なんでこんなところでお前が出てくる
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初二桁!
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真夜中の住宅街をパトランプの赤い光が切り裂き、サイレンが空気を震わす。
それらは本来は注意を促すためのものなのに、逆にヤジウマを集めてしまう結果になっていた。
近所の家から出てきた何人もの人が、警察の張った立ち入り禁止テープの前で人垣を作って中を覗き込む。
突然の通報を受けて現場に駆けつけた俺、四十万ジンはその人垣を割ってテープを潜る。
所轄の制服警官が私服の俺を止めるが、足を止めずに警察手帳を見せて現場へと一直線に進む。
途中で証拠保全のために布製の白手袋をはめた。
そうして立ち入り禁止テープのさらに奥、ブルーシートで覆われた一角に立ち入る。
「ゲンさん、すいません遅れました」
ブルーシートの内側に見知った顔を見つけて、その人に駆け寄る。
身長180センチ以上の長身は、鑑識や他の刑事が溢れる中にあっても目立つ。
「よぅジマ、遅刻なんか気にすんな。それより悪いな非番だったのに呼び出してよ」
そう言って顔の前で片手をたてて謝る。
彼の名前は五味ゲンジ。
中年と言っていい年齢であるがメタボという言葉とは縁遠く、その体は筋骨粒々。着ているスーツがきつそうなほどだ。
またその体に似合ったいかつい風貌をしており、周りへの威圧感が半端ない。さらに過去に出来たという右頬を縦一文字に走る痛々しい傷跡がその迫力を増させる。
しかし見た目の印象とは裏腹にその性格はコミカルで、犯罪者以外への人当たりのよさは署内でも随一だ。
子供にも好かれ、町を歩けば「大きいおじちゃん!」と声をかけられることも少なくない。
尊敬すべき、理想的な警察官だ。
この人の下で働けることが出来て、自分は幸運である。
「いえ、自分のヤマですから。寝てなんていられません」
ゲンさんの謝罪にそう答える。
いつ呼び出されるかわからないなんてことは、警察官になったときに覚悟を決めた。
ゲンさんが謝るいわれなどまったくない。
逆にどんな状況であれ、上司よりも遅くついた俺を叱ってもいいくらいだ。
「……まぁ、あんま気を張るなよ、四六時中張ってるとバテるぞ。張る時に張る、緩むときは緩む。それが出来て一人前だ」
「……わかりました」
俺の返事に「よし」と一言だけ返し、ゲンさんは俺に問いかけてきた。
「で、どう見るこれ」
「十中八九ヤツの仕業でしょう」
即座に答える。
それが出来たのはブルーシートの中に入った瞬間から警戒し周囲を観察していたからだ。
ブルーシートを開けた瞬間、感じたのは猛烈な鉄臭さだった。
その元は周囲に飛び散った血液。
全身の血が体外に流れ出たのではないかというほどの量が辺りに飛び散り、血の池を作っている。
しかもその赤黒い液体の中にはいくつか、白色の固形物もあった。
それは骨だったり歯だったり、血の気の失せた人体の一部。
人の体がバラバラに散乱している。
一番悲惨であろう死体の本体にはブルーシートが掛けられ様子が窺えないが、周囲の惨状からある程度の予測はつく。
「また派手に食い散らかしましたね」
「全くだ、胸糞わりぃ」
ゲンさんが珍しく怒りを込めて言葉を吐き出す。
これを行った犯人はわかっている。
同じような残虐非道な殺人事件がここ一ヶ月で7件も起きているからだ。
今回が8件目。
異例の速度で人を殺している様から、マスコミからは『人食鬼』なんて呼んでいる。
何が『人食鬼』だ。
ただの殺人犯だろうが。
しかしそう思っても実際問題として何一つとして捜査は進んでいない。
『人食鬼』はこれほどまで連続的に、そして大胆に犯行を行っているのにも関わらす何も手がかりが掴めず、行方が知れないのだ。
犯行の異常性と現場に残った証拠が殆ど無いことなどを合わせて、特殊災害の仕業ではないかと言う噂も立っている。
勿論、その可能性は最初の事件発生の時に考えた。
だからすぐに、特殊災害の調査分析を専門とする民間企業に依頼して調べさせた。
しかしその結果として分かったことは
『残留魔力は無く、何らかの超常現象によって事件が引き起こされた可能性は低い』
『体の断面は鋭利な刃物で斬られているが、特殊災害と断定できるほどのものではない』
と言った事だけ。
つまり特殊災害の仕業だと断定できるものではなかった。
もっと言えば、特殊災害が関わっている可能性の方が少ないとさえいえる。
特殊災害だと断定できなければ民間に任せることなどできはしない。
ましてや凶悪な殺人犯だ。
いくら能力者といえども危険すぎる。
そう言った事情から、今まで警察の身で捜査を行ってきた。
しかし、手がかりも掴めず、次々と起きていく犯罪を防ぐこともできないので関係者の間でもピリピリとした雰囲気が最近漂っている。
実際、あのゲンさんが怒りを表すなど相当の事であるのだ。
「おい、ジマ」
見慣れてしまった残虐な現場の検証を行っていたら、ゲンさんが声をかけてきた。
ちなみにこの「ジマ」とは俺の名字の四十万からきているニックネームである。
「なんですゲンさん?」
呼ばれて近寄ると、ゲンさんはチョイチョイと手を動かす。
意味は「耳を貸せ」だ。
その指示通りに、不自然にならないくらいにゲンさんの近くに寄る。
そうするとすぐに、小声の囁きが聞こえてきた。
「(ジマよ、お前このままやってて犯人捕まると思うか)」
「(捕まえます……と言いたいですがちょっと厳しいと思います)」
「(お前のそういう客観的に見れる所は評価できる点だな)」
「(ありがとうございます!)」
憧れの人に褒められて少し声が大きくなってしまった。
すぐにゲンさんがシッーと口に指を当てる。
「(そうやって感情が時々抑えられないのが玉に瑕だな)」
「(……すいません)」
「(まぁいい、気にするな。それで話を戻すがこの事件、このままやっていても難しいだろう。いつかは犯人を捕まえられても、それまでに犠牲者が多数出るのは必至だ)」
「(そうですね……何か考えでも?)」
ゲンさんの言葉に問い返す。
この人が訳もなく自分たちの捜査を否定するとは思えなかったからだ。
何か打開策がある。
そう睨んだ。
「(あぁ、ある)」
「(ならそれを捜査本部に……!)」
「(いや、だめだ。あいつらは認めようとしないはずの方法だ)」
「(そ、そんな!? 認められない方法……囮捜査ですか?)」
ごくりと生唾を飲み込む。
捜査本部にすら認められない方法と言ったらやはり囮捜査だろうか。
だが相手は凶悪な殺人犯だ、いくら警察官と言えども囮にするには危険すぎる。
「(いや、違う。危なすぎんだろそんなの)」
しかし、そんな俺の予想は否定された。
ならばなんだろう。
頭をひねるが現状を打開する方法が思い浮かばない。
まぁ、もしも今浮かぶような案ならばこの一ヶ月で誰かが提案してるだろうしな。
だからゲンさんの言う「考え」に期待する。
そして、それを明かされるということは、自分はこの人に信頼されているんだと実感できた。
「(ジマ、俺は今回の一件は能力者と協力すべきだと考えている)」
そのため、ゲンさんが口にしたその言葉に唖然とした。
「(え、で、ですが今回は人間の犯行が高いと……)」
そう、捜査の初期段階で特災の関与はほぼ否定されている。
そんな状況で能力者を警察捜査に協力させるのは、確かに上層部は嫌がるだろう。
ただでさえ特殊災害の対応は民間の能力者に頼っている。もしも今、能力者の協力で一般事件が解決するようなことになれば能力者が警察の権限まで奪っていくのではないかと不安なのだ。
だから特殊災害が関わっていると断定できない場合では捜査に民間の能力者は立ち入らせないようにしている。
しかし俺のそんな言葉をゲンさんは一言で切った。
「(だが俺の“刑事の勘”って奴がそれは違うって言ってんのさ)」
「(今回の一件は特災が関わっていると……根拠は?)」
「(ねぇな。さっきも言ったが勘だ)」
「(そ、そうですか)」
勘だと言い切るゲンさんに少し引く。
勘だなんだとで捜査をしていたのは昔の話。
今は一個ずつ証拠を集めて辿るのが警察捜査だ。
だが、すぐに思い直す。
その証拠が今はないのだ。
だったらこの人の勘にかけてみてもいいのではないか。
なんたってこの人は俺が憧れるほどの人なんだ。
ふぅ~と一息ついて口を開く。
「(……で、俺は何をすればいいんですか?)」
「(お、やめるかと思ったがやってくれんのか。多分出世に響くぞ)」
「(茶化さないでください、別に出世なんてどうだっていいですよ。それよかこの事件をどうにかしないといけませんて、どんな手を使っても)」
「(……いい目をするようになったなジマ。よし、それじゃお前明日から休め)」
「え!?」
全く予期していない言葉に素っ頓狂な声を出してしまった。
周りの警官たちの視線が集まる。
……ヤバい。
「ハッハッハ! 警官がこんな怪談話で驚くんじゃねーよジマ!」
しかし、いきなり隣のゲンさんがそんなことを言いながら、俺の背中をバシバシと叩いた。
俺はすぐにその意図を察し「マジ俺怪談苦手なんすよ、勘弁してください」とわざとらしく声を上げる。
そんな俺達に周りの警官は「またあの人か……」と言った様子で作業に戻っていく。
ホッ、何とかなった、
でもゲンさん。
バシバシと叩かれる背中が痛いっす。ちょっと手加減してください。
多分赤くなってる背中をさすりながら会話に戻る。
「(なんで俺が休まなきゃならないんですか?)」
「(そりゃ、上の奴らの目を欺くためだ。有給使って捜査してくれ)」
ゲンさんの説明に納得がいく。
「(なるほど……それを先に言ってくださいよ。驚いたじゃないですか)」
「(ホント、お前は不測の事態に弱いな)」
「(ウッ、それは……)」
「(……まぁそれはいい。やってくれるか? ジマ)」
「(勿論です)」
「(悪いな、ホントは俺が出来ればいいんだが、色々とやってきたせいで上の監視がひどくてな)」
申し訳なさそうに頭を掻くゲンさん。
「(そんな! 俺はゲンさんの部下なんだから遠慮なく使ってください!)」
「(すまん、助かる。……このヤマが終わったら飲みに連れて行ってやるよ)」
「(楽しみにしてます!)」
そうして、ゲンさんはおもむろに懐から一枚の名刺を取り出した。
「(なんですか、これ?)」
差し出されたそれを受け取る。
『B&Bトラブルバスターズ』?
聞いたことないな。
しかもなんだこれ、何でも屋って。
「(それは、俺が贔屓にしてる能力者の事務所だ。若いが、腕は確かだ。相当場数も踏んでるし、明日はそこに向かってくれ。話は通しておく)」
「(わかりまし――え?)」
「(どうした?)」
しかし、ゲンさんの声に答える余裕はなかった。
渡された名刺、その裏に見覚えのある名前を見つけてしまったから。
2度と見たくない、見覚えのある名前を見つけたから。
「なんでこんなところでお前が出てくる――師里アキラ」
用事があり、もしかしたら明日と明後日の更新が出来ないかもしれません。ご容赦を。




