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誰なんですか"陸中リク"って?

昨日更新できなくてすいませんでした。

<アヤ>




 "それ"に一番最初に気付いたのはオレだった。

 常に周囲へと何重にも張り巡らせている、見えないほどに細い影の感知網。

 その最外円部が魔力の反応を知らせる。

 しかし、それだけじゃ普段は気にも留めない。

 魔力を持った能力者(ウェイカー)がこの網に引っかかるのは日常的なことだ。

 だが今回は引っかかってからの動きが急激だった。


 引っかかった魔力、それがいきなり爆発するように膨れ上がる。

 それと同時に真っ直ぐ、こちらへと"何か"が向かってきた。


「ッ!」


 あまりにも急な攻撃。

 敵かどうかを判断する前に行われた先制攻撃。


 ――まさかオレが後手に回るだなんてな。


 心の中で舌を巻きつつ、即座にその攻撃へと対応する。

 張り巡らせていた感知網を立体的に動かし、近くの建物や道を行く人々へと向ける。

 そいつらに気付かれないように影を巻き付かせておく。

 ここは市の中心部へと向かう大きな道で、夕方のこの時間には人通りが多い。

 飛んでくる攻撃が何であれ、何もしなければ被害が必ず出る。


 ――でも、これで何があっても助けられる。


 何が起こるかわからない現状。

 まず何よりも優先すべきは周囲の保護だ。

 そうして保護を完了させたオレは、次に一番近くの奴らに目を向ける。

 未だ事態に気付かない2人――レイとヒトミ。


「わっ!」

「キャッ!」


 それぞれの腰を抱き、両脇に片手で抱き上げる。短い悲鳴が漏れるが気になどしてられない。

 次にその奥にいるガキとメイドに目を向けるが――


 スッ


 ガキの手が持ち上がり、制止させられる。


「こちらは大丈夫、貴方はその2人を」


 その目はしっかりと攻撃が飛んでくる方を見据えていた。

 先程まで隣に立っていたメイドも、今はガキを庇うかのように前に立ち、片手に木刀を下げていた。

 そいつの目もまた、ガキと同じ方向を刃物のような鋭い瞳で睨み付けている。


「……あぁ、わかった」


 オレはその言葉に従って2人を抱えたまま飛び退り、距離を取る。

 実際、オレの『影繰(かげくり)』を使わず2人を助けることは不可能だったから都合がいい話だった。


 ――オレの超能力(レヴァリー)について知られるわけにはいかねぇからな。


 そんなことを考えながら安全と思われる位置まで下がる。




 直後、先程まで俺達がいた場所に巨大な"それ"が襲来した。




 ☆★☆

<岩神タツヤ>




「ッ!」


 僕がその魔力の発現に気付くことが出来たのは偶然だった。

 その魔力の発生源は中性的な白髪の少女。

 いつの間にか現れ、師里さんと東堂さんと親しげに話していた不思議な人。

 2人から"アヤさん"と呼ばれていたこと以外はほとんどわからず得体がしれない。

 会話の内容から辛うじて能力者(ウェイカー)だということはわかっていたが……。

 杜宮高校の制服を着ていたことから生徒だと思っていたのだが、その認識も今となっては自信が無い。

 その身から放たれた魔力は非情に緻密に、細やかに制御されている。

 あまりにも自然すぎて、本当に魔力が放たれているのかも曖昧になるほどだ。

 何か焦りでもあったのか、僅かに乱れた発現を見逃していたら僕も気付かなかったかもしれない。

 今も気を抜けば見失ってしまいそうになる。

 だがそれでもこの人の実力の高さはわかる、わかってしまう。

 どれほどのものか測ることは出来ないが、確実に言える事は見た目通りの実力ではありえないということだ。


「貴方は――」


 しかし続く『一体、何者なんですか?』という問いは口の中で言葉に出来なかった。

 なぜなら、どうしてこの人が突然に魔力を発現させたのかという原因に僕自身も気づいたからだ。



「サトネッ!」



 僕の言葉にサトネが無言で行動に移る。

 すぐさま背中に隠した木刀を取り出し、僕の前――攻撃が飛んでくる方角を向いて立ち塞がる。

 そう、攻撃。

 風切り音が飛来する"なにか"を告げる。

 その先には僅かながらに魔力が感じられるが、この距離では正確には掴めない。


「わっ!」

「キャッ!」


 その時、短い悲鳴が聞こえる。

 悲鳴が聞こえた方を横目で見ると師里さんと東堂さんがアヤさんによって両脇に吊るされていた。

 2人を吊るしたアヤさんが更に僕たちの方に目を向けてくる。

 なるほど……。


「こちらは大丈夫、貴方はその2人を」


 アヤさんの意志を無言で汲み取り、その動きを手で制して答える。


「……あぁ、わかった」


 そう答えアヤさんが飛び退くのと同時に、飛来してきた"もの"が眼前に迫る。


 それは鉄球。


 直径数メートルはありそうな鎖つきの巨大鉄球が振り降ろされるようにして、斜め上から僕たちの元に迫ってきた。

 表面には鋭く尖りった凶悪な棘が生えており、その質量だけでない殺傷力も尋常ではないのが一目でわかる。

 間違ってもこんな夕方の街中で宙を舞うはずの無い、非日常のもの。

 しかし、そんな突然の非日常的な事態にも僕は焦らない。

 焦るはずもない。

 そもそも、僕の日常はこっち側(・・・・・)


「サトネ、斬れ……いや待てッ、払え!」


 目の前のサトネに出した指示を出す。

 しかしその指示をギリギリで気付いたある事(・・・)により咄嗟に翻した。


「……了解しました。サトネにお任せあれ!」


 けれども、そんな瞬時に翻った指示に対してもサトネは瞬時に答え、対応する。

 両手で木刀を握りこんでその場で一回転し、その勢いを乗せて迫りくる鉄球に向かい飛び上がった。


「坊ちゃんに攻撃するなど、万死に値する愚行ですよ!」


 本気かどうかわからない軽い調子で言いながらも、掬い上げるようにして木刀を下から上へと振り上げた。

 ゴウッと周囲に突発的な風を巻き起こしながら振るわれた木刀は、上方から迫ってきていた鉄球にぶち当たる。

 空中でぶつかり合う鉄球とサトネの振るう木刀。


 質量差は圧倒的に負けている。だが、質量差如きにサトネは負けない。

 うちのメイドはそんなにやわじゃない。


 一瞬。

 ぶつかり合った瞬間こそ拮抗したかに見えた。

 だがそれもすぐに崩される。


「セイヤッ!」


 グッとサトネの両腕に力が込められたかと思ったら木刀は振り切られ、鉄球はまるでパチンコ玉のように弾かれて飛んでいく。

 しかもそれは適当な方向にではない、鉄球に付いた鎖が伸びる方向――つまりそれを放った者がいる方向に正確に跳ね返したのだ。

 見事なカウンター。

 指示したこと以上のことをやってのける。

 僕に対する盲信が欠点とはいえ、やはりサトネは僕の元にいるみんな(・・・)の中でも際立って優秀だ。

 特に戦闘に関しては右に出るものがいない。


「ッ!? 坊ちゃん、あれはもしや!」


「あぁ、サトネの考えている通りだと思う」


 そのサトネが着地すると同時に僕に声を飛ばしてくる。

 打ち合ったことでサトネも何か感じ取ったようだ。短く肯定しておく。

 そして、僕たちの考えがあっていたことを示すようにして、宙を飛ぶ鉄球にある変化が起きる


 ボゥンッ


 と鉄球が煙に包まれ、次の瞬間には鉄球が消え代わりに煙の中から少女が飛び出す。

 まだ幼い風貌のその少女はガリガリに細い体にぼろ衣だけを纏っていた。

 髪もザンバラに乱れ、手入れなど一度も受けたことが無い荒れようだ。

 まるで捨て犬や捨て猫の様な有様を晒している。


「やはり『アーティファクト型』特災か!」


 その変化を確認し、自分の考えが正しかったと確信した。

 サトネと同じアーティファクト型の特災。

 物に魔力が宿り、特災となったタイプの特災だ。

 日本だと付喪神なんて呼ばれる事が多いか。

 民間でよく報告される特災として広く知られているタイプで、別段珍しくない。

 今問題とするべきは――


「やっぱりだ! 『使役テイム』を受けている!」


 少女の胸から延びる魔力パスを、遠目であったがハッキリと目視で確認する。

 使役者と使役特災を結ぶ契約の魔力パスだ。

 それが示すことは1つ。つまりこの少女、鉄球の特災は誰かに使役されて攻撃を行ってきたということだ。


「ッ!」


 不と胸から視線を上にあげたら少女と目が合う。

 その瞳に……僕は思わず動きを止めてしまった。


 ――少女は、淀んで濁った様な絶望色の瞳に恐怖を滲ませていたから。


 動きを止めてしまった僕から視線を外し、そのまま裸足で一目散に少女は駆けて逃げて行く。

 その方向は攻撃が飛んできた方向だ。

 使役者テイマーの所へと戻るのだろう。


「ふざけてる」


 僕の口から感情が抑えられず言葉が漏れる。

 心を占めるのはただひたすらに純粋な"怒り"。


「特災だからって何でもしていいわけないだろうが、『使役テイム』の力を持つなら尚更だッ!」


 あの瞳。

 少女のあの瞳を見ればどれほど劣悪な環境に置かれているのか想像するのは難しくない。

 同じ『使役(テイム)』の超能力(レヴァリー)を持つ者として放っておけない、放っておいちゃいけない。

 人権もない特災だからって、粗末に扱っていい道理なんてない。

 彼らだってそれぞれ個人の意思を持っているんだ。


「追うぞ、サトネ!」


「勿論です、坊ちゃん。坊ちゃんに弓引いたこと、サトネが死ぬまで後悔させてやります」


 僕たちは走り去るその小さな背中を追って駆け出した。



 ☆★☆

<師里レイ>




「な、何が起こったんですか一体」


 まさに一瞬。

 一瞬の間に様々なことが起こった。

 普通に歩いていた途中でいきなりアヤさんに吊り上げられたと思ったら、そのまま急な動きで元いた場所から離れるし。

 元いた場所に目を向けたらサトネさんが空中で巨大なトゲつき鉄球をぶっ飛ばしてるし。

 ぶっ飛んだ鉄球が小さな女の子に姿を変えるし。

 岩神君とサトネさんはその子を追いかけてくし。

 いや、自分で言ってても良くわかんないや。

 まぁとりあえず――


「アヤさん、そろそろ降ろしてくれませんか?」


 こんな風に腰を掴まれて横に抱えられてると、スカートが捲れてないかとかちょっと気になる。

 そんなに丈は短くないつもりだけど。


「あぁそうだな、とりあえず敵はアイツらに任せて――ッ!?」


 周囲に視線を走らながらも降ろしかけてくれたアヤさんだったが、唐突にその言葉が途中で切れて再び視界が急速に移動する。

 目に移る景色がどんどんと流れていく、それは横にだけじゃなく普段あり得ない縦方向にも流れていった。

 だがほんの数秒でその目まぐるしい移動は終わり、ドサッと少々乱暴に地面へと落とされる。


「イタッ! うぅ~、アヤさんいきなり何するんですか!」


「……」


 不慣れな急速移動に耐え切れずグワングワンとする頭を押さえながらアヤさんに文句を言う。

 だが、アヤさんは私の文句など意に介さず、床へ腹這いになり眼下を見下ろしていた。


 そう、眼下。


 不思議に思い周囲を見渡してみると、どうやらここはどこか近くのビルの屋上らしいとわかる。

 ――え、一瞬でこんなとこまで駆け上がったの?

 しかも私とヒトミの2人を抱えたまま。


 やっぱりこの人もちょっとおかしいよね。


 そんなことを再確認しつつ、そのアヤさんの様子を窺う。

 すると信じられないことにアヤさんの表情は焦りを見せ、額には冷や汗を流していた。

 いつも飄々としてふざけているアヤさんらしくない、初めて見る表情だ。



「おいおいおい、なんだってアイツがこんなとこにいるんだよ」



 その口からそんな声が漏れる。

 僅かに震えている気がしたのは気のせいかどうか。

 しかし、アヤさんが何にそんな怯えた様子を見せたのか気になり、アヤさんの横に向かう。

 アヤさんに倣って腹這いになりながら眼下を見下ろす。

 視界に市の中心部へと向かう道幅の広い道路が映る。

 そこには先ほどの騒ぎに驚いたのか、通行人や近くの建物から出てきた多くの人々がひしめいていた。

 けれど、アヤさんの視線はその人だかりには向いていなかった。

 視線が向いていたのはとある建物の影、人だかりから少し離れた場所に隠れるようにして立っていた1人の男の人に向かっていた。

 濃紺に染められた、どこか軍服を彷彿させるデザインの服を着たスラっと背の高い人。

 顔立ちはまるでモデルや俳優の様に整っている。


陸中くがなか……リク……」


 陸中リク?

 それが名前なのかな。

 アヤさんがそんなに怯えるほどの人とは思えないんだけど。

 そんなことを思いながら少し集中して、魔力を見てみる。

 しかし、特に変わったところは見当たらない。

 岩神君よりも巨大な魔力を持っているからAランク以上なのだとは思うが、それだけだ。


「アヤさん、誰なんですか"陸中リク"って?」


 だから隣のアヤさんに問いかける。

 これ程にこの人が怯える理由が見えてこないんだ。


「アイツは……アイツは"特安"なんだよ」


「特安?」


 聞いたことのない名称だ、なんなんだろう。




「特安は『特殊安全警察』の略だ。犯罪能力者(ウェイカー)に対してのみ動く、国家の犬。――公式に殺人を認められている連中。そのトップなんだよ、アイツは」

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(次回は水曜日~木曜日に更新予定です)

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