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工業男子は七人の女神様に崇拝する  作者: 鹿島夏紀
序章 工業男子の成り果てと女子寮
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第7話

「...こんなもんか」

私服、予備の制服はタンスに。外套やコートはクローゼットに。教科書やノートは机にとりあえず置いた。

「あとは...」

この本。とりあえず、タンスの引出しの中に板を敷いてその上に挟んで板を敷いてその上に布を敷いてその上に服を入れてカモフラージュしよう。

ーーコンコンッ

「!?」

誰か来た!?

「...緑一、いる?」

「桃香か、びっくりさせるなよ...」

「あんたが勝手に驚いたんでしょ」

「それより、どうした?」

「えっと... ご飯作ったから、食べる?」

携帯を開くと、整理を始めてから時間が経っていた。

「...お前、料理苦手じゃなかったか?」

「失礼ね! 人並み程度にはできるわよ!」

痺れを切らしたのか、近づいてきて、半ばひったくるように俺の手を握り、

「いいから来なさい!」

「...はい」

まるでおもちゃ売り場から離れようとしない幼児を、連れていく母親のごとく引っ張っていく。

「主役がいないと話にならないでしょ」

「...主役?」

「あんたの歓迎会」

「へぇ。...は?」

「聞こえなかった? 歓迎会。管理人になるんでしょ?」

「まあ、そうだけど」

正直、歓迎会なんてされるとは思わなかった。前任のことがあるから、もっと嫌がられるのかと思っていた。

「(あんたは思っている以上に女子から人気があることを自覚しさなさいよ...)」

「なんかいったか?」

「な、何もないわよ! さっさと歩かないと引きずって歩くわよ」

「おい? ちょ!?」

階段まで引きずるつもりか!? ケツが割れる...!

しかし、さすがにそれはやめてくれたようで、

「...なんで、腕を組んでいるのか説明してくれるか?」

「女性をエスコートするのは、紳士の役目でしょ?」

「俺は、英国紳士じゃない。歩きづらいからこの腕を解放してくれ」

「嫌」

「えぇ...」

俺がエスコートするというよりは、無理やり腕を組まされている気がする。

「ほらっ、シャキッとしなさいよ」

「腕を組んでいるのが嘉野先輩だったらな...」

「そうですか、そうだよねー。緑一は、雨宮先輩みたいなスタイルの人が好みだもんねー」

「いや、そういうわけじゃ...」

確かに嘉野先輩の方が嬉しいけど、野郎どもと腕を組むよりマシ... 今頃だが、腕にあたる2つの膨らみがっ!?

「別にいいですよーだ」

「いや、ちょ...」

女子と腕を組んでいるって意識したら、恥ずかしい...

「緑一? どうしたの? 顔、赤いよ?」

気づかれてはいけないっ。腕を組んで歩いているから恥ずかしくて顔が赤いだなんて!

「暖房が、な...」

ポーカーフェイス。ポーカーフェイスだ。

「暖房? 談話室や食堂じゃないのに、暖房が効いているわけないじゃない」

シクッタァァァァ!

「緑一、もしかして...」

気づかれる...!?

「熱でもあるの?」

「熱? ...そうそう、熱があるんだ! 」

「ちょっと、顔を貸しなさい」とグイッと顔を引き寄せ、

「熱は... そこまでないんじゃない?」

額をつけたまま、首を傾げる桃香。

「そ、そうか...?」

ポ、ポーカーフェイスを保とうと頑張っているが、桃香の顔が近いっ!

端から見れば、キスしているようにしか見えないと思う。

よく考えれば、これは危ない状況なんじゃないか?

「も、桃香。そろそろ離れても大丈夫じゃないか?」

この危ない状況から脱するべく、桃香に提案してみるも、

「うん。...もうちょっと」

なぜか、離れなかった。

「「...」」

柔らかな薄紅色の髪を、頭の両端で結んだ腰まであるツインテールは、桃香の最大の武器だ。...物理的にじゃなくてな。

薔薇水晶のようで、吸い込まれそうな瞳が俺をまっすぐ見据えていた。

元気で無邪気なところも、桃香の長所だが、嘉野先輩みたいにもう少し大人びていても、いいと思う。

「いい加減は...」

「おっと、邪魔をしたか?」

「「!?」」

不意に聞こえたのは、階段の踊り場。

「ゆかりん!?」

「緑一、そんなに殴られたいのか?」

「いえ、丁重にお断りさせていただきます」

「遠慮するな。亡くなったおばあちゃんを見せてやる」

「見たくないし、俺の祖母は死んでません」

「それは、失礼なことをいったな」

本当だよ...

「言ったことに後悔はしているが、反省はしていない」

「反省しろよ‼」

この人と話していると疲れる...

「篠沢先生。なんでここにいるんですか?」

「ん? いや、緑一の歓迎会をすると聞いたからきてみたら主役がいない。瀧里が迎えにいったが帰ってこない。そこで私が見に行くことにしたんだ」

「あ、あたしは何もしてませんよっ!? ただ緑一が熱っぽいって言うから確認のために!」

「あんなに見つめ合って? 不純異性交遊もいいところだぞ? うん?」

「そんなに長い間してました、っていつから見てたんですか!?」

「あーっと、緑一に腕を絡ませるあたりからだな」

「「ほとんど最初からですね‼」」

「...」

「ゆかりん?」

「...っ」

あれ、なんだか嫌な予感がする... この感覚は...

「そ、そのぅ、叱りつけるような、サディストな目で、わ、私を舐め回すように見てくれ‼」

やっぱりな︎

「嫌だよ‼ ここ女子寮だぞ? 絶対目撃されたらロクな解釈されないぞ!?」

「嗚呼、その階段の上から、見下すようなその視線... イイ! とってもイイッ」

「やめてくれェェェェェェ‼」

「緑一、篠沢先生どうしたの...?」

「持病みたいなもんだよ! 時たまに発症する」

「へぇ... なんかすっごい乱れているように見えるわよ?」

「気にするな。ただ薄っすら目尻に涙を浮かべて肩を上下させるほど息を荒くし服まで乱れて妖艶というかただのビッ、もとい、扇情的などこにでもいる健全な先生だから」

「ちょっとまって!? どこも健全な部分が見当たらないんだけど!?」

「ほら、どこにでもいるような生徒指導教師」

「今の状況を見てこの人が生徒指導教師ってわかる人はいないでしょうね‼」

「うん」

「わかってるじゃないの‼」

桃香も肩を上下させて息が荒い。別の意味だが。

そろそろ桃香が壊れそうなため、これ以上のボケはやめた。

「はいはい、ゆかりん。食堂に向かうぞ」

ゆかりんの肩を押して、食堂へと足を運ぶ。

「緑一ぃ、その...」

「はーい、行きますよー」

後ろから前にと肩を押すその様子は、きっと病院の車椅子を押す看護師と患者のように見えたに違いない。

ほぼ現実逃避だった。この状況から早く抜け出したいというのと、面倒だから早く連れて行ってしまおうという算段だ。

「緑一。手伝おうか?」

「大丈夫。それより、先に行ってみんなに知らせておいてくれ」

「わかった」

こういう時に素直に従ってくれるため、桃香は頼り甲斐がある。

まだゆかりんはグズっているが、幸い廊下に女子生徒はいないようで、早く運んでしまえば、見つかることもなくことを運ぶことができる。

「(この人の性癖、どうにかならないかねぇ...)」

そんなことを思いつつ、ゆっくりだが、食堂へと一歩、また一歩と足を進めていく。


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