バーガー食べようと思ってたのにな」
大食漢の道江にとっては、ミーティングなどどうでもよく、ただ己の食欲を満たせればそれでいいのだ。
「ほんとにあんたは、食べ物のことしか頭にないんだねぇ。その割りにはスタイルがいいんだから、羨ましいったらありゃしないよ、全く」
極めて代謝が良いのだろうか、メンバーの中では、道江のスタイルが最も均等が取れていた。
「絹江、もしかしてあの変な外人と、まだ付き合ってるのかい?」
「うん・・・ 正式にではないけど、たまに会ってるくらいだよ」
何の虚勢からか、毎日のように逢瀬を重ねている事を、メンバーに秘匿している。
「あんなおっさんのどこがいいんだか分からないけど、あんたにファザコンの気があったとはね」
「それにさ、ジミーって、名前が面白いよね。 まるでジミー大西みたい!」
道江の一言に、絹江以外のメンバーが爆笑した。
「ちょっと、いい加減にしてよっ!」
顔を真っ赤にした絹江の猛攻が始まろうとしていた。