第5話
「キツい...」
女子寮まで紙束を運んだはいいが、それから管理人の部屋まで運ぶのに、相当な労力を使った。
「あはは、大丈夫?」
意地でも白菜に持たせなかったため、疲労度は桁違い。白菜は「あははは...」と少し引きぎみに乾いた笑みを浮かべている。
「大丈夫だったら、こんな、疲れない...」
「だよねー」
「...白菜、ドアを開けてくれ」
「はいはーい」
もう一度、紙束を抱えなおし、管理人の部屋に入る。
「嘉野先輩! 白菜に何を教えてるんです、か...」
管理人の部屋に入る。するとそこには、女神様たちがいました。...顔を赤くして。
「どうしたんですか...?」
「いや、特になにもない...」
「...?」
妙に顔が赤い。
初めてここに入ったときはいなかった、葵、理胡の2人とも顔が赤い。
「葵と理胡もきてたのか」
2人ともうつむきながら赤べこのように、こっくりこっくりと首を縦に振るばかりだ。
「どうかしたのか?」
下から覗き込むようにして表情をうかがうと、顔を逸らされた。...俺、嫌われてるのか?
「...」
そういえば、いつもなら何があっても動じない、ポーカーフェイスの理胡の顔が、赤みを帯びているように見える。
「...変態」
「うぉう。視線を合わせただけで、それを言われると中々精神的にくるものがあるぞ」
「...緑一、変態」
「精神的にくるって聞こえなかったか...?」
「り、緑一君。君は健全な男子だ。異性に興味を持つのはいいと思う。しかしあれは...」
あれ? あれって、まさか...
「か、嘉野先輩。俺の荷造りをしたのは、雅哉ですよね?」
「私も手伝ったが、ほとんどは藤本君がしてくれたよ」
「まだ、ダンボールを開けたりしてないですよね?」
「いや、善意なんだ。善意なんだが、荷物の整理をしようと思い、ダンボールを開けたら...」
予想が正しければ...
「教育上いかがわしい本が1番上にあってだな。 ...本当に善意なんだ!」
「あの野郎ォォォォォォォォォォォォォ‼」
雅哉のやつ、わざとあの本を1番上におきやがった!
俺の叫びに、一瞬ビクッと女神様全員が震え、すかさず嘉野先輩がフォローに入る。
「ま、まあ、内容が私に似てないのは、残念だったな! まさか理胡君に似ているロリ百合展開ものだとは、思いもしなかった! 」
「やめてくれェェェェェェ‼」
フォローもなにもねぇよチクショウォォォォォォ‼
「緑一君、どうしたんだい!?」
あまりの精神的ダメージに、その場に崩れる俺を見て、
「雨宮先輩、フォローになってません...」と一言、桃香がつぶやくように言った。
「り、理胡。俺は別にお前に似ているからとかそんなことは思ってないからな...?」
理胡に視線を向けると、
「...!」
ボフッ! と蒸気が上がるような音が聞こえた気がした。
ポーカーフェイスとかもう関係ないぐらいに、顔をリンゴのように真っ赤にし、照れ隠しなのか、それともただ視線を合わせたくないだけなのか、下をうつむき僅かに体を震わせている。
「「...」」
「緑一さん、生徒指導室でどんな内容の話をしてきたんですか?」
この中で1番まともであろう葵が、少しの間を打ち破った。...葵、ナイスフォロー!
「仕事内容とか、この紙束に書いてあるみたいだ」
その場に崩れ落ちたときに、前に落とした紙束を指さす。
「うわあ... この資料のせいで帰りが遅くなったんですね」
「ま、まあな」
それだけが遅れた原因じゃないけどな...
嘉野先輩が横から「葵君は、緑一君と入れ違うようにきたんだ」とつけ加える。
「え、でも緑一くん、白菜が迎えに行ったとき、ゆかりんを押し倒してたよね?」
「白菜っ!?」
思わぬ地雷&伏兵。
次に女神様に視線を向けると、目元が暗く、殺気に似たオーラを醸し出している。
「ほお。篠沢先生を押し倒した。ほおう...?」
「緑一、信じられない...」
「...緑一、やっぱり、変態」
「緑一さんに押し倒される... なんて羨ま、はしたないっ」
次々に襲いかかる罵倒の矢。...泣いていいですかね?
「緑一君。洗いざらい吐いてもらおうか」
女神様たちの目は全員据わっていて、俺が原因ではないと反論しようと思ったが、
「...はい」
そう答えるしかできなかった。