ショータ、今度捕まったら確か免停でしょ?
すいません、6日ほど更新が滞ってしまいました。
言い訳させてもらうと、先週の土日にあるイベントに行ってきたのですけどそこで風邪をもらってきてしまったみたいでずっと寝ていました。
体調も戻ってきたので更新は通常通りに戻せそうです、お待たせして申し訳ありません。
「ど、どうします? あの女神は全く役に立ちませんよ!」
「大丈夫、これ程の強い未来ならもうすぐ……!」
焦って写楽さんに尋ねたが、返ってきたのはよくわからない答。
「どういう意味ですか?」そう訊こうと口を開きかける。
その時だった。
ブォォォォォン
と遠くの方から唸りをあげる重低音がかすかに聞こえてきた。
それと同時に――
ドンッ
と左手側の蛇たちが一斉に宙へと舞い上がった。
蛇たちが空へと上がったことで、蛇に隠されていた道路が露わになり、一本の道が出来る。
その道を ブォォォッ とエンジン音を上げながら一台のミニバンが突っ込んできた。
真白な車体の側面には『失せモノ探します! サードアイ』とポップな字で描かれている。
「オラァ! もういっちょ!」
そのミニバンの助手席、その窓から上半身を外に乗り出した男の人が声を張り上げる。
再び ドンッ と私達の目の前にいた蛇たちが宙に巻きあげられる。
そのことで私達の所まで道が出来上がった。
そうして出来上がった道をミニバンが突っ込んでくる。
タイヤを キキッー と軋ませ、スリップ気味に私達の目の前で急停止するミニバン。
「早く乗ってください! 急いで!」
間髪入れずに横開きの後部ドアが開き、中から1人の女性が私達を呼び込む。
「え……?」
「早くっ!」
「は、はい!」
突然のことに止まってしまった私に再度強く声がかけられた。
その言葉に従い、急いで乗り込む。
既に写楽さんとヒトミの2人は車内に乗り込んでいた。
……いつの間に乗ったの?
そんな暢気なことを考えていたが、私の背後で バンッ とドアが閉まると同時に――
ブォォォォ
とエンジンが唸り、急激に加速した。
「うわっ!」
まだ座っていなかった私は強引にシートに座らせられる。
「おい嬢ちゃん! ちゃんとシートベルト締めとけよ……ちょっと揺れるぜ! ケンタァ!」
「応よ! 吹き飛べやぁぁぁ!」
運転席に座る金髪の男性が私に短く注意を促し、助手席の男に声を掛ける。
すぐさま先ほどと同じ様に窓から上半身を乗り出し、視線を前へと向ける助手席の男。
すると三度、蛇たちが宙に吹き飛んだ。
「かっ飛ばすぜぇぇぇ!」
金髪の男がアクセルを強く踏み込み、助手席の男が作った道へと突っ込む。
あまりもの加速で体がシートに沈み込んだ。
しかし、そのおかげで蛇の包囲は抜けられた。
ほんの数秒ではるか後ろにまで蛇を引き離す。
あまりもの突然の事態。
ここに至るまで1分ほどしかかかっていなかった。
☆★☆
「彼らは私の所の社員なのよ~」
一先ずの危機を脱した私に、写楽さんが彼らを紹介してくれた。
「運転してる金髪で目つきの悪いのがショータ。その隣の背の低いのがケンタ。そして私達の後ろ、3列目に座ってるかわいこちゃんがヒナタちゃんね」
紹介された順に目を向ける。
運転席に座るショータと紹介された男性は金髪にタンクトップ、耳にはピアスと少し怖い印象だ。
助手席に座るケンタと呼ばれた人は反対に体が小さい。私よりも小さいんじゃないだろうか。少し童顔気味だからなおさら小さい印象が強い。
そして、3列目に1人で座っているヒナタさん。ピシッと細身のパンツスーツを着て、ビジネスタイプの細身の眼鏡をかけた人だ。どこかの敏腕秘書って感じでカッコいい。
「目つき悪いっていうな!」
「チビじゃねぇよ! お前らがデカいんだよチクショウ!」
「か、可愛くなんてないですから自分は!」
その3人が怒り声で文句を言ったり、少し泣き声だったり、恥ずかしそうに謙遜したり三者三様だ。
「つーか助けにきてやったっていうのにその言いぐさかよこの社長は……」
「あら、すっごく助かったわよ~。ありがとね」
ショータさんがぼやいた言葉に笑いながら写楽さんが答える。
「ですが、どうして助けに来れたんですか? 襲われたのだって本当に突然だったのに……」
その時、隣に座るヒトミがそんな疑問を発した。
言われてみれば確かに不思議だ。
もしかして後ろからずっとついてきてたのかな?
「あぁ、それは私の超能力です」
答えたのは3列目にいるヒナタさんだった。
「私の超能力は『未来視』、10分先のことが見えるんですよ。――ただ、必ず見えるわけではないんですけどね」
「そ、ヒナタがいきなり『社長が危ない!』とか言ったからかっ飛ばして来たってわけだよ」
シシシッ とハンドルを握ったまま笑うショータさん。
「すごい! そんな能力があるんですね! ですが『サードアイ』は目に関する超能力を持った人たちしかいないと聞いたのですが……?」
「うん、だからヒナちゃんの超能力は正確には『予知眼』だし、ショータのは『千里眼』、ケンタのは『念動眼』っていうのよ」
ヒトミの質問に笑いながら答えてくれる写楽さん。
でもいいのかな?
こんなにかんたんに喋っちゃっても。
「ふふ、そんなに心配しなくても大丈夫よレイちゃん。彼らは私の会社の中でもだいぶ有名な方だから、超能力も結構広まっちゃってるし隠す必要無いの」
「え?」
そんな風に思っていると写楽さんが声を掛けてきた。
心でも読めるの? 写楽さんの『神眼』は。
「……心でも読めるんですか?」
「ううん。でも表情を見てれば大体わかるわよ」
「年の功ってやつっすね、シシシッ!」
「……ショータ?」
「……すいません、調子乗りました」
「三ヵ月減給ね」
「そんな殺生な!」
軽口をたたいたショータさんは三か月間の減給が決まってしまったらしい。
哀れではあるが自業自得。
女性に年の話を振るなんてさ。
☆★☆
「ところで、今はどこに向かってるんですか?」
「んぁ? あぁ、今は高速道路に乗ろうと近くのインターチェンジに向かってるんだよ。
アンタたちは『特究』に行かなきゃなんねーんだろ?
電車よりは時間がかかるが、電車だとまたあの蛇どもが襲って来た時周りがアブねーかんな。
今からだと着くのは10時くらいか、2時間くらいはくつろいどいてくれや」
私の質問にハンドルを握ったままのショータさんが答えてくれる。
「でもあの蛇たち、やっぱり襲ってきますかね?」
「あそこまで執着してたからたぶんね~。レイちゃん、がんばってそれ持っててね」
私を挟んだまま、ヒトミと写楽さんが言葉を交わす。
「でも、天叢雲剣に関連する蛇って言ったら〝アレ〟ですかね?」
「十中八九そうでしょうね~。本人が出てくるなんてことは無いと思うけど、眷属ってだけでも厄介そうよね~」
ヒトミの言葉に写楽さんは困ったように手を頬にあてる。
「〝アレ〟って、やっぱりヤマタノオロチ?」
「あら、レイよく知ってたわね」
「まぁ、一般常識程度にね。だいぶ有名だし」
大昔、スサノオノミコトが退治したという大蛇。
今私の手の中にある天叢雲剣はその尻尾から出てきたといわれていたはずだ。
道理で鞘に多頭の蛇が彫られてたわけだよ。
「とりあえず今度襲われても逃げに徹しましょう。
この剣を師里くんに届けるのが最優先です。
どちらも危険ではありますが、蛇神の眷属と吸血鬼の真祖であれば後者の方が危険度は高いので」
これからの方針を写楽さんが示し、車内のみんなが コクリ と頷いた。
ちょうどそれと同時に――
「よし、高速乗るぞ」
ショータさんがそう言って車が料金所を通過した。
車内にETCを通過した証明の電子音が ピコン と鳴る。
「っしゃ! 飛ばすぜ!」
言葉と共に
ドン!
と一気に加速する。
体がシートに沈み込んだ。
真っ暗な高速道路をどんどん速度を上げていくミニバン。
帰宅時間を少し過ぎたためか、前を行く車も後ろを走る車もない。
そのためか速度を緩める気配などみじんも見せずミニバンは走る。
……少しばかし怖い。
明らかに速度制限超過してるでしょ。
横を見ると、流石のヒトミも顔が少し青ざめている。
「ショータ、捕まらない程度にね」
その時、ヒトミと反対側に座る写楽さんが声を上げた。
「わぁってるよ社長!」
それを聞いているのかいないのか。
依然として速度は落ちない。
「ショータ、今度捕まったら確か免停でしょ?」
「……わぁってるよ社長」
しかし、写楽さんの二言目によって著しく速度は落ちた。
まだ少し早いが、常識の範囲内だ。
「全く、他に人がいなくても速度を出していいってわけじゃ――」
しかし、そんな写楽さんの小言は最後まで言い終わらなかった。
ドン!
と再び爆発的な加速を車が起こしたからだ。
「イッタァ~舌噛んだ……ちょっとショータ!」
「バッカ! んなこと言ってる場合じゃないっすよ!」
「え?」
「後ろ見ろ! 後ろ!」
焦ったようなショータさんの声に、ショータさん以外の5人が振り返る。
そこには――
「「ヘビぃぃぃぃ!」」
2車線の道路、そのすべてを埋めるほどの巨大な太さを持つ白い大蛇。
こんなミニバンなど丸呑みできてしまうほど大きい。
まるでマンガだ。
その大蛇が後ろから迫ってきていた。
とんでもなく巨大だというのにその動きは滑らかで、物音ひとつ立てず追ってくる。
「アクセル! アクセル! アクセル踏んでぇ!」
「うっせぇ! 目一杯踏んでるよボケ!」
私の声に余裕のない返事を返すショータさん。
「なるほど、他の車がいないとは思っていましたが蛇神が結界を張って侵入を防いでいたのかもしれませんね。
多分アチラにとっても他の人を巻き込む気はないのでしょう。
ですがこれほどの巨大な結界を張れるとはさすが神ですね」
「……ヒナちゃん、なんでそんなに冷静でいられるのかしら」
最後列で淡々と冷静に分析していたヒナタさんに写楽さんが乾いた笑顔を浮かべる。
私の横のヒトミはスマートフォン弄ってるし。
もしかして写真でも取る気なんじゃないのかしら、コイツ。
「ま、とりあえず攻撃してみますね」
「バカ! 逃げるって話だっただろうが話聞いてろ!」
助手席の窓を開けて身を乗り出そうとしたケンタさんを。片手で車内に引き戻すショータさん。
グッジョブ!
刺激するのはどう考えても得策じゃない。
車内が一気に騒がしくなる。
こうして、世にも奇妙なヘビとミニバンのカーチェイスが始まったのであった。
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