No.103
ドンッ、ドドッ、ドンッ、ドンッ!
ドンッ、ドドッ、ドンッ、ドンッ!
スナイパーと絹江が、201号室の住人である木嶋 美香を非難している間でさえも、当人はどこ吹く風と言わんばかりに、ジャンプターン決めの単調なダンスを一心不乱に踊っていた。
「しかし毎晩のことながら、ほんとにうるせー音だな」
スナイパーは、少女による足枷から解放された脚を揉みほぐし、妄想世界でヒロインとして崇めてきた美香へ対する悪態をつく。
「たしかに。 こんな音を毎晩立てられたら、頭が狂っちゃいそうですね・・・ でも変ね、どこかで聞いたことあるようなリズムだけど、何だったかなぁ・・・」
それもそのはず、自身が三半規管を犠牲にしてまで反芻してきたダンスである、勘付いて当然であろう。
「そうだ、あたしにいい考えがあります!」
そういうや否や、おもむろに立ち上がり玄関へ向かった。
なんだ、苦情でも言いに行くつもりか? だとしたらまずいな・・・ あの女すぐブチ切れるから、絹江に危害が及び兼ねない!
痺れ切った脚で玄関に向かおうとした矢先、絹江が傘を携え戻ってきた。
「ん? その傘で何するの?」
「ふふ、まぁ見ててください」
少女が不敵な笑みを浮かべ、ドンッ! ドンッ! ドンッ! 傘で天井を突き始めた。
「ち、ちょっと絹江ちゃん! 何してるんだよ!?」
スナイパーが慌てて制止させる。
「目には目をです。 相手も同じことをされたら、もう二度とやらなくなるでしょう」
さもありなんと言わんとばかりに、絹江が規定通りの常識を振りかざす。
「あの女には、そんな常識なんて通じないんだよ! 俺も一度注意しに行ったら、警察呼ばれそうになったんだよ」
「そんな大袈裟な・・・」
ドドドドドッ! 絹江の杞憂を余所に、階上からより一層激しい打音が鳴り響いた。
『うるさいんだよ、この密入国! 人の邪魔して何が楽しいって言うのよ!? 今度こんなことしたら、警察に通報して強制送還させてやるわよっ! ブタ箱に入って一生臭い飯でもかっ喰らってなさいよ!』
暴君・美香が憤怒に駆られ、理不尽な暴言をスナイパーに浴びせた。
「えっ!? な、何で? あたし、あたし何か悪いこと言ったの!?」
社会に出たことのない少女が、初めて理不尽を学んだ瞬間である。