No.102
くそっ、いつまでじっとしてればいいんだ? 足が痺れてきたぞ・・・
スナイパーは、絹江に抱きしめられたまま微動だに出来ず、筋肉の「検閲」を受けていた。
いくら強靭な肉体を持つスナイパーといえども、少女を膝の上に乗せ、微動だにしなければ、全身の血流が停滞し、脚が痺れてもおかしくないだろう。
も、もう限界だ・・・ 頼むっ! 何でもいいんだ、何でもいいから何かモーションを起こしてくれ。
そんなスナイパーの哀願も虚しく、真剣な眼差しで行われる絹江の検閲は、収まることを知らなかった。
太くもなく細くもない、見事なまでに均等の取れたスナイパーの肉体は、絹江を惹きつけて止まない魅力があった。
「な、なあ、絹江ちゃん、そろそろ足が痺れてきたんだ。 ちょっと態勢を変えるから、立ってくれないかな?」
「ううん、もうちょっとこのままでいたいの」
な、なんだとっ!?
スナイパーの必死の懇願は、少女のわがままな一言で、見事に斬って捨てられる結果となったのだ。
最早、スナイパーは自力で立ち上がることすら敵わないだろう。
と、その時「ドンッ、ドドッ、ドンッ、ドンッ」天井から凄まじい打音が鳴り響いた。
「きゃっ! な、何っ、この音!?」
驚愕色に染まった少女は、スナイパーの膝上から勢いよく飛び上がった。
「うがぁ!」痺れた脚に、追い打ちを掛ける十分な一撃であった。
「あぁっ、ジミーさん、ごめんなさい! 大丈夫ですかっ!?」
「あがががっ! こ、これは強烈じゃないか・・・」
常人なら膝蓋骨骨折は免れなかっただろうが、スナイパーに至っては鍛え抜かれていたことが幸いしたようである。
「またあの女か・・・」
「あの女?」
「うん、ここ二、三週間くらい前から夜になると何してるのか、ああやって跳ね回ってるんだ」
「非常識な人ですね。 そんな人が同じアパートに住んでるなんて、ジミーさんがかわいそう・・・」
絹江が非常識と揶揄する女こそ、その当人が属する似非ダンスチームで、急遽リーダーに抜擢された暴君・木嶋 美香であった。
「いつもはもっと遅い時間に跳ね回るんだけど、絹江ちゃんがいる時に限ってやるなんて、ほんとタイミングの悪い女だよ」
絹江はスナイパーと、琴江は葛原との逢瀬で、メンバーが二人欠けたことにより、今宵の単調極まりないダンスの練習会は中止となったのだ。