えっとすみません、誰ですか?
<師里アキラ>
「(おい所長、この女子は誰なんじゃ一体)」
「(いやいや、それが全く記憶にないんだっての)」
「(よーく思い出すんじゃ、お主の本名を知ってるってことは直近の知り合いではないのか?)」
「(だったら久しぶりって言うのはおかしくないか? それにほぼ毎日お前と一緒に行動してんだから、この2年間での知り合いならお前も知っているはずだろ)」
「(しかし儂はこのような女子知らんな)」
「(と、なると)」
「(勇者時代よりも前の知り合いという可能性が高いのではないか? あの頃の知り合いなら『師里アキラ』の名前を知っているわけがないからの)」
「(でもそれこそないっての。俺、中学・高校・大学と女の子の友達なんて1人もいなかったんだから)」
「(……お主、女子の友達はおらんかったのか)」
「(なんだよ! ニヤニヤした目で俺を見るな!)」
「(に、ニヤニヤなどしておらんわ! フン、良かったな、今は儂という美少女の友達がおるぞ)」
「(ウッセー美少女(偽))」
「(な、何が(偽)じゃ!)」
「(中身はBBAじゃねーか!)」
「(な、なにを! そんなに年増は嫌いか!)」
「(いや、別に好きとか嫌いとか言ってねーだろ)」
「(知るか! 勝手にせい!)」
ぷいっと怒りながら横を向いてしまうスズ。
チョットした失言で俺は優秀なブレインを失ってしまったみたいだ。
「あ~、お久しぶり……ですね」
仕方ないので、とりあえず目の前でワタワタしている女性に向かって声をかける。
「お、お、お、お久しぶりです!」
顔を赤くして汗もかいているし、さっき急いで来たせいで息もマトモに継げないのか言葉がつっかえている。
あんまり長く喋っても酷だろうな、うん。
シンプルにいこう。
「えっとすみません誰ですか?」
「もっと訊き方があるじゃろうがお主は!」
スパーンと隣のスズが飛びあがって俺の頭に平手を食らわしてきた。
「すまぬ! この男の知り合いならわかっておるかもしれぬが、人の心の機微などにはとんと疎いのでな! そなたを傷つける意図などは全くないはずなんじゃ、多分!」
「あ、いえ、大丈夫です。様子を見てたら、なんとなく覚えてないかなって気はしてたので」
「そうか、ならば良いのだが。おい、所長! さっきのはちと配慮に欠けておったぞ、謝っておけ」
「ッテーなったくよぉ。えっと、ごめん。俺なりに配慮したつもりだったんだけどさ」
「配慮してあれとか……今背筋がゾワッとしたわ。お主、本格的にコミュニケーション能力に難があるのではないか?」
「ウッセーな、ちょっとした失敗じゃねーか。そもそもお前が手伝ってくれれば失敗しなかったのによ」
「なっ! ま、まったく、いつまでも儂に頼り切りでは困るぞ、まったく」
でもなんだかんだ言って頼ると助けてくれるんだよなコイツ。
今だってちょっと嬉しそうだし。
「まぁ、訊き方に問題はあったがこの男はそなたの事を忘れてしまっているそうなのだ。すまんが自己紹介をしてもらえぬか?」
「あ、そ、そうでしたね! すいません、私は美浦チカゲと言います。美しいに浦和の浦で美浦」
ミウラ・チカゲねぇ。
さっぱり心当たりがない、
「どうじゃ、思い出せそうか?」
「いや、さっぱり」
「えぇ、そんなぁ~」
泣きそうな目をする美浦さん。
いや、なんかすいません。ホント。
あれ、でもなんだかこの泣き顔、どこかで見た気が……。
「そもそも、そなたらはいつ会ったのじゃ? それを明らかにした方がいいのではないか」
「あ、それもそうですね。私達が出会ったのはその、9年前、高校生の時です」
9年前?
高校生の時?
何だろう、何か思い出しそうなんだけど。
喉元まで上がってきているのに、あと一歩というところで出てこない。
「うーん」
何とか思い出そうと美浦さんを見つめる。
すると、美浦さんは俯いてモジモジと片手でスーツの裾を弄り――
「あー!」
「わわっ?」
「何じゃ一体、いきなり大声を出して」
その仕草で思い出す。
いつも俯いて、制服の裾をモジモジと弄っていた少女。
何かとぼっちの俺の事を気にかけてくれた女子。
「アンタ委員長か!」
その言葉に俯いていた顔をハッと上げる美浦さん。
「思い出してくれたんですね」
そう言い、目元の涙を拭ってニコリと笑ってくれた。
☆★☆
「うーん、でもあの委員長が教師になってるとは」
「そんな……師里くんの方こそ能力者で特殊災害の対処してるだなんて、すごいですよ」
「いやまぁ、出来るからやってるだけだしな。大したことじゃねーよ」
「大したことですよ。誰にだってできることではありませんから。でも、高校生の時から師里くんはタダ者じゃない気はしてましたしピッタリな仕事だと思いますよ」
「んなこと言ったら委員長だって先生ってのはお似合いだと思うぜ、俺みたいなやつの事なんかも気にかけてくれてたしな」
「いえいえ、私なんてまだまだですよ」
俺は応接室の椅子に座り、委員長こと美浦さんと懐かしい気分で会話をしていた。
だがビックリだ。
まさか仕事で来た母校で昔のクラスメイトが教師として働いていたなんて。
話してると思いだす「私には出来ないよ、すごいな~」と何かと俺の事を褒めてくれたこと。
今でも変わらずに俺のこの力を認めてくれる。
ホント変わってないな。
けれどもそんな会話を打ち切るように――
「ゴホンッ!」
ワザとらしい咳ばらいが聞こえてきた。
「どした? スズ」
「のぅ、所長よ。お主は女子の友達はいないと言っておきながら、そちらの美浦嬢とはずいぶんと仲良く話をするのじゃな。……儂の事を放っておいて」
「す、すいません! つい懐かしくて、えっと――」
そのスズの言葉に俺よりも早く委員長が謝る。
「スズじゃ。姓は無いので気軽にスズと呼んどくれ」
「あ、はい、よろしくお願いしますスズさん」
「うむ、よろしく頼む」
鷹揚に頷くスズ。
……20半ばの女性が頭を下げているのに、鷹揚に頷いてる10代の少女って絵面はどうなんだろう。
「委員長、別にコイツにそんなに頭下げなくていいぞ。見た目通り10代で委員長よりも年下だからな」
「いえいえ、社会人としてそんなことはできませんよ~」
「この男の知り合いとは思えぬほどにしっかりした者じゃの。おい、所長。本当にお主の知り合いなのか?」
「あぁ、残念だがちゃんと知り合いだよ」
隣に座るスズに目の前の女性を紹介する。
「この人は美浦チカゲ、俺が高校2年と3年の時のクラス委員長だった人だ」
「ほぅ、しかしならば何故名前を聞いた時に思い出せなかったのじゃ?」
痛い所を突いてきやがる。
「あー、俺、委員長の事は『委員長』としてしか認識してなかったし、呼ぶ時もそう呼んでたから名前おぼえてなかったんだよ」
実際、今日初めて名前を知った気もするし。
「そうですね、言われてみれば名前を呼ばれた覚えがありませんでした」
ニコニコと笑顔を浮かべながら言う委員長。
笑顔だけど罪悪感がハンパない。
高校時代あれだけ世話になっておきながら、名前すら憶えてなかったって。
「名前すら憶えてないってお主……」
「おい、そんな目で俺を見るな。思い出せたんだからいいだろう」
「えぇ、思い出してもらえたので十分ですよ」
「……美浦嬢がそういうのであればいいのだがな、しかしお主達はずいぶんと仲が良いようじゃの。なんじゃ、高校時代につ、つ、付き合ておったのか?」
何を言っているんだコイツは?
「あり得ません! わ、私と師里くんが付き合ってたなんてありません!」
否定しようと口を開きかけたが、それ以上に早く委員長が強く否定した。
……いや、確かに付き合ってなかったよ。それは事実だけど、これほど強く否定されると少し傷つくな~。
「あぁ、委員長が言った通りだ。女子の友達がいなかったて言っただろ、それなのに彼女なんかいるわけないじゃねーか。委員長とはただのクラスメイトだよ、遊んだ事もないしな」
「そ、そうか! いや、べ、別に気になったわけじゃないがの。ただ、お主が儂に嘘を吐いたのではないかと思っただけで――」
「そんなしょーもない嘘をつくかっての」
見栄を張って女子の友達がいたって嘘つくことはあっても、なんで逆にいないって嘘をつく必要があるんだよ。
そんな俺達のやり取りを見て委員長は笑顔を浮かべる。
「フフフ、仲が良いんですね」
「そうじゃろう! 儂達は名コンビだからの!」
「何が名コンビだっての、ただの腐れ縁じゃねーか」
「そっかー、名コンビか……」
少しさびしげにつぶやく委員長。
いやいや、俺は否定したじゃんか。
「師里くん」
その笑顔のまま委員長が俺を見つめてきた。
「良かったね、信頼できる人が出来たんだね」
「委員長……」
「スズさん、師里くんをお願いします」
「言われんでもそうするがな。この男は儂がついてないとどうしようもないからの」
「何言ってやがる!」
「ウルサイわこの遅刻常習犯!」
「フフ、本当に仲が良い」
そう言って笑う委員長の笑顔に毒気が抜かれてしまう。
静かになった俺達に向けて委員長が笑顔のままに
「さて、それじゃ結構時間使っちゃいましたし、早速この学校に出現した特殊災害ついてのお話を……」
言ったその瞬間だった――
ドクン
強い魔力の波動を体が駆け抜けた。
ガタンッ
と音を立てて椅子から立ち上がる。
「え、何があったんでしょう?」
「おい委員長! 特災のあった場所ってどこだ!?」
何が起こったかわからずに戸惑う委員長に必要な事だけ強く問いかける。
「え? えっと、体育館の女子更衣室ですけど……」
「スズ!」
「わかっておる、行くぞ!」
「ちょっ、ちょっと2人とも、何があったんです?」
応接室から駆け出そうとする俺達に委員長は声をかけてきた。
その声に一度止まり、振り返る。
「『B&Bトラブルバスターズ』の仕事が始まるんだよ」
それだけ言い残し、先を行くスズの背中を追いかけた。
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