No.11
ジリリリッ!
「ひっ!」
突然アラームが鳴り響き、スナイパーが慌てて跳ね起きる。
「なんだ、アラームか・・・」
しかし、昨日はひどい目に遭ったぜ・・・
午前9時。 夜が明け、心霊現象はすっかり鳴りをひそめたようである。
そろそろチェックアウトの時間か。
コートを着て身支度をするが、ここで異変に気づいた。
あれ? 電話がない! どこだ?
辺りを見回すが、どこにもない。 霊に怯えて暴れ回ったのだ、当然の結果といえよう。
スナイパーの携帯電話には、今まで請け負ってきた依頼人のアドレスや殺人内容を緻密に記されたメールまで書き込まれている。
もしそれが警察機構の手に渡ろうものならば、スナイパーを筆頭に、殺人示唆の容疑者達が芋づる式に捕らえられていく。
当然の如く、園山にも警察機構の魔手が及ぶであろう。
スナイパーが床に這いつくばり辺りを見回す。
あ、あった! ベッドの下だ!
隙間に腕を入れるが、なかなか届かない。
あともうちょっとなんだよな・・・
携帯電話を掴んだ。 と同時に何者かがスナイパーの手を掴んだ!
「うおっ!」
戦慄が走るとはこのことである。
正常な思考は持ち合わせておらず、足をバタつかせ手を抜くことしか考えてなかった。
恐る恐るベッドの隙間を見やる。
昨日の女だ、昨日の女が凄まじい形相で手を掴んでいる!
「た、た、助けてっ! 誰か助けてーっ」
脅かすだけにとどまらず、今度は強硬手段に出てきたのだ。
渾身の力を込め、腕を引っこ抜く。
「うおぉーっ!」
逃げるように部屋を後にした。
フロントマンに昨夜の出来事から、今さっきまでの顛末を説明した。
「そうですか、お客様も〝視て〟しまわれたんですね」
「視たも何も手掴まれたんだよっ! ほら、ここ! 掴まれた痕があるだろっ! 腕を引っこ抜いたときに、ここを擦りむいたんだよ」
「〝視て〟しまわれたお客様だけにお話してるんですが、7年前にあの部屋で殺人事件があったんです。 カップルの男性が口論の末、女性を殺害して今もなお逃走しているんです」
言葉を切る。
「それからでしょうか、お客様みたいに幽霊を視たと言う人が今まで二人おりました。 一人はドライブ中に老婆を撥ねて即死させた逃走中の犯人でした。 もう一人は大きなトランクに幼女の遺体を入れて宿泊しに来ましたが、翌日には気が触れて現行犯逮捕されました」
フロントマンはスナイパーを見る。 疑いの眼差しである。
「偶然にも殺人者だけが幽霊の被害に遭われてるようなんです。 あとのお客様には快適にご利用いただいております。 そして、本日あなたで三人目です」
これはまずい・・・ 空港、病院に続いてホテルのフロントマンにまで疑われてるのか?
「じ、じゃあ、壁の向こうの怒鳴り声は一体誰だったんだ?」
「さぁ、それは存じ上げません。 ただ、噂では女性を殺害した犯人がこのホテルに今もいるらしいんです」
この話を聞いたスナイパーは、慌てるようにして東横インを後にした。
また新しい宿探しでもするか・・・