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伝説のスナイパー  作者: まこと
110/162

No.110

風俗店の店先で、二ヶ月振りに邂逅したスナイパーと能見は、性の欲望を悟られまいと、睥睨し合いながら懐から右手を戻す。

「あんたは、あの時の殺し屋・・・! まさかこんな所で会うなんて」

「ああ、たしかに。 昼間から商売女の所で、まぐわいとはいいご身分だな。 護衛の仕事は、そんなに儲かる仕事なのかねぇ? いっそ俺も転職したいくらいだぜ」

「ふん、あいにくと今日は非番でね。 そんなあんたこそ、昼間から女と乳くり合いだなんて、この前の任務に失敗して仕事にでもあぶれたんじゃないのか?」

「ほう、それならすぐにでも、お前の雇い主を始末してやろうか?」

「ははっ、おもしろいことを言いやがる。 また返り討ちにしてやろうか?」

街行く民衆が、風俗店の前で殺気を漂わせながら罵り合う二人の姿を、遠巻きに眺めていた。

「ちっ、ここじゃ目立ち過ぎる。 場所を変えよう」

衆人環視の的に耐え切れなくなった能見の提案であった。

「いいだろう、そこで決着をつけるとしようか」

「いいや、俺もあんたも丸腰、それにこれから女と乳くり合おうとしていたんだろ? 今日は休戦だ」

抜銃では能見にアドバンテージが付いたが、徒手空拳ではスナイパーに軍配が上がるのは目に見えている。

相手の力量を見極めるのは、アンダーグラウンドの世界で生きる者にとって、最も重要なファクターであることは言うまでもない。 退き際を知らぬ者は必ず自滅する。

スナイパーは象山院襲撃未遂事件以来、日本の安全神話に毒され下町アパートの住人と懇意になり、挙句には未成年の少女との交際で半ばぬるま湯に浸かった日々を送ってきた。

その結果、抜銃で能見に遅れを取る羽目になった。 以前のスナイパーならば、能見如きに遅れを取ることはなかったのだ。

一方の能見は、スナイパーに間隙を突かれたばかりか、圧倒的有利な状況下であるにも関わらず、スナイパーの反撃により完全なる敗北を喫した。

それからは警護により一層の警戒心を強め、象山院に接触する者には疑心の目を向けた。 余暇時には訓練に励み、今ではスナイパーの実力に肉迫していた。

平穏の中に身を置くか、狂気の中に身を置くかで優劣に差がついたと言えよう。

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