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俺のマテバ6ウニカァァァァァ!

前話でレイの防御腕輪の件を書くの忘れたので、ちょこっとだけ前話を加筆訂正してます。

ザックリ言うと「腕輪は壊れた」って言うことを付け足しました。

 モモにとどめを刺そうと『迷家マヨイガ』を振り上げた、その時だった。



 ドクン



 唐突。


 そう、まさに突然にとんでもない量の魔力を感じた。


 いやそんな言葉だけでは正確に表せない。


 まるで地の下を走る魔力の奔流『龍脈』。

 それが丸ごと地上に上がってきたかのような錯覚を受けた程の埒外な魔力。


 そんなものが前触れもなくいきなり現れれば、流石に焦る。


 モモのことなど放って、全力で跳躍。

 できる限り距離をとってその存在に向き合う。


「おいおい、なんの冗談だよそれは……」


 最初に口から出たのはそんな言葉。

 目に写るその光景が信じられなかった。


 そこに立っていたのは一人の人間。


 先程蹴り飛ばした少々。

 脆弱な人間でありながら俺に向かってきて嘔吐していた奴。

 口の回りに吐瀉物のカスをつけ、鼻からは血が滴り落ち、全身に擦り傷をつけ、服も所々解れていた。


 ボロボロの無惨で無様な人間。


 5分前なら笑ってやった。

 「無駄に頑張るなよ」と。


 だが、今はそんな風に笑えなかった。



 周囲の空間を歪めるほどの魔力。

 陽炎かげろうのように周囲がゆらゆらと揺れる。

 その身から溢れ出している魔力は通常のモヤではない。

 影とも闇とも言える程の濃密な密度をもったものだった。

 それが止めどなく、まるで限界など無いかのように溢れ出す。


 そうして溢れ出した魔力が空気に溶け、空間に魔力が満ちていく。


 本来ならば願ってもないこと。

 空気中の魔力が多ければ多いほど自分達、人外の力は増す。

 増すはずなのだが――


 今感じるのは息苦しさ。

 それも命の危険さえ感じるほどの息苦しさだ。


 これは、あの人間の発する魔力が俺の体に合っていないのだ。

 信じられないことだが、人外である俺の魔力よりもあの人間の魔力が濃密で強力だから、俺の体がその魔力の圧に耐えられず取り込むことができないでいる。

 吸収できない魔力は空間を埋めていき、俺を取り囲む。

 これが息苦しさの正体。

 あのなにも考えていないような魔力の放出からして、意図したことではないと思うが、正にこれは空間掌握。


 この場の主導権は現在、あの人間が握っている。


 生殺与奪の権利が先程まで死にかけていた人間に握られる。

 まるで理解できなかった。


 だが、理解が出来なくてもソイツは事実としてそこにいる。

 まるで話に聞いた魔王の様に、圧倒的なまでの魔力をまき散らし。


 カタカタ


 手に持つ刀が鳴らしたその音が耳に届いたことで初めて気付く。

 自分の手が震えていたことに。


 俺は、恐怖しているというのか。

 人間如きを相手に。

 そんな馬鹿なと心中で否定し、再び人間を見やる。

 そして気付く。



 その人間は魔力をまき散らすだけで一向に動こうとしないことに。

 視線も虚ろで、もしかしたら意識がないのかもしれない。



「……チッ、驚かせやがって」


 いくら魔力があろうと、意識が無いのならば殺せないことはない。

 自分の中にある恐怖感を振り払うように、乱暴にその人間の元へと向かい殺そうとする。

 だが――



 ビシッ



 と何かが罅割ひびわれる様な音が辺りに響き、俺の動きは止められる。

 音の出どころを探ると、数メートル離れた場所の空中に罅割(ひびわ)れが出来ていた。

 それは更に二三度ほど揺れ、音を立てた後


 バリィィィンッ


 殊更大きな音を響かせて砕け散った。

 その奥には、トリックアートの様にここと同じ神社の境内が広がっている。


「おいおいおい、一体何が起こったんだっての?」


 そんなことをぶつくさ言いながら、次元の壁を壊して開けた穴から1人の男が出てくる。


 黒いスーツに真っ赤なネクタイを締めた男。

 あの女が言っていた『最大の障害』『最強の人類』。

 ソイツが現れた。


 ☆★☆


「おいおいおい、一体何が起こったんだっての?」


『連結』の魔方陣を通してモモの危機を感じ取ったのと、とんでもない魔力が発生したのはほぼ同時だった。

 何か予想外の事が起きている。

 そう判断した俺は少しばかり強引に次元の壁を破壊してその場へと向かった。

 そうしてたどり着いた場所では、確かに予想外すぎる状況だった。


 血を流し地に倒れているモモ。

 血濡れの刀を持ったセキト。


 そして、俺が今まで感じた中でも最大級の魔力を放出する妹。


 全く状況が理解できない。

 理解できないが――


「おいモモ、大丈夫か?」


 俺は片手に持っていた狛犬の頭(・・・・・)を投げ捨て、血だまりに沈むモモへと声を掛ける。

 本当はレイの元へと向かいたい。

 だが、モモはレイの友達で俺の協力者でもある。

 そして今もレイが生きているということはモモが守ってくれたことに他ならない。


 ならば優先すべきは彼女の命を繋ぎとめることだ。


 俺の問いかけに僅かにモモの瞼が動く。

 よかった、生きている。


 俺はモモの脇に膝をつき、傷口の上に『治癒』の魔方陣を生み出し――



「俺を無視すんなよなぁ人間! 今日は殺してやるからよぉ!」



 背後からセキトが刀を振り上げ迫ってきた。


 心中で舌打ちしながらも迎撃しようとしたがそれよりも早く


 バンッ!


 と銃声が響き、セキトの鼻先を銃弾がかすめた。


「貴様がセキトだな、連続殺人事件の容疑者として拘束させてもらう。抵抗はやめろ!」


 俺の開いた穴から出てきた四十万しじまが両手で拳銃を構え、セキトを睨みつける。


「よっし! よくやった四十万、ソイツは任せた!」


 セキトは四十万に任せて俺はモモの治療に戻る。


 その最中にもチラチラとレイの様子を気にする。

 まるで2年前に戦った魔王と同じくらいの魔力を吐き出すレイ。

 だが意識が無いのか呆然と立っているだけだ。

 その顔は汚れ、鼻から血も出ている。

 左腕は力なくブランと下がっているし、全身に細かい傷がついている。

 俺が渡した腕飾りも光を無くしていた。


 あまり強力すぎて不審に思われてはいけないと思い、程々の性能に抑えたのが仇になったみたいだ。


 敵を甘く見た愚かすぎる自分と、その傷をつけたであろうセキトに、マグマの様な怒りが湧き上がってくる。

 そんな時


 ブゥン


 と人の身長ほどもある様な大きな黄緑色の魔方陣が現れる。

 それは一瞬強く光を放って消える。

 それが消えた後には、俺が作ったのと同じ次元の穴が作られた。


「……これはまた凄まじいのぅ。所長、一体どういうことなんじゃ?」


「あれ、レイはあんなところで立って何してるんでしょう?」


 その穴からスズとヒトミちゃんが現れる。

 ヒトミちゃんはなぜか両手をお椀の形にして、ミニチュアサイズの狛犬をそこに入れていた。


「俺にも何が起こったかよくわからない。あとヒトミちゃん、ちょっと異常事態だからレイには近づかないで」


「は、はい」


 魔力が見えないただの人間であるヒトミちゃんにも、今のレイの異常な感じは伝わったみたいだ。

 素直に返事をする。


「所長、儂も手伝った方がいいか?」


「こっちは大丈夫だ、それよりも四十万の方を手伝ってやってくれ!」


 魔方陣を通し、モモの治療に集中しながら指示を出す。


「なるほど、了解じゃ。東堂、お主はここで所長と一緒におるのじゃ」


「はい、わかりました」


 ヒトミちゃんに指示を出したスズは


「さて、それでは行くかの」


 そう言って駆け出した。


 ☆★☆


「よっし! よくやった四十万、ソイツは任せた!」


 はぁ?

 ちょっと待て。

 何言ってんだお前は。

 俺はただの人間だぞ。


「邪魔すんなよな人間!」


 刀を引っさげたオーガが迫ってくる。

 周りには盾に出来そうなものもなく、出てきた穴も既に閉じて宙に溶け、逃げ場はない。

 だから――


 ギィン


 と金属同士がぶつかり合う。

 奴の振った刀を俺が手に持った相棒(拳銃)で受け止めたのだ。


「へぇ、なかなかやるじゃねぇか」


 そう言いながらも押し込まれてくる力は凄まじい。まるで重機か何かを相手にしているのではないかと錯覚するほどだ。

 そんな俺の耳に ミシミシ と不穏な音が聞こえてきた。

 その音を奏でたのは刀を防いでいる俺の相棒。


「あぁぁ! 俺のマテバ(セイ)ウニカァァァァァ!」


 相棒の名を叫び、火事場の馬鹿力ともいうべきものでなんとかその刃を受け流す。

 その際ギャリギャリと刀が相棒の表面を削り取った。

 しかしそのことを嘆く暇はなく、銃弾を放ちながら後退し距離を取る。


「テンメェ! コイツは製造中止になってんだぞ壊れたらどうしてくれんだコラ!」


 引鉄を引きながらも恨み言はしっかりと吐き出す。

 ……コイツだけは生かしておけねぇ。


「知るかよ、んな鉄の塊の事なんか!」


「拳銃は男の魂だ!」


 向かい合ったまま俺達は睨み合う。

 距離的には銃の方が有利だ。

 だが、相手は特災。

 拳銃では有効打にならない上に、残弾数も僅かだ。

 身を隠す場所がないこの状況で弾がなくなれば命取りになる。

 迂闊には動けない。


「おいおい、撃たないんならこっちから行くぞ!」


 しかしそれは相手にも適用されるわけではない。

 残像を残すほどの勢いで迫ってくる。


「クッ!」


 仕方なく残りの銃弾を叩きこもうとした時――


「ふむ、ただの人間でありながら生きてるとは中々じゃ。小僧呼ばわりは撤回してやるぞ四十万」


 上からそんな声が降ってきて、次の瞬間には一本にまとめた長い黒髪を躍らせて、黄緑色のジャージが目の前に着地する。

 師里の助手、確かスズと言っていた少女だ。


「どけガキがぁ!」


 いきなり俺と鬼との間に割り込んできたスズに、鬼が叫ぶ。


「……何じゃと?」


 しかし少女はその叫びに全く臆さず、逆にジトリと睨みつける。


「少し仕置きが必要なようじゃな」


 そう言い、俺の前に腕を組んで仁王立ちし、鬼と真っ向から向かい合った。

 確かにこの子も能力者(ウェイカー)だったはずだが――


「大丈夫なのか?」


 心配の声をかけつつも、手元ではシリンダーを跳ね上げ弾丸を補充する。

 思わぬ事態だが、補充できる状況ならしておくべきだという癖が体に染みついているのだ。


「なに、見ておれ」


 自信満々に答えた少女はそのまま前を見据えて大きく口を開いた。



「じゃーんけーん『グッー』!」



 瞬間。

 その声に呼応するかのように鬼の真下に魔方陣が展開し、その中から3メートるほどもありそうな巨大な黄緑色の腕が、拳を握って飛び出した。


「なっ……グゥ!」


 魔方陣の展開も、腕の出現もあまりにも突然の事で鬼はなすすべもなく宙に飛ばされる。

 だが少女の言葉は終わらない。


「『チョキッ』!」


 今度は空中に魔方陣が展開し、再び腕が出てくる。

 しかし今度のは人差し指と中指だけを伸ばした状態――所謂『チョキ』の形――をしていた。

 そのチョキが打ち上げられた鬼を挟みこむ。


「ガッ ガァァァ!」


 遠目でもわかるくらいに強く挟み込み、万力の様に締め付けた。

 数秒ほどそうしていたかと思うと、空気に溶けるように腕は消える。

 挟まれていた鬼は空中に放り出され。そのまま地面へと落ちていく。

 だが意識は失っていないのか、口から血を吐き出しながらも何とか体勢を立て直そうと空中でもがいていた。

 そこに――


「これで終いじゃ『パーッ』!」


 少女の叫びに呼応して三度現れる巨大な腕。

 鬼の直上に出現したその腕は、手の平を下に向けたままドンドンと加速し遂に


「クソがァァァァッ!」


 空中で鬼を捉えた。

 だがそこで加速は終わらず、むしろさらに速度を上げて地面へと向かっていき――



 ズゥンッッッ!



 先程聞いた狛犬の攻撃よりもさらに大きな衝突音と震動を立てて腕は地面に墜落した。

 腕の近くの玉砂利が、あまりの衝撃に衝突した瞬間数センチ浮き上がる。

 その衝撃は震動となり、腕を中心として周囲に波及していく。

 かく言う俺もあまりの震動に立っていることが出来ず、片膝をついてしまう。


 しかし、そんな中。


「カカカ! 『ジャン拳 アレンジver』じゃ! さすがにあの腕では目つぶしが出来んからの!」


 俺の前に立つ少女だけが愉快そうに声高に笑い声をあげていた。

ちなみにマテバ6ウニカは拳銃の名前です。

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