表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/93

十字架?

「……お主正気か?」


 信じられないという風に問いかけるスズ。

 言葉は悪いが、スズの言葉に完全同意だ。


「いたって真面目な依頼ですよ」


「だったら尚更質たちが悪いわい! 相手は勇者の1人じゃぞ、わかっておるのか!?

 なんで捕まえたいのかもわからんが、それをなぜわしらに依頼するのかが理解できん。

 儂らはBランクなんじゃぞ、戦力になれんわい」


「〝ケルベロスと殴り合いのできる〟Bランクですけどね」


「そ、それは!」


 過去に少し人前で見せてしまった本気を覚えていたのか写楽さん。

 ちょっと困ったな。


「ま、そうでなくてもこの事務所には期待のルーキーがいるんでしょう?」


「……知っておったのか」


「有名ですもの、世界唯一のSSSランクだなんて。この件に当たる上で無視できない存在ですよ妹さんは」


「レイは……まだ力をうまく使いこなせていないぞ」


「それでも勇者を相手にするには同等の存在が1人でも多く欲しいんです」


 まっすぐ、並んだ俺とスズを見つめてくる写楽さん。

 その瞳は伊達や酔狂でこんなことを言っているのではないと、雄弁に語っていた。


「……ハァ~」


 一つため息をつく。


「……とりあえず、暗殺者アサシンを捕まえたい理由を教えてください」


 俺は写楽さんにそう告げた。


 ☆★☆


「まず、発端は昨日の深夜でした」


 応接用のソファーに座った写楽さんが語りだす。


「とある教会に厳重に封印されていた第一級指定封印物が盗まれました。そこの警備をしていた者が異変に気付いたのはほとんどすべてが終わった後。逃げ去るその犯人を見ることしかできなかったようです。

 その後、犯人の足取りをつかむために私たち『サードアイ』に依頼が入ったのです」


「で、その犯人が『暗殺者アサシン』じゃと? 馬鹿馬鹿しい。大方、目をくらますために変装でもしておったのじゃろう」


「最初はそう私たちも考えました。ですが――」


 そこで少し言い淀んだが、意を決したように続ける。


「――ですが、7重の物理的・魔術的結界を壊しもせずに、すり抜けて盗みを働けるような存在は『ブレイバーズ』でもなければ不可能です。

 それに、私がこの目で見た魔力残滓もこれまでにほとんど見たことがない濃度でした。こういった状況証拠から、限りなく暗殺者アサシンが犯人なのではないかと考えました。もしそうでなくても勇者と同等の存在の犯行だと……」


「――なるほど、わかりました。ですがいくつか訊いてもいいっすか?」


 写楽さんの話を静かに聞いていた俺は尋ねる。


「もちろん、どうぞ」


「それじゃ一つ目。その警備員が嘘をついている可能性は?」


「ありません、私の『眼』で確認しました」


「なるほど、それじゃ確かか……」


『神眼』と呼ばれるほどにすべてを見通す眼を持っている写楽さんが確認したなら、間違いはないだろう。


「それじゃ二つ目。その暗殺者アサシンってのはどんな見た目をしてた?」


「それは……噂どおりですよ。忍者装束に真っ白なロングマフラーです」


「まぁ、アイツ……暗殺者アサシンの格好は目立ってたし有名だったからな」


「カカッ、有名なのは白銀の全身鎧だった勇者じゃがの」


「ですね、その2人の偽物は今でもたびたび現れますからね。ですが、先ほど言ったように信じられない魔力量が残っていたので偽物とは考えにくいかと……」


「あぁ、それはいいんだ」


 確認したのかったのはどんな格好をしていたかっていうことだから。


「それじゃ最後だ。――その厳重封印されてた、盗まれたものって一体何なんです?」


「聞いたら断れませんよ?」


「逆ですよ、それを聞かないことには受けるかどうかを決められません」


「……他言無用でお願いします」


 写楽さんは覚悟を決めたようにして口を開いた。


「盗まれたのは『紅十字架クリムゾンクロス』と呼ばれる真っ赤な十字架」


「十字架?」


「もちろん、ただの十字架ではありません。それはある化け物の心臓といわれる魔力の塊です」


「真っ赤な十字架……あぁ、アレ(・・・)か。なるほど、それは確かにヤバい状況ですね」


「では――」


「……すいません、少し考えさせてください」


「そうです、ね。急に訪ねてきても答えられませんよね」


「……すいません」


「いえ、それでは3人で(・・・)よく相談なさってください」


 そう言って写楽さんは席を立った。


「それでは、また明日」


「あぁ、申し訳ないけどまた明日お願いします」


 そうして写楽さんは事務所から出ていった。







「さて、そういうことで3人(・・・)で話し合おうぜ。出て来いよ、アヤ」





 事務所の奥の暗がりに向って声を投げる。


「……なんだオレがいるのわかってたのか?」


「ったりめーだろ、自分の事務所だぞ。写楽さんにもバレてたみたいだしな、お前腕落ちた?」


「あー、そうかもしんねーな」


 そう答え、暗がりから出てきたのは10代くらいの中性的な人間。

 真っ白な髪は短く切り揃えられ、その眼は暗がりの中で赤く光る。


 そして、どこかで聞いたような忍者装束に真っ白なマフラーを身に着けていた。




「とりあえずいろいろと話を聞かせてくれよ。なぁ、『暗殺者アサシン』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ