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伝説のスナイパー  作者: まこと
101/162

No.101

「さっきはすまなかったね、みっともないとこ見せちゃって」

先程の昂りから落ち着きを取り戻し、自身の行為に羞恥を覚えたスナイパーは、絹江に話し掛けることでその羞恥を相殺させた。

「ううん、ちっとも。 うれしい時に泣くのは当たり前のなんだから、謝るなんておかしいですよ。 あたしもジミーさんの夢に貢献することが出来てうれしかったし」

目を赤く腫らしたスナイパーは、はにかみながら俯く。

「あ、まだ7時前だから、紀伊国屋に行こうか? ボディビルの雑誌が出てるかもしれないよ」

スナイパーと絹江は、逢瀬の日に書店に立ち寄り、筋肉関連の雑誌を閲覧するのが慣例行事となっていた。

スナイパーにとって、男の隆起した筋肉を見ても何の関心も示すことはないが、こと絹江の手前、興味を覗かせ追従する素振りを見せるしかなかった。

「あ、あの、き、今日はどこにも行かず、ここにいませんか?」

臆病者の絹江が、果敢にもスナイパーの上腕筋に腕を回し、小振りな乳房を押し当て誘惑を試みる。

「うん、いいよ。 でも俺の部屋にはテレビしかないから、退屈じゃない?」

そんな絹江の誘惑も虚しく、スナイパーは何の反応も示さない。

「ジミーさんがいてくれれば、テレビも何も必死ないです」

そう言うや否や、スナイパーの首に腕を回し抱きつく。

未通の少女が考え得る、最大限の愛情表現を炸裂させるが、またもや何の反応も表れない。

それもそのはず、スナイパーは未成年である絹江を社会人だと信じて疑っていないようだが、二人の年齢差は実に十七歳。

常に海千山千の娼婦ばかりを相手にしているスナイパーにとって、成人にも満たない少女に食指など動こうはずがないのだ。

顔に似合わず随分と積極的だな。

「どうしたんだい? 抱きつかれてちゃ、何も出来ないじゃないか」

「あたし、ジミーさんが好き。 大好きなの」

絹江がダイレクトに自身の気持ちを伝える。 ただし、厳密に言えばスナイパーではなく、スナイパーの筋肉が好きなのだ。 恋愛経験に乏しい少女は、それを恋だと勘違いしていたのである。

「はは、絹江ちゃんにそういってもらえるなんて光栄だな」

やれやれ、俺ってやつは・・・ また一人、女を虜にしてしまったのか。

娼婦との淫らな行為を終え『あたしゃ、あんたにすっかり惚れちまったよ。 また街で見かけたら、声掛けておくれよ』別れ際に必ず交わすであろう社交辞令を、スナイパーは鵜呑みにし、自身の魅力であると過大評価していたのだ。

そんなスナイパーが真実の恋愛に巡り会えることは、永遠に訪れないであろう。

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