ここは簡潔に『友人』ということにしておいてくれ
「ここが……『特究』?」
「あぁ~、やっぱ人多いな」
杜宮市から電車を乗り継いで1時間。
都会のど真ん中。
そこには真っ白で奇妙なビルが建っていた。
どこが奇妙かというと、まず四角い。
それも正方形に。
だというのに
小さいわけではなく横にも縦にもバカみたいに大きい。
この建物の名前は『特殊能力及び特殊能力保有者保護管理研究所』。
通称『特究』。
超能力や能力者の登録や鑑定、研究などを行っている政府直轄の機関だ。
その正面玄関から中にぞろぞろと人が入っていく。
「あの人たち何なの?」
その様子を見ながらレイが問いかけてくる。
「ん? ありゃ登録待ちの能力者だな」
「登録待ち?」
「そ。お前と同じ新しく覚醒した新規登録の能力者が、能力者登録しに全国から来てるんだよ」
「じゃからいつもここはこんなにも混んでおるんじゃがな」
「……能力者ってこんなにいるの?」
「結構いるぞ。大体がランクC以下で、能力者として有名になっていないからあんまり知られてないんだけどな」
「フーン」
俺の説明におざなりにレイは返事をした。
「まぁ、あんなのに並んでる時間がもったいない。裏から入ろう」
レイへとそう伝え、俺達3人は裏口へと回った。
☆★☆
裏口の8桁の数字認証キーを解除し、中へと入る。
瞬間。
「『B』! 久しぶりだな、よく来てくれた!」
そんな声が真っ白で清潔な廊下に響き、次いでドタドタという足音が響いた。
あらわれたのは1人の男。
清潔そうな白衣に身を包んだ、不潔そうな男。
脂ぎった髪はアッチコッチに跳ね、その肌は不健康に白くがりがりに痩せている。
ただその眼だけがぎょろりと大きく、クルクルと忙しく動き回っていた。
「よ、このマッドサイエンティスト」
そんな昔と変わらない様子の"友達"に気軽に声をかけた。
「ははは、いつも言ってるけど僕はサイエンティストではあるけどマッドではないよ」
笑いながら訂正を入れてくる。
ここまでがいつものやり取り。
決まりきった会話だ。
「いつ以来かな。一年は顔を見ていない気がするよ」
「そうだったっけか?」
「まったく、君はいつもそうだよね適当というか大雑把というか。今日だっていきなり連絡してきて……もう諦めてるからいいけどさ。
で、その後ろの子がいつも話してくれてた例の妹さんかい?」
「あぁ、そうだ。紹介するよ俺の妹の師里レイだ」
「……ども」
疑り深い目で男を見ながら浅く頭を下げるレイ。
「やぁやぁ、君のことはお兄さんからよく伺ってるよ。あ、僕は喜多川寺ヤスヒロって言います、よろしく」
「……喜多川寺? もしかしてあの能力者研究の第一人者の喜多川寺博士!?」
「まぁ、そう呼ばれることも少なくないね」
唖然、とした表情を浮かべるレイ。
その表情に満足げな様子のヤスヒロは調子に乗って饒舌に喋りだす。
「ふふっ、まぁ僕ほどの頭脳になれば人類の宝だから。普段は研究室の奥に篭っているのだけど君は運がいい。僕自らの手で鑑定を……イダッ! 何をするんだい『B』!?」
「エロい目で俺の妹を見るなひきこもり」
「エロい目? ハンッ、三次元なんかに僕は興味ないね。君の妹さんに持っているのは純粋な知的好奇心だけさ誓ってもいい」
「違った意味で変態だな」
「天才は概ね変態なものさ。まぁ、こんなところで立ち話もなんだ。僕の研究室に行こうじゃないか」
「……あぁ、すまぬ。儂は別行動を取らせてもらう」
しかし、ヤスヒロのそんな提案にスズは沈んだ声で答えた。
「……そうかい、わかった」
「すまんな、終わったら連絡をくれ」
そういって俺達とは反対の方へと歩き出すスズ。
彼女の表情はどことなく暗い。
事情を知っている俺は、去っていくその背に声をかけてやることができなかった。
「Bell」
代わりにその背に声を投げたのはヤスヒロだった。
「彼女は1753室にいる。面会制限室だが僕の客だといえば基本的に止められることはないだろう」
「……すまんな、喜多川寺」
「なに、まだ彼女を治してやれない僕に出来る僅かな罪滅ぼしさ」
自嘲気味に笑うヤスヒロに見送られ、スズは廊下の奥へと去って行った。
「さて、それじゃこっちもこっちで用を済ませてしまおうか。本来なら3時間待ちなんだけど、コネの力は偉大だよね」
「助かった。時間かけると帰るの遅くなっちゃうしな」
「これくらいの頼みならいくらでもしてくれよ、君は僕の数少ない友人だからね」
「へいへい、せいぜい便利に使わせてもらいますよっと」
「……あの、一ついいですか博士?」
「ん? なんだい妹君」
「ソイツとはいったいどんな関係なんですか?」
「……うーん、それはまた難しいことを訊くね。
そもそも人と人との繋がりを簡潔に答えることなどできるのかという問題から考えていこうか。
君と『B』は兄妹だ。
普通それを聞いた人は君達の仲はそれほど悪くないと思ってしまうだろう、実際にはこんなに険悪なのにね。
つまり何が言いたいかというと、言葉というのは薄っぺらく、大量に使わないとその本質を言い表せないものなのではないかと思うんだ。
しかもそれは関係性が複雑になればなるほど多くの言葉を積み重ねばならない。
そしてそれは僕と『B』の関係でも言える。
『恩人』『主治医』『モルモット』『利用価値のある駒』『友人』『知人』『支援者』
ざっとこれくらいの関係性があるかな。
これを全部説明しようとするとどれくらいの言葉が必要か。考えただけでも疲れるし、いくら君が『B』の妹だとしても僕の時間をそこまであげるわけにはいかないね。
だからここは簡潔に『友人』ということにしておいてくれ」
「は、はぁ」
あまりにも長大なセリフに、レイが目を丸くする。
「ヤスヒロ、誤魔化す時その長ったらしい説明でうやむやにする癖何とかしろっての」
「癖がそんな簡単に治ったら苦労はしないっての『B』」
「……あ、あとその『B』ってのなんですか? 名前にBなんて入ってないのに」
「これは 「これは俺のあだ名みたいなもんだ」 僕に喋らせてくれたっていいじゃないか。
妹君に人の名称がどれほどに移ろい易いものか、昨今の嘆かわしい気の狂ったとしか思えない名づけと絡めて話してあげようと思ったのに」
それはちょっと聞きたい気がしたが、時間がかかるので次に行ってもらう。
「いいからとっとと行こうぜ。お前だって暇なわけじゃないだろ」
「ふむ、確かに言うとおりだ。それじゃわが城に案内しよう」
――2時間後――
「驚くべき結果だね。いや、君の妹だとしたら当然なのかな?」
「……そこまでか?」
机を挟んで俺とヤスヒロが向かい合う。
俺たちのちょうど中間地点には数字が羅列されたいくつかの紙が広げられていた。
「そこまでだね。観測史上、ここまでの魔力の持ち主は2人しかいない。誰のことだかは言わなくてもわかるでしょ?」
「俺と、スズか」
「そう。でもさすがに君達のようにBランクとして誤魔化すことはできそうにないよ」
「やっぱり、制御ができないか?」
「つい先日覚醒したばかりというのにここまで安定しているんだから、制御出来ていないわけじゃないんだろうけど。
でも君達のように魔力を抑えて隠すとなると制御の一歩先の話さ、さすがに不可能だね」
「……そうか」
「君の力で何とかならないのかい? 公式には存在しないことになっているSSSランカーだよ。放っておけばどうなったものかわかったものじゃない。
政府に拘束されるだけならばいい。けどこの力を狙って能力者の地下組織なんかが手を出してくることは十分考えられる。お誂え向きに彼女の能力は"他者を活かす"ものだしね。
まぁ、君やBellがいるなら大した事態にはならないだろうけど、騒がしくなるのは必至だよ。今までの静かな暮しには戻れなくなっちゃうんじゃないかな」
「ヤスヒロ、お前もわかってると思うが同じレベルの相手に干渉するのは並大抵なことじゃない。
確かに『抑圧』などで隠すことはできるかもしれないが、それでも良くてSランク。悪ければSSランク程度までしか抑えられないと思う」
「それはまた、とんでもない。S越えなんて大手からわんさかとスカウトが来るだろうね。SSなら言わずもがな。今現在の表での最強と並ぶなんて放っておくはずがない」
「もういっそ山籠もりでもして、レイに魔力の抑え方教えたほうがいいんじゃないかと思ってきたぜ俺は」
「ハハッ、それは面白そうだ」
「着いてくるか?」
「遠慮しとくよ、それにそんなことをしなくても良い方法があると思うんだけど、まだ気づかないのかい?」
「何のことだ?」
「簡単さ、他の所が声をかける前に君のとこの事務所で囲っちゃえばいいのさ」
なんてことの無いようにヤスヒロはそう告げた。
「……えぇ~?」
「なんで渋るんだい。常識あるところなら既に所属が決まっている人材に粉かけたりしないだろうし、常識無いところは正面から正々堂々と叩き潰せる。
それにずっと守っていられるし、良いことだらけじゃないか。」
「政府はどうすんだよ」
「君の正体を知っている連中が、君の要求を断るわけないじゃないか。意に背いたら殺されるかもしれないのに」
「俺そんなに狂暴そうに見られてるの!?」
「ハハッ、冗談さ。でもまぁ、君んとこの『B&Bトラブルバスターズ』で雇うっていうのはだいぶいい案だと思うけどね」
「うーん、お前がいうことなら間違いはないんだろうけどな――」
「何か心配事でもあるのかい?」
「――本人が死ぬほど嫌がるかと思ってな」
俺は渋い表情を浮かべてヤスヒロの問いかけに答えた。
次回は6月15日です。




