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恋は戦争ですから

 コンコン


 レイやヒトミちゃんが学校に通っている昼間の事務所。

 そのガラス戸が叩かれる音が来客を告げた。


「客か?」


「じゃな、儂が出よう。……全くいいところじゃというのに」


「1分で戻ってくれれば俺が持ちこたえてやるよ」


「必ず戻ろう。死ぬなよ」


「誰に言ってやがる」



 勿論ネトゲのことである。



 コントローラーを置いて椅子から立ち上がったスズが事務所の入り口へと向かう。


「いらっしゃいませ『B&Bトラブルバスターズ』じゃ……ってお前は!」


「あん? どうし……だぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 スズの声に思わず振り返った瞬間に耳朶を打つ被弾音。


 一瞬。


 ほんの僅かに目をそらした一瞬だった。

 しかし達人の勝負ではそれが命取りになる。


 怒涛の連撃が決まり、俺の機体を派手な爆炎エフェクトが包む。

 次いで、スズのPCからも撃破音が響いてくる。


「あぁぁぁぁ! ……クッソ誰だこんな時に訪ねてきた奴は!? ぶん殴ってやる!」




「……ずいぶんなご挨拶ですね、師里くん」




 思わず悲鳴を上げた俺の背中に投げかけられた、穏やかな声。

 その声を聞き、ヒヤッと背筋が凍る。


 恐る恐る振り返り声の主に目を向けると、事務所の入り口前に立った1人の女性が映る。

 茶色い髪を後ろで三つ編みにし、若草色のゆったりとしたデザインのワンピースを着ている彼女は、見る人に柔和な印象を与えた。

 体型も程よい肉付きで、ゆったりとしたワンピースを着ていても胸の双丘はちゃんと自己主張をしており、どことなく母性を感じる。

 そうして全身から優しげな、人畜無害な雰囲気を発していたのが、ただ一つ。

 その額に締めた金属製の厳つい額当てが、雰囲気と合っておらずとてもチグハグだ。


 俺はこの女性を知っていた。

 何度か仕事で組んだこともあるし、偶然現場で遭遇することもある。

 所謂『同業者』。

 しかも超大手の、だ。


「……大手能力者ウェイカー事務所『サードアイ』の社長が一体どういったご用件で」


「あら、そんな堅苦しい役職などで呼ばずに〝アイ〟と名前で呼んでくださっていいんですよ?」


「……で、何のご用ですか? 写楽しゃらくさん」


「もう、苗字は厳ついから好きじゃないのに~。わかっててイジワルしてます?」


 プンプンといった擬音が聞こえるほどに可愛らしく怒る。


「……まさか。自分よりも年上の人を名前で呼ぶことに慣れてないだけですよ、他意はないっす」


「本当かしらね~? フフフ」


 そんな様子に疲れながらも言葉を返すと、女性はジトーとした目で俺を見たあと、穏やかな笑みを浮かべた。




 彼女の名前は「写楽しゃらくアイ」。

 調査、探索を専門とした大手能力者ウェイカー事務所「サードアイ」の社長にして、世界に7人しかいないSS(ダブルエス)ランクの能力者ウェイカーだ。

 一般人でも知っている超大物である。

 そんな彼女がなんでこんな小さな事務所に訪れたのか。

 ただでさえココには、この人と犬猿の仲の奴がいるってのいうのに。




「で、本当になんなんすか写楽さん?」


「まったく、師里くんはイジワルですね~。

 あ、もしかして私も師里くんのことを名前で呼ばなければ名前で呼んでもらえないのでしょうか? それじゃ今度からアキラくんって呼びますね」




「何を言っとる色ボケ女が。所長はお前のそんなガツガツしたところに引いておるんじゃ阿呆」




 馴れ馴れしく近寄ってきた写楽さんの背後から、聞きなれたババア口調がかかる。


「……あれ~スズさんいたんですかぁ? てっきりガチャ○ンの置物かと思いました。

 そんなド派手な蛍光色の黄緑をガチャ○ン以外が着てるだなんて思わなくてごめんなさい」


 写楽さんは振り返りながら、先ほどと変わらぬ笑顔で毒を吐く。


「ガチャ○ン馬鹿にするでないわ! 奴は何でもできる万能恐竜じゃぞ!」


「別に蛍光黄緑の恐竜は馬鹿にしてはいませんわ。

 馬鹿にしているのは年寄り口調でキャラ付けしているイタい(・・・)お嬢さんの事だけですよ」


「儂のことか!? 儂のこれは地じゃ! キャラ作りなどではないわ!」


「一般的な10代女子は『儂』なんて言いませんよスズさん」


「そ、それはッ!」


「それとももしかして10代に見えるのは見かけだけで実際はすっごいおばあちゃんだったりするのかしら? 

 私の『眼』でも見通せないしすっごくありえそう」


「……儂のことをババア扱いするか。よほど命が惜しくないと見えるな」


「あらあら暴力に頼る気? こんながさつで野蛮な娘が相棒なんてアキラくんがかわいそうだわ」


「よしわかった。表に出ろ、ぶった斬ってやるわい!」


「いいでしょう、私を敵に回すことがどういうことか思い知らせてあげます」




「はいはいストップ。そこまでそこまで」




 にらみ合いながら事務所の外に出ていこうとする2人を止める。


「まったく、なんでお前らはそんな風に仲が悪いんだよ」


「ふふ、恋は戦争ですから」


 にこやかに笑って言ってるけど、本気でドンパチ始める奴があるか。

 それにどうせ、アンタは俺達のことからかって遊んでるだけだしな。

 言わないけど。


「あっそ」


 だから返答は素気の無い一言。


「アキラくん冷たいです、シクシク」


 顔を伏せて泣き声を上げる写楽さん。

 だが――


「ウソ泣きはやめい、写楽」


「女の涙は武器ですから。武器を有効活用して何がいけないんです」


 スズの言葉で上げられたその顔は、ケロッとしたものだった。


「そんなもの所長に効くわけがないと言っておるのじゃ」


「わからないじゃないですか。私の大人の魅力でアキラくんも――なんで避けるんです?」


 腕に抱き付こうとしてきた写楽さんを サッ と避ける。


「いや、なんとなく? 後でスズがうるさそうだったし」


「ほれ見ろ! ほれ見ろ! 所長はお前の脂肪の塊なんかよりも儂のほうが大事らしいぞ!」


「……別に大事とは言ってないけどな、面倒そうなだけで」


 まぁ、写楽さんの豊かな胸に興味がないわけではないけどね。

 ただスズを怒らせると後々怖いんだ。




「ふぅ、まぁ冗談もこれくらいにしておきましょうか」


「はぁ~。やっぱり冗談だったんですか、毎回毎回いい加減にしてくださいよ」


「あら、アキラくんへの気持ちは本気よ~」


 本気かどうかわからないことを嘯く写楽さん。

 だが、その表情がふと真顔になる。


「……実は今日ここに来たのは、ある依頼をしに来たの」


「『サードアイ』がウチに? また迷い犬の捕獲ですか?」


 以前に受けた、手間がかかるが身入りの少ない仕事を思い出しつつ問いかける。


「うーん、惜しい」


「惜しい?」


「うん、実働してもらうって言うのは当たってるけど、今回は迷い犬じゃないのよ」


「それじゃなんじゃ? 猫か? トカゲか?」


 しかし、そんなスズの問いかけへの答えは全くの予想外のものだった。




「ウーン、どっちかといえば忍者?」


「は? 忍者?」





「うん、『ブレイバーズ』の『暗殺者アサシン』を捕まえたいのよ」






 なんてことないように写楽さんは笑いながらそう言いきった。






 勘弁してくれ。

お待たせしました、なんとか用事も終わりました。

すぐに毎日更新に戻していきたいのですが、どうなるか……。

ですが、なるべく早く以前のペースに戻したいです。



やってたネトゲも再開しようかと思ったらなんか色々あってIN できないっぽいですし……。



???「素晴らしく運がないな君は」



チクショウ~。

まぁ、裏を返せば執筆に専念出来るのかな~。


そんな感じで通常運転に復活です。


※写楽の師里アキラへの呼称がバラバラだったので統一しました

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