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伝説のスナイパー  作者: まこと
106/162

No.106

9月4日。 気が付けば、暦の上では9月である。 9月に突入してからも秋の気配は微塵も感じられず、都内では依然として残暑がくすぶり続け、熱中症による救急搬送者が後を経たずにいた。

そんな灼熱世界の中心で、スナイパーと絹江は逢瀬を重ねていた。

普段は失われた青春を取り戻そうと、自身も少年に還り、無尽蔵の体力を保有する少女と戯れ、無駄なエネルギーを浪費するスナイパーなのだが、本日は意気消沈していた。

それもそのはず、国会議員・象山院 寅太郎暗殺まで残す所、10日に迫っていたのだ。 それは即ち、スナイパーとしての職務を忘却することの出来る唯一の国、日本から離れることに他ならない。

象山院殺害後、スナイパーに多大な迷惑をかけた下町アパート在住の木嶋 美香も始末し、国外逃亡という運びである。

スナイパーは、最大級のリスクを冒してまでも暴君・美香への報復だけは忘れずに計画に盛り込んでいたのだ。

「ジミーさん、今日は元気ないけど、どうしたんですか?」

「ん、そう? いつもと変わらないよ」

「ううん、やっぱりいつもと違う」絹江が、スナイパーの顔を覗き込む。

少女の視線に耐えられず目を逸らす。 このまま視線を合わせたのでは、血管や細胞までをも見透かされるばかりか、思考まで読み取られ兼ねない。

「あ、分かった。 今回のボディビルのアジア選手権で、寺野小路のカットが足りないのに、初優勝したのが納得出来ないんでしょう」

カットとは、筋肉の割れ目のことである。

およそ見当違いの解答に、半ば胸を撫で下ろしながらも、真実を見抜いてもらえない寂しさもあった。

決して自身の口からは一切を語らず、少女から真実を投げかけてもらう姑息なシチュエーションを想定していた。

だが、相手は一般家庭に暮らすごく普通の少女、大量殺人犯と付き合えるほどの器量は持ち合わせてはいないのだ。

「う、うん、まだ全国大会の時の方が、四連覇の貫禄があってバルクもカットも完璧だったんだけどね」

最早スナイパーには、少女の意見に従うしか道はない。

「良かった、ジミーさんもあたしと同じこと考えてたんだ! 気持ちが通じ合えるって素敵ですね」

「ああ、そうだね」

ちくしょう、何で俺が筋肉の話をしなきゃならないんだよ。 いい加減俺の正体に気付けよ!

どんなに親しくとも、大量殺人犯と発覚しては、即座に警察機構に通報されるのが関の山である。 凶悪犯を匿っても、少女には何のメリットもないのだ。

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