とにかく行って見なくちゃ始まらん
さっき調べてみたら、昨日2ちゃんねるでこの作品を紹介してくださった方がおられました。とてもありがたいことです、期待に添えるように頑張っていきたいと思います。
「とりあえずはじめまして、俺がこのB&Bトラブルバスターズの所長の師里アキラだ。こっちが――」
「助手のスズじゃ」
応接用のソファーにスズと並んで座った俺達は、対面に座った男に自己紹介を行う。
「まぁ、一応これも見せとくよ」
そう言って、2人で黒いカードを男に示す。
このカードは政府の発行している能力者の登録証だ。
氏名や住所、能力強度などが示されている俺達の身分証明書である。
「なるほど確認した。俺は――四十万だ」
シジマ?
うーん、どっかで聞いた覚えがあるのだがどこだったか。
「俺の身分はゲンさんから伝わっているな?」
しかし、会話の途中ということもありその疑問はすぐに消え去る。
「あぁ勿論聞いている。で、警察が秘密裏に一体何をさせたいんだ? ウチに」
四十万の問いに問いで返す。
ぞんざいな態度は相手が同い年くらいで、あとなんだかやけに態度が悪いからだ。
決してイケメンだから嫉妬しているわけではない。
断じて違う。
「警察!?」
お茶をもって来てくれたあと、自分の席に戻っていたヒトミちゃんが驚いたような顔をして、絶叫に似た声をあげる。
「……あまり口外してほしくないのだが」
対面に座る四十万が苦々しい表情を浮かべて抗議してくる。
「口外? 何を言っとる。ここにはウチの従業員とお主しかおらんじゃろ。どこが外なんじゃ?」
「彼女はバイトだろ! この件に関わらせるべきではない!」
「バイトとて立派なウチの従業員じゃ。ヤツとてこの事務所に骨を埋める覚悟はとっくに持っておる」
スズが述べた勝手な理屈に、ブンブンとヒトミちゃんが激しく首を振る。
「まぁ、どっちにしても仕事を受けるんなら彼女にも関わって貰う。バイトでも遊ばせておく余裕はウチに無い」
所長として真っ当な理由を述べ、スズを援護する。
俺の言葉にヒトミちゃんが嫌そうな顔をしている。
確かに「警察」絡みの事なんて胡散臭すぎるけど、たぶん大丈夫だからそんな顔しないでほしい。
すると「クッ!」と呻いて四十万は俺の事を睨んだ。
え、なんでコイツは俺の事をこんな親の仇でも見るような目で睨むんだ?
「チッ、本当にお前らで大丈夫なんだろうな」
「さてな、ウチを選んだのはソチラさんだろ」
「クッ!」
再び呻き「何でゲンさんはこんなヤツに……」とぶつぶつ言い始めた。
しかしすぐに元の調子に戻り、口を開く。
「まぁいい、そこまで言うのなら何かあったとしてもソチラの責任だぞ」
「あぁ、勿論だ」
そう答えたのになぜか睨んでくる四十万。
何でお前の言ったこと肯定したのに睨まれなきゃいけないんだっての。
四十万は不機嫌なまま口を開く。
「……今、この街に置いて凶悪な事件が起きていることは知っているだろう?」
「知らん」
「知らぬな」
「凶悪な事件と言うと『人食鬼』事件ですね」
「おい、なんでバイトの方が知っているんだ?」
堪らずにツッコミを入れてくる四十万。
いや、でもだって『事件』なら俺達には全く関係ないことだしな。
「儂らは『特殊災害』相手の何でも屋じゃ、別に知っている必要もないじゃろ」
「……これくらい話題になってますから、普通に生活していれば耳に入ると思うんですけど」
「よいか、東堂。世の中には普通に生活していない人間だっておるのじゃ」
「全く自慢にもならないけどな、ハハハ!」
そんな俺達の様子に「ハァ~」とあきれた溜息をつくヒトミちゃん。
「……話を戻していいか?」
イラついたようなその声で対面の男に視線を戻す。
「あぁ、悪い悪い。どうぞ」
そう言って促すと再び男は話し出す。
「その事件についてだが、詳しく知らないというのならむしろそっちの方が都合がいいかもしれん。事前情報に惑わされないからな。まぁ、猟奇的な連続殺人事件が起こっていると考えてくれればそれでいい」
「了解。だが話が見えないな、それこそ警察の仕事だろそういうのは。なんでわざわざウチに来たんだ?」
率直な疑問をぶつける。
「……無いんだ」
「あん?」
その問いへの答はボソッと言う呟きだった。
「証拠がまるで無いんだ。凶器もない。指紋もない。毛髪の類いもない。犯人を探す手がかりが何1つ残っていないんだ」
「なるほど。それは確かに不自然、特災がらみの事件だってわけか」
「そう言うことだ」
「え!? でも待ってください、あの事件は特災は関係ないと公式に発表してましたよね。一体どういうことなんですか?」
俺はその説明に納得しかけたが、横からヒトミちゃんが唐突に割り込んでくる。
「判断ミス、つまりそう言うことじゃろ」
「……判断を下した上層部は認めようとはしないだろうがな」
「なるほど、つまり俺達は一般事件として捜査している警察とは別に、特災絡みと考えて捜査していくってわけだな。しかもそいつらにバレないように」
「そうだ、それが今回の依頼だ」
「なるほど認められないやり方でも正しいことをする……ゲンらしい考えだ。だが、ゲンがいても特災絡みだと確信出来なかったとなると大分厄介だな」
旧知の間柄でもあるデカいおっさんを思い出しながら口に出す。
「まぁ、とりあえずやるだけやってみますか」
ゲンからの依頼と言うことで断る気は元々なかったが、今一度気合を入れ直して向き合うことにした。
☆★☆
「さて、それじゃまず初めに君の意見を聞こうかヒトミちゃん」
捜査を始める最初の一歩として、俺はバイトであるヒトミちゃんの意見を聞いた。
「おい、待て。さっきも言ったがその子はバイトだろ。仮にも能力者のお前たちがいるって言うのに、こんな子の意見を聞くのか?」
しかし、またしても四十万が突っかかってきて遮られる。
「ったく、一々うっさいなアンタは。こっちにはこっちのやり方ってもんがあるんだよ」
「しかし――!」
「アンタたちのやり方でダメだったからウチに来たんだろ。とりあえずウチのやり方に従ってくれ」
「……チッ」
小さく舌打ちをする四十万。
しかし、それだけで言葉を挟んでこなくなった。
「あの、ホントに私の意見でいいんでしょうか?」
「勿論だ。『暴走特急』って呼ばれるほど特災を見てきたヒトミちゃんの意見が俺は聞きたい」
その俺の言葉に四十万が「『暴走特急』? この娘が?」と目を丸くしていた。
警察でも有名とかヒトミちゃんは流石だな。
「わかりました。そう言うことでしたら……」
そう前置きをしてヒトミちゃんは話し出す。
「まず前提としてですが、私はこの事件に特災は関係していないと考えています」
「いきなり言い切るね」
「はい、ですが今得られた情報だとそうとしか考えられないと思いませんか? だって何の痕跡も残っていないんですよ。特災はその名前の通り災害です、何の痕跡も残さず人体だけを破壊するだなんて……」
「ランクA以上。それくらいの実力があって出来ることじゃな」
「ですが、それだと魔力検知に引っかからないなんてことはありませんよね。存在しているだけで魔力を垂れ流しているような存在ですから」
「やっぱり魔力の反応は残っていないんだな」
警察が一般事件として捜査していると聞いた時からその可能性は考えていた。
通常考えられない事件が起きた場合、まず初めに行うことは魔力検知と言うのがオーソドックスなやり方だ。
特災や能力者が関わっていた場合は魔力が残るからである。
魔力の有無。
単純だが効果の高い判別方法。
しかしそれが今回は働いていないと言うと――
「なるほどな」
「これだけで何かわかったっていうのか?」
四十万が期待していない口調で訊いてくる。
なんでコイツがここまで俺に攻撃的なのかはわからんが、やられっぱなしと言うのも癪だ。
「まぁ、少しは」
「……なに?」
首元に締めた赤いネクタイを少し緩める。
何かコイツに正装してるのがバカらしい。
「例えば、魔力検知を行ったのは何回だ?」
「8件中の最初の3回だ」
「それやったのはどこだ?」
「魔力検知や調査を専門に行っている大きな会社だ。名前は確か『サードアイ』と言ったか」
「3回とも?」
「あぁ。だがそれがどうした?」
「――例えば」
問いの意味が分からずに結論を焦る四十万を手で制する。
「例えばその会社が検知結果を改竄していたら?」
「なっ! そんな馬鹿な!」
まるでそんな可能性を考えていなかったのか、驚きの声を上げる四十万。
「馬鹿なって言うが、警察の人間で魔力を検知できる奴がいるか? 能力者は警察組織に就職できないってのに」
「そ、それは……」
「もしも嘘をつかれてても同じ能力者……しかも感知能力に秀でた奴じゃないと見抜くのは難しいだろうな」
「な、なるほど!」
四十万は俺の言葉に感心の声を上げるが、すぐにハッとした顔になり咳払いをして誤魔化す。
「ゴホッ! ――それじゃすぐにそのことをゲンさんに伝えないと」
「いや、でもその線は薄いと思うぜ」
「……なんだと?」
自分で言った言葉を自分で否定した俺に、疑うような目を向けてくる四十万。
「師里、貴様俺をおちょくっているのか?」
「おちょくってないっての、いいから少し落ち着けよ」
怒りもあらわに俺に詰め寄ろうとする四十万を押しとどめ、席に戻す。
「俺は『サードアイ』の連中を知っているが、自分たちの仕事に責任を持っているタイプの奴らだ。流石に結果の改竄なんかするとは思えない。――でもこうやって小さなことも疑って考えてみればちょっとした穴が見つかるもんだろ」
「……確かに、我々一般人と能力者の視点では見えるものも違うという事か」
俺の言葉に渋々と言った様子で同意する四十万。
「そういうことだな。――さて」
俺は膝をパンと叩き立ち上がる。
「もう少しで暗くなるけど現場行ってみるか」
「いや、悪いが先ほども言ったが秘密裏に捜査に当たっているんだ。昨日の事件現場には流石に入れないぞ、まだ封鎖されているはずだ」
「え、昨日も事件あったのか?」
呆れる様子の四十万だが構っていられない。
なるほど、思った以上に事態は切羽詰っているようだな。
だが――
「まぁ、行くのはそこじゃない」
「なんだと?」
「とりあえず最初に事件があった場所から回ってみようかと思う。『現場百篇』、『犯人は現場に戻る』、『捜査は足で稼げ』ってよく言うだろ。とにかく行って見なくちゃ始まらん」




