表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説のスナイパー  作者: まこと
100/162

No.100

初めて恋人が、自身の為に作ってくれた手料理が目の前にある。

言葉に出来ぬ多幸感が全身に溢れ、少しでも口を開けば嗚咽が漏れてしまいそうだった。

「さ、遠慮しないで食べて下さいね」

絹江が笑顔で促す。

「ん、ああ」

スナイパーも言葉少な気に頷く。

じゃがいもに箸を刺し口に運ぶ。

シャリ! じゃがいもがまだ半煮えであった。 そんな未加熱処理の料理を、振る舞われたスナイパーの胸中たるや如何許りか。

う、うまい。 なんて優しい味なんだ。

未加熱処理状態の料理に言及することすら、無粋な行為に思えてくる。

「美味しいですか?」

スナイパーを不安気に見つめる。

「うん・・・」

鼻を啜り、半煮えのじゃがいもを口に運ぶ。

「よかった。 あたし、最近になってお母さんから料理を習ったんです」

「うん・・・」

次第に嗚咽へと変わり、テーブルに涙が零れ落ちる。

「うまい・・・ うまいよ・・・」

絹江は泣きながら肉じゃがを食べるスナイパーの姿を見ても何も問いかけず、ただ笑顔で見守っている。

この味だけは絶対忘れちゃ駄目だ。 殺人者としての自分に戻り、寂しくてどうしようもない時は、またこの味を思い出せばいい。 こんなこともう二度とないんだ、一生分の幸せを早く食べないと。

この瞬間を忘れないように、この味を忘れないように、目の前の少女を忘れないように、必死に肉じゃがを口に運ぶ。

少女が作った、たった一度の付け焼き刃に等しい料理を、一生分の幸せと評する。 暗殺とはそれほどにまでに人の心を蝕む世界なのだ。

今やスナイパーは料理にすら手を付けず、ただむせび泣くだけだった。

スナイパーが長年渇望してきた夢の暮らしが今叶ったのだ、涙を流しても誰も責めようはずがない。

「絹江ちゃん、ありがとう。 俺、今日のことは絶対忘れないよ」

止めどなく流れる涙を拭いながら、夢を叶えてくれた絹江に謝辞を述べる。

「ううん、気にしないで。 ジミーさんが望むのなら、食事くらい毎日でも作りに来ますからね」

「ありがとう。 俺、こんな暮らしにずっと憧れてたんだ・・・ 夢が叶ってうれしいよ・・・」

スナイパーは、少女の目をはばかることなく顔を覆い泣きじゃくった 。

神から許されし、一生に一度きりの蜜月の瞬間であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ