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私には今〝力〟が必要なんだ

二日連続で遅刻><

すいません。

新幹線の移動があるとやっぱりキツイですね。

「モモォォォ!」


「『鬼仙神楽・嵐舞らんぶ』!」


 2人の怒号が響き、セキトが『鬼神楽おにかぐら』を舞うモモに突っ込む。

 しかしそれは私から見ても無謀と言わざるを得なかった。


『鬼神楽』を舞い、魔力と風をその身に纏ったモモはまさに台風そのもの。


 優美なその舞とは裏腹に、信じられないほど狂暴にその能力は発現していた。

 だがセキトはそんなことに構わず、上段に構えた刀を唐竹割に振り下ろした。


「オラァ!」


 気合と共に振り下ろされる刀。

 しかしそれは――


 ギィン!


 暴風を割ることが出来ずに弾かれた。

 明らかに風ではない、硬質なもの同士がぶつかる音が響く。


「なっ……ゴァッ!?」


 驚きの表情を浮かべたセキト。

 その腹にモモのカウンターが決まる。

 モモを取り巻いていた暴風が攻撃を防いだ次の瞬間には形を変え、セキトのみへの超局所的な突風となり襲いかかったのだ。


 ゴゥッという凄まじい風音とマシンガンのような連続した打撃音・・・が辺りを埋める。


「ガァァァッ!」


 だが、その風をセキトは雄叫びをあげて魔力の放出で強引に引きちぎった。

 荒れ狂っていた風は霧散し、パラパラと無数の何かが地面に落ちる。


「ハァハァ……なるほど。こいつがお前のからくりか」


 体の至るところに風による裂傷と、赤く腫れ上がった打ち身を作ったセキトが息を切らせながらも落ちたソレを摘まみあげた。

 その指先にあったのは玉砂利。


「こいつを風で巻き上げて紛れさせることで、俺の刀を弾いたり、これ自身をぶつけて来たりしたわけか」


「……わかったところでどうする? この通り、石はまだまだあるぞ」


 言葉通り、周囲には玉砂利がまだまだ多くある。

 加えて、モモは周囲の風をうまく操り更に多くの玉砂利を巻き上げ、己の風を強化する。

 巻き上げられた玉砂利は数秒で高速まで加速し、風中の黒い一本の線となる。


「かんけーねぇな、こんな小細工」


 しかし、その光景を見てもセキトの不敵な態度は変わらない。

 モモの技を「小細工」と言いきり、セキトの指に力が込められる。

 親指と人差し指で挟んだ玉砂利が ミシミシ と不快な音をたて――

 

 バァンッ


 砕け散った。


 その頃にはセキトの体に刻まれた傷もほとんどが癒えている。


「昔っから変わんねぇなぁ、モノに魔力乗せんのが下手くそのままだ! こんな十分に魔力の乗っていない攻撃が俺に効くかよぉ!」


 吠え声をあげ、再びモモへと駆け出した。


「何度きても同じだ!」


「いいや違うぜぇ!」


 確かに先程とは違った。

 セキトは『迷家マヨイガ』は抜かずに腰に差したまま、無手でモモの風へと突っ込む。

 当然その体へと風とつぶてが襲い掛かる。

 十分な加速を得て飛び込んだはずなのに、襲い掛かるそれらの威力にすぐ減衰させられる。


 だが、それでもセキトは吹き飛ばない。


 風がその身を裂き、つぶてに打たれようとも、揺れることはあっても吹き飛ぶことはない。

 両腕で顔を覆い、ゆっくりとだが荒れ狂う風の中を突き進む。

 そして遂に――


「抜けたぞモモォ!」


 台風の目――中心にいるモモ――へと辿り着いた。

 次の瞬間には満身創痍とは思えないほどに素早く『迷家マヨイガ』を抜き放ち、モモの首を薙ぎ払う。

 だがその捨て身の攻撃は


「……馬鹿なのか貴様?」


 心底呆れた様子のモモが翳した扇子によって


 チンッ


 となんでもないことのように受け止められた。


「なにぃ!?」


 これにはセキトも流石に声をあげる。

 大人と子供ほどに対格差があるにも関わらず、涼やかな顔で止められたのだ、当然と言える。

 更に、昨日の時点では膂力においてセキトが圧倒していたというのもある。


 それが弱っていると言っても、セキトの全力の攻撃を受け止めるとは信じられなかった。


「信じられないという顔をしているな」


 そんなセキトにモモが声をかける。


「なぜ私がこれ程の魔力を得ているにも関わらず、身体強化すらしてないと思える? それとも、身体強化していようと圧倒できると思ったか? ……あまり、ナメるな」


 その言葉が終わると同時に、セキトの足元から風が吹き上げる。


「う、グァァァ!」


 いきなりの不意打ち。

 セキトは耐えきれずに空中へと高く舞い上げられる。


「確かに、先程貴様が言った通り私はあまりモノに魔力を纏わせるのが得意ではない。だが――」


 そこで一旦言葉を切り、宙のセキトを睨み付ける。


「――いくら効かないと言っても、殴り続ければいつか死ぬだろ?」


 そんな物騒なことを呟き、開いた扇子をセキトに向け



「『鬼仙神楽・桃花嵐獄とうからんごく』」



 バチン と音を立てて扇子を閉じる。

 途端にモモの周囲を渦巻いていた風が全て、セキトへと殺到した。


 そこからは一方的な蹂躙だった。


 風とつぶてがセキトを落とさないように絶妙に打ち上げ、そのまま宙へと届ませる。

 それでいて、セキトの全身は風の刃で切り裂かれ、つぶてによって肉が抉られる。

 すぐにセキトの体が血で真っ赤に染め上げられた。


 最初は「ガァッ」や「ウグゥ」と呻き声を上げていたセキトであったが、それが数分も続くと何も発することがなくなり、その体から力が抜けてぐったりと四肢を投げ出し、されるがままとなる。


 そこで漸く、モモはセキトを解放する。


 空中で放り出されたセキトは重力のままベシャッと地面に墜落した。

 その様は糸の切れた操り人形の様で、まるで生気が感じられない。


「……死んだ?」


 恐る恐るモモへと問いかけてみる。


「いいえ、死んでいませんよ」


 無表情でモモは返してくる。

 その言葉に少しだけホッとしている自分がいた。


 相手がどれだけヒドイ奴で、殺されて仕方のない奴だったとしても、やはり友達に殺してほしくなかった、


「コイツは四十万しじまさんに引き渡す約束でしたからね。その約束は守らねばいけません」


 モモは表情をかすかな笑みへと変えながら言葉を続ける。


「……約束していなかったら殺していたとも聞こえるよ、モモ」


「ハハッ、まさかまさか。ちゃんと最初から動けなくするつもりでしたよ」


「ちょ、ちゃんと私の目を見て言ってよ!」




 そんな私とモモ、2人が気を抜いた時だった――




 トスッ




 と軽い音を立てて|モモの胸から刃が生える《・・・・・・・・》。


「……え?」


「――ゴポッ」


 私が呆然とした声を上げるのと、モモが口から血泡を吹いたのは同時だった。

 モモが吐いた血が正面に立つ私の顔へとかかる。


 そこに至り、ズルリと刃がモモの胸から引き抜かれた。

 モモの白い小袖が胸を中心に真っ赤に染め上げられていく。

 ぐらりとふらつき、前のめりに倒れるモモを慌てて抱き留めた。


 そうしてモモの背後から


「おいおいおい、簡単な身代わりも見抜けなかったのかよ。やっぱりお前に戦いは向いてないぜぇ、モモ」


 モモの血で濡れた刀を片手に持ったセキトが姿を現す。


 その姿を見た瞬間、私の中で何かがキレる。


「お前ぇぇぇぇぇ!」


 怒りのままにセキトへと拳を振り上げて突っ込む。

 だが――


「ウゼェよ」


 一蹴。


 セキトの鋭すぎる蹴りが、アイツから渡された腕輪の自動防御を打ち破り私の腹に刺さる。

防御膜を通したことで大分威力が減衰したはずなのに、それでも凄まじい衝撃が体を突き抜ける。


「ウゲェェェ」


 あまりの衝撃に朝食べたものが逆流して、口から出る。

 胃液が喉を焼き、嘔吐感で目に涙が滲む。

 そうして蹲った私に


「汚ぇな」


 再びセキトが蹴りを放つ。

 横から蹴られたのでその蹴りは左腕に当たった。

 左腕が軋みを上げながら、私の体は数メートルほど宙を舞う。

 数秒の浮遊感を経て、玉砂利の敷き詰められた地面に顔から落ちた。

 ツーンとした感覚があり、鼻を鉄臭さが占める。


 あまりの痛さに意識が飛びそうになるも、気力だけで繋ぎ、モモの方へと顔を向ける。


 そこでは今まさに、セキトがモモの首を断ち切ろうと刀を振り上げた所だった。



 目から涙が溢れる。


 痛みではない、悔しさでだ。


 目の前で友達が殺されそうになっているというのに何も出来ず、二発の蹴りで地面へと倒れ伏す事になった自分の不甲斐なさが悔しい。



 もっと。




 ――もっと、私に力があれば。




 そう強く心の中で願った時、私は感じた。



 体の奥、今まで感じたことのない場所に漆黒の底知れない何かが眠っていることに。



 それを掴みとれば自分は力を得られることを、本能で察した。

 そして、掴んでしまえば後戻りができないことも、察した。




 だが。


 それでも。




「私には今〝力〟が必要なんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 叫び、それを掴みとる。




 瞬間、空間が爆発した。

吐いても妹は可愛いものです。


レイが防御の腕輪持ってることをうっかり忘れていたので、加筆訂正しました。

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