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力いっぱい〝応援〟しろ

なんかすっごく長くなってしまった感あふれる戦闘。

もうちょっとコンパクトに2~3話で纏められる努力しないといけませんかね。

「ほれほれほれ! 先程儂を殴り飛ばした勢いはどこにいった!」


 瞬間移動をして現れた鬼を張り飛ばしながら挑発する。


「このクソガキが!」


 再び消える鬼。

 だが――


「そこじゃな!」


 小さな『爆裂』の魔方陣を手裏剣のように飛ばす。

 それは風を切って飛び、現れたばかりの鬼の顔面を強襲する。


「フグッ」


 小さな爆発音が響き、くぐもった呻き声を漏らして鬼は顔を仰け反らせた。

 プスプスと煙をあげて止まる鬼を見ながら、再び言葉を投げる。


「おいおい、手加減してやっとるんだからこれくらいで止まるでない」


 言葉通り、攻撃をしているとはいえ大分力を抜いている。

 与えているダメージなど微々たるものでしかない。

 現に、煙が晴れた下から現れた鬼の顔には傷など無い。

 煤が少しばかりついている程度だ。


 それなのに鬼の息は大きく乱れ、肩を上下させていた。


「ハァハァ、テメー何しやがった?」


「『何も』じゃ。儂は貴様の体にはなにもしとらんわい」


「何も――ハッ!」


 そこに至り、漸く周囲を見回し――


「モモォォォ!」


 舞を舞うモモに気付き、吼える。

 とんでもない大声に空気が震えた。

 その次の瞬間には鬼は別次元へと潜り、姿を消そうとする。


「させんよ! 『グレイプニル』!」


 しかし、儂はそれよりも早く1つの魔法陣を作り出す。

 その魔方陣から飛び出した黄緑色の紐が、消える直前の鬼の足へと絡みついた。

 紐が絡みついたことに気付かぬまま鬼はその姿を消す。

 けれども、鬼の姿は消えてもその足に繋がる紐は空中に取り残されていた。

 儂の手から伸びる紐の端は、鬼が消えたその場所の宙で途切れ、どこかへと伸びている。

 だがスルスルと引っ張られていく紐は、確実に鬼へと繋がっていることの証。


「どっせーい!」


 その紐の端を掴み、思いっきり引っ張る。

 すると――


「うぉぉぉぉ!?」


 紐が途切れていた場所の空間をバリバリと割りながら、鬼が再び現れる。


「逃がさんて。この紐は決して外れず、どこまでも伸びるぞ。モモの所へ行きたいのならば儂を殺してからにするのじゃな」


「ぐ、うぐぅ。……だったら殺ってやんよ!」


 地に倒れ、呻きを上げながらも獰猛に睨みつけてくる鬼。

 けれどもその体は先程よりも明らかに弱っていた。


「強がってはいても苦しかろうて」


 ハッキリとその体から魔力が漏れ出ているのが見てわかる。

 モモが舞う舞。

 それが鬼の体から魔力を吸い出しているのだ。


「『迷家マヨイガ』に奉納する舞じゃったか……お主の中の『迷家マヨイガ』もあちらに戻りたがっておるのではないか?」


「……うるせぇ!」


 地に伏したまま爪を振るう鬼。

 それは儂には届かない距離の筈だったが――


「おっと!」


『防御』の魔方陣を目の前へと生み出す。

 そこに鬼の振るった爪、そこから放たれた斬撃が当たる。

 黒い斬撃と黄緑色の魔方陣がぶつかり合い、黒と光の粒子をまき散らす。


「ッ!」


 しかし儂の作った魔方陣が軋みを上げた瞬間、儂は咄嗟に身を屈める。

 直後、儂の魔方陣を真っ二つにして黒い斬撃が頭上を通り過ぎた。


「なるほどなるほど、次元を切り裂く斬撃か。面白い、ならば儂もこれを使おうかの」


 そう言い、両手を前に突き出す。

 手の先に大きな魔方陣を出現させ、そこに手を突きこむ。

 ずぶりと水面の様に魔方陣の表面がざわめき、手が沈んだ。

 そうして目的のものを掴みとり一気に引き抜く。


 現れたのは抜身の大剣。

 儂の背丈ほどもあるそれは、禍々しい紅と黒に彩られている。

 血の様に真っ赤な刀身に黒いラインが血管の様にいくつも走っていた。


「『ダーインスレイブ』。使うのはいつ以来振りじゃろうな」


 禍々しい魔力を秘めたそれを構える。


「誇ってよいぞ、儂にこの剣を抜かせたことを。この剣でしか受け止められぬと思わせたことをな」


 ☆★☆


 全身に力が漲る。

 魔力とはまた違う、まさに〝生命の力〟としか言えないものが体を巡る。

 その力に後押しされ私は無心で舞を舞う。

 この地の龍脈から魔力を吸い上げ、魔力も十分。

 体調は今までにないほどに気力・体力ともに最高の状態だ。


 しかし。



 それなのに。



 未だセキトから『迷家マヨイガ』を引き抜くことはできない。



 既に舞は三巡目に入っているというのに、引き出せるのはその魔力だけ。

 その魔力でさえ、初めの頃より少なくなっている。

 これはセキトの持つ魔力の底が見えてきたということに他ならない。

 けれども、反対に魔力が少なくなればなるほどセキトと『迷家マヨイガ』の結びつきが強くなっているように感じる。

 

 執念。

 その一言に尽きるだろう。

 セキトの執念が『迷家マヨイガ』を手放そうとしないのだ。


 あと一歩。


 あと一歩の所で及ばない。


 足止めしてくれているスズさんはまだまだ余裕そうだ。

 だが、このまま続けていたところで本当に『迷家マヨイガ』を取り戻せるのか。


 今、私の力が最高点だとして、私の力は減っていくばかりだ。

 最高点である今取り出せないものが時間をかけた所で成功するのか。


 心が折れかける。


 そんな時だった。




「モモォ! 頑張れぇー!」




 そんな声と共に ブンッ と私の足元へ桃色・・・の魔方陣が生まれた。


 ☆★☆


 あぁ、私は無力だ。


 強く強く実感する。



 モモが必死に舞い、スズさんが鬼と戦い、アイツは力を全部モモに渡してぶっ倒れている。


 さっきからずっとモモはあの鬼から魔力を吸い出してはいるけど、肝心の刀は見えない。

 それなのにモモの様子は大分苦しそうだ。


 スズさんはスズさんで、どこからか出したのか大きな赤い剣を振るって鬼と戦っている。

 目にもとまらないほどの速度で振るわれる剣と爪。

 二つが空中でぶつかり合い火花がいくつも散っている。


 そんな中、私は三人を見ている事しかできない。

 やった事と言えば魔力に酔って気絶したり、モモに肩を貸したことくらい。


 ホント、何の役にも立ってない。

 むしろ迷惑をかけてる。


「なぁ、レイ」


 悔しさに唇を噛みしめていると唐突に声が投げかけられた。


「……なに?」


 疲れたように地面へと座り込むソイツに声を返す。


「お前が気にすることなんて何もないんだぞ、これは俺達の問題だから。お前が魔力を覚醒させたのだって、ありゃ事故みたいなもんだ。お前のせいじゃない」


 ワザと不機嫌な声で返したというのに、怒らず、私を慰めてくる。

 私を安心させるためか笑顔まで浮かべて。


 ……バカ。


 真っ青な顔で笑われたって安心なんかしないっての。


「……ねぇ、私にも魔力あるんでしょ? 何とかモモを助けること出来ないの?」


 それに、気にするなって言われたって友達や知り合いが頑張ってるのをただ黙ってみている事なんてできない。

 だから尋ねる。


「無理だ」


 しかし一言で短くバッサリと切り捨てられた。


能力者ウェイカーが能力を使うためには自分の超能力レヴェリーを知らなければならない。いくら魔力があってもその使い方を知らないと使えない」


「じゃあ、それを見つけられれば……!」


超能力レヴェリーは使えるだろうな。でも、それがこの状況で役に立つかどうかはわからない。それに超能力レヴェリーを見つけると言っても簡単な事じゃない、超能力レヴェリーは1人1人千差万別だ。どういった要因でその能力が目覚めたのかって言うこともわかっていない。専門の鑑定士に鑑定してもらって把握するもんだ、今この場で見つけ出すってのは不可能に近い」


 説明されて理解する。


 今の私には何もできない。


 あの時掴み取ったと思った力は、勘違いだったのか――。


「でも――」


 そんな項垂れる私に、アイツがやさしく声をかけてきた。


「でも、もしかしたら俺はお前の能力がわかるかもしれない」


「え?」


「信じる信じないはレイの自由だけど――」



「教えて!」



 間髪入れずに答える。


「なんでもいいの、私に出来ることがあるなら早く教えて!」


 私のその反応が意外だったのか目を丸くするソイツに、再度詰め寄った。

 どんな僅かな可能性でもいいんだ。

 友達を助けられるなら、それに賭ける。


「わ、わかったよ。――お前の能力は多分『強化支援(バフ)』だ」


「『強化支援(バフ)』?」


 聞いたこともない超能力レヴェリーだ。

 まぁ、そこまで詳しくはないんだけれど。


「『強化支援(バフ)』はまぁ、対象の力を上げる支援的能力だ。自分本位な能力が多い超能力レヴェリーの中でもだいぶ珍しい――俺も似たような力を持っているのは1人しか知らない」


「だいぶ珍しいって事? あれ、でもそれってこの状況で使えるんじゃない? なんでもっと早く言わないのよ」


「それは――」


 ソイツは蒼い顔をさらに曇らせて言葉に詰まる。

 何を隠しているのか。

 言い辛い事なのか。


「……まぁいいわ。そんなことよりどうやったら使えるのよ」


「あ、あぁ。それは簡単だ」


 その逡巡をスルーして話を進めると、あからさまにホッとした顔を浮かべる。

 コイツが何を隠したのかは気になるが、どうでもいい。


 今は私に何が出来るかだけを考える。


 そうしてソイツの次の言葉を待つ。



「力いっぱい〝応援〟しろ」


 ☆★☆


「モモォ! 頑張れぇ!」


 隣に立つレイが俺の言いつけどおりに大声でモモを応援する。


 瞬間。


 モモの足元に桃色の魔方陣が現れた。

 その魔方陣から桃色の光が溢れ、モモの全身を包んでいく。


 あぁ、俺の予感が当たってしまったんだ。


 その光景と、膨れ上がるモモの力を感じて、俺は自分の予測が当たっていたことを悲しむ。


 先程、レイの魔力を感じた時。

 俺はどこかで感じたことがある魔力だと思った。

 最初はどこで感じたかわからなかったが、暫くして気づいた。


 先日の暴走したゴースト。

 彼の中に残っていた暴走を引き起こした魔力と同じだったことに。


 だから気付いた。

 レイの超能力レヴェリーが『強化支援(バフ)』であると。

 同じ『強化支援(バフ)』を使って暴走を引き起こしていた奴を知っていたから尚更。


 あの時は無意識でレイの『強化支援(バフ)』が無制限に発動し、力の飽和によって暴走を引き起こしたのだろう。


 何の因果だ。

 どうしてよりにもよってレイがアイツと同じ力を得てしまったんだ。



 パァンッ



 とモモの体を包んでいた光が弾け飛ぶ。

 中から出てきたのは、モモの面影を残した妙齢の美女。

 長い肢体をダイナミックに動かし、先程までと同じ舞を舞う。

 桃色の光の残滓がまるで桜吹雪の様で、すごく美しい。

 その舞姿に見とれていると


「ちょちょちょっ! え、誰あれ!? 何あれ!?」


 自分が何をしたのか自覚をしていないレイが慌てたようで尋ねてくる。

 その声で深い思考の海に嵌っていた意識が浮かび上がる。


「落ち着けって。あれはモモだよ、お前の強化支援(バフ)で強化されて肉体が変化したんだ」


 俺はそれに苦笑して答えた。


 あぁ、そうだ。

 この可愛い妹がアイツと同じ力を持っていたからってなんだって言うのだ。

 こんなにも可愛い妹がアイツと同じになるわけがない。

「ぐぬぬ、大きくなると胸も大きくなるのかモモ」とか自分の胸に手を当てて呟いている妹を俺は優しく見つめた。


 なにがあっても必ず彼女を守り抜くと新たに心へと誓いながら。


 ☆★☆


 なんだ。

 今何が起こったんだ?


 いきなり視点が高くなり、手足も伸びた体を見下ろす。


 レイさんの声援が聞こえたと思った次の瞬間に、体を桃色の光が包み込んだ。

 その光からドンドンと力が流れ込んできて、自分の限界を容易く突破した。

 自分の限界以上の力を流し込まれ体が破裂するかと思ったがそうはならず、代わりにその力に適応するように肉体の変化が起こる。

 そうして今までにないほどの力を自らの内に感じた。

 先程までも最高の状態だと思っていたがそれは自分の限界の中での話。

 今は限界を突破した、未知なる段階の力。


 多分これは、レイさんの力なんだろう。


 直前の声援と合わせて考えてみてもまず間違いない。

 他者の力を増幅させるのか。

 それとも自らの力を分け与えるのか。

 具体的な能力は皆目見当もつかないが、今この状況ではなんだってありがたい。


 ありがとうございます、レイさん。


 心の中でレイを言い、私は大きくなった体を存分に振るい舞を舞う。



 あぁ、今までに感じたことのない全能感が私を支配する。

 龍脈から流れ込む魔力は先程の比ではないのに、それを完全に受け入れるだけの肉体。

 舞で発生する『迷家マヨイガ』への干渉も今まで以上だ。

 その柄に手を掛けているような錯覚さえ起こるほど、近くにその存在を感じる。


 私はその感覚に従い、ゆっくりとその柄を引き抜く。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 途端、少し離れた場所で絶叫を上げてセキトが地面に膝をつく。

 一回り小さくなった体、その胸から『迷家マヨイガ』の柄が生えていた。


 私は一層力と願いを込め、舞う。


 それに呼応し カタカタカタ とその柄が鳴り震えた。

 そしてついに――


「ギャァァァァァァ!」


 セキトの甲高い悲鳴と同時にその胸から『迷家マヨイガ』が飛び出してきた。

 その『迷家マヨイガ』は空中を一直線に私に向かって飛んでくる。

 私は舞を止め、その柄をパシッと掴みとった。


「セキト、『迷家マヨイガ』は返してもらったぞ!」


 元の姿に戻り、胸から血を流し続けるセキトに向け、そう宣言した。

てことで一応戦闘は終わりな感じで。

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