コピー如きがオレに勝てるわけねぇだろうが!
キンッ キキンッ
真白な廊下に剣激の音が響き、宙に火花が散る。
オレ――こと服部アヤ――と忍者装束の真っ黒い『影』の攻撃がぶつかり合っているせいだ。
スズと仮面の女が消えた後、俺達もすぐに戦闘へと突入した。
それぞれの獲物を振るいながら、高速で絶えず移動していく。
地面スレスレにしゃがみ込みながらだったり、天井にへばりつきながらだったり、あらゆる場所をだ。
オレってこんなにトリッキーな動きしてるのかよ、ちょっと気持ち悪いな。
自分の戦い方を初めて見た、率直な感想。
なんだろう、両手両足を使って壁や天井に張り付いている姿はどこか虫っぽい。
キィンッ
と一際大きな衝突音を上げ、互いの武器が跳ね上がった。
それを機に同時に距離を取って、廊下へと着地する。
だが、それも一瞬。
『影』は影で作り出した苦無を両手に握り、距離を詰めてくる。
一瞬で距離を詰められ、順手に持った苦無を突き出すようにして至近距離で繰り出される連撃。
それを体を動かして避けたり、避けれないものは手に持った苦無で弾くなどして捌いていると――
「……おっと!」
死角となる顔の直下。
そこからオレの視界に入らないように計算された蹴撃が、不意に襲い掛かる。
だがオレは、その不意打ちをバク転で間一髪避けた。
「いいね、相手の不意を突く死角からの攻撃。
結構、至近戦闘だと足元って視線を向けないもんな。
――でも、惜しい」
奇襲はオレには効果的ではない。
オレが視線には頼らず、感覚で攻撃を避けてるので死角が少ないというのが一つ。
もう一つは『影』の攻撃の仕方が悪い。
先程までと違い、移動せずに足止めに特化したような連撃じゃ『何か仕掛けています』っていうのと同じだ。
視線を攻撃直前まで逸らさなかったのだけは評価できるけど……いや、目は無いけどさ。シルエットだけだから。
まぁ、視線で攻撃を悟られることはなかったけど、十分〝何かある〟と予想できたってこと。
「今度はこっちの、番だぜ!」
バク転を終え、姿勢を立て直すのと同時に懐から取り出した金色の手裏剣を『影』に向かい投げ放つ。
4方向に尖ったオーソドックスタイプのそれは回転しながら、真っ直ぐに空を切って進む。
その数9つ。
それぞれが人体急所を的確につくコースだ。
『影』に人間の急所が通じるかはわからないけどさ。
しかし、飛んでくるそれらに対し『影』は グッ と姿勢を落としたかと思うと ダンッ と強く地を蹴った。
向かってくる手裏剣群に向かって、逆に近付いてくる。
悪くない反応だ。
手裏剣は銃弾のように視認できないほど高速ではない。
魔力によって強化された肉体で投げたところでそれは変わらない。
ならば――
キンッ キンッ
『影』は手に持った苦無で体の中心に向かって飛んできた4つの手裏剣を弾き、残りの5つは無理のない動きで避けきった。
――避けたり弾いたりすることも出来るということだ。
目標を失った手裏剣が『影』の背後へと飛んでいく。
そうしてオレの攻撃を全て受け流した『影』は速度を落とさず、オレへと急激に迫ってくる。
艶を消したような真っ黒な苦無の刃先をオレへと向けて。
「――でもま、予想通りだ」
迫る『影』から目を逸らさないようにし、焦らずオレは手に持っていたワイヤーを強く引っ張る。
トストストスッ
すると、どことなく軽い音が『影』から響いてきた。
同時に『影』は足を止める。
「うーん、音的には3つか?」
[……グッ]
オレはにやけながら問いかける。
けれど、その問いに『影』は答えず、代わりに背中へと手を回して何かを自分の背中から引き抜き、床へと投げ捨てる。
投げ捨てられたのは、先程『影』の背後へと飛んでいったオレの手裏剣。
なんで避けられたはずの手裏剣が『影』の背へと刺さっていたのか。
それはすごく簡単な仕掛け。
手裏剣に極細の見えにくいワイヤーを結んでいたのだ。
そのワイヤーで背後に飛んでいった手裏剣を操り、手繰り寄せて『影』の背中に当てた。
ただそれだけ。
手裏剣をただ飛ばすだけでは避けられてしまうので開発した技。
勿論、敵を倒すほどの威力は無いが奇襲にはうってつけだ。
人間相手ならば毒を塗っていれば倒せたりするし、結構有用だろう。
やらないけどさ。
あんまり、人と戦いたくないし。
「名付けて『忍法:蜻蛉返り』。
自在に、というほどにはまだ完璧には操れないけど、結構驚いただろ? ククッ」
[……]
無言。
『影』はオレの言葉に何の反応も見せずに ユラリ と立ち上がる。
そして――
ヴンッ
「……あっぶねぇ!」
『影』の体から延びる影が グニャリ と歪んだかと思うと、まるで立体のように床から持ち上がり、鞭の様に形を変えてオレの頭へ向けて振るわれた。
咄嗟にオレは頭を後方へと逸らす。
直後、鼻先を チッ と掠りながら凄まじい速度でその鞭が眼前を通り過ぎた。
オレはその鞭の動きを注視しながらも、頭を逸らした勢いのままに後ろへと跳び、距離を開ける。
数メートルの距離を取って『影』の様子を観察する。
『影』の背後にまるでタコの様に真っ黒な影の触手が何本もその鎌首をもたげている。
真白で明るすぎるほどに明るい廊下の中において、『影』の周囲だけがぽっかりと空いた闇の様だ。
だが、オレはこれを待っていた。
『影』が『影繰』――オレの能力――を使うことを。
オレは懐から再び別の武器を取り出す。
……ホント、アキラには世話かけたな。
心の中でアキラへと礼を言いながら取り出した武器は鎖。
否、ただの鎖じゃない。
鎖の先端には分銅の様な錘がつけられている。
『鎖分銅』。
そこそこに有名な忍者の武器。
先端についた分銅を敵に投げつける中・遠距離用の武器だ。
鎌の柄尻にこれがつけられた『鎖鎌』なんていう武器もあるが、これには鎌はついていない。
その代わりに鎖が長く、両端に分銅が付けられている。
オレはその鎖を、先端が地面に着くか着かないかの位置になるように調節し両手で持つ。
持ち方は親指を外に向け、手の甲を地面へと向けた鎖を下から握りこむ持ち方だ。
両手の間は50センチほどの距離を開けてある。
その手と手との間、50センチの間に調節して余分となった部分の鎖を〝U〟の字に垂らす。
そうして、鎖を掴んだ手に力を込めていく。
先端の分銅に向けて伸びていく鎖、それに力を伝達させるように。
最初は小さな揺れ。
地面スレスレに垂れていた先端部分の分銅が僅かに揺れる。
その揺れは徐々に大きくなっていき、数秒後にはオレの手を中心点にして回転運動へと移り変わっていく。
体の両側で ビュンビュン と回転する鎖が空気を裂き切る音が鳴る。
「さて、これで準備完了だ――来な」
瞬間、オレへと向かって幾条もの影の鞭が襲い掛かってくる。
「シッ!」
しかし、それをオレは手の中の鎖を操り迎撃。
生物的な動きを見せる影を、金色の分銅で打ち砕き、時には鎖で捩じりきっていく。
勢いに乗った鎖の先端、分銅部分は凄まじい速度を持っており残像しか見えない。
金色の残滓だけが宙を走り、膨大な数の影を出てきたそばから壊していく。
徐々に徐々に、影の出るスピードよりも破壊速度の方が上回り、分銅が本体の『影』へと近づいていく。
『影』も何らかの手は打っているようだが無駄。
この狭い廊下のスペースで、さらに光が満たされて弱体化している今、出来ることなんてたかが知れてる。
上下左右からの多重攻撃?
フェイントによる二段攻撃?
んなもん効くかよ。
「コピー如きがオリジナルに勝てるわけねぇだろうが!」
襲い掛かってくる全ての影を鎖分銅で破壊しつくし、影が補充される一瞬。
その一瞬でオレは片方の分銅を操る。
真っ直ぐ突き進む、直線的な軌道へと。
ビュゴッ
と一段と空気を裂きながら、飛んだ分銅は――
[ゴァッ!]
吸い込まれるように『影』の頭部に向かい、それを打ち砕いた。
「返してもらうぜ、オレの〝影〟を」
頭部を破壊され、動きの止まる『影』の体を両手の鎖でグルグルに巻いていく。
すぐに『影』の全身が見えないほどに鎖が巻き付く。
そうして――
「『吸収』!」
鎖分銅に設定された能力の発動キーワードを口にする。
途端、鎖を通して『影』の力がオレの体へと流れ込んできた。
倒しただけでオレの影や魔力が戻ってくればいいが、その保証もなかったからアキラにつけて貰った能力だ。
相手の魔力全てを吸い尽くす『吸収』。
全身が魔力で構成された『影』ならば吸い尽くすことが可能だと思ったが、思った通りだ。
数秒後、全てを吸い尽くされた『影』は消え、床に ジャラン と鎖が床に落ちて音を立てた。
「ふぅ、これで終わったか――いや待て! なんだこれ!? どういうことだ! ……まさかッ!」
全てが終わった、そう思ったオレだったが違和感に声を上げ、次いで建物の奥へと目を向けた。
ヤバいぞ、この奥にはあの警官しかいないじゃねぇかよ!
すぐさま駈け出す。
――オレの元へと戻ってきた影。今延びているそれは、いつもの半分の濃度しかないとても薄い影だった。
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