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工業男子は七人の女神様に崇拝する  作者: 鹿島夏紀
最終章 女神様の女神様による管理人とのデート
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第34話

 街中を歩いて、喫茶店に立ち寄り時間をつぶした。今思えば、これから晩飯を食べるっていうのに何でドリンク以外のものを注文したんだろうな……。

 家に帰ると、玄関にまで美味しそうな匂いが立ち込めていて、喫茶店で何か腹に入れたことなんて忘れてしまいそうだった。実際、カリエさんが作る料理は美味しかったし、たくさん食べさせてもらった。

「ごちそうさま」

 俺が手を合わせて言うと、カリエさんは「お粗末様でした」とにこやかに言う。あれだけの量をこんな短時間で作るってすごいと思った。俺と女神様、母さん、夏帆の分までとなったら、それは結構な量になる。

 メリア曰く「カリエの女子力は凄いのデス!」だそうだ。それだけで片付けていいとは思えないけどな。だけどまあ。効率が良くないとここまでできないだろうし、女子力は違うけど家事をこなす能力は高いだろう。

「緑くん~、一緒にお風呂入ろ~♪」

「きっしょ」

「酷いのぅ……。乙女らしく言ってみたのになんじゃその言いぐさは……」

「レンゲみたいな爺臭い口調に慣れていたら、そう思うだろ?」

 晩飯を食べ終わった俺たちはリビングでテレビを見ていた。今までの家では想像もできない賑やかさなのだが、母さんはニコニコとしているし、夏帆は姉ができたようだと喜んでいる。

「一応じゃな、儂が球技大会の優勝として緑一に好きなことをできる権利があるんじゃぞ?」

「だからって、一緒に風呂に入る権利は持ってないだろ」

「ほら、儂や理胡は幼い体系じゃろ? 問題ないじゃろ?」

「どこに問題がないのか説明してくれよ。端からみたら勘違いされるだろうが」

「それがどっこい! 『パパー!』と叫んでいれば問題ないのじゃ!」

 問題しかないんだよなあ。他の女神様は静かにテレビを見ているっていうのに、なんでこうもレンゲは俺にかまってくるんだ。

「理胡も入る」

「理胡? 話は聞いてたか? 俺は入らないぞ?」

「タオル、巻けば問題ない」

「あのなぁ。家の風呂は数人で入るほど広くないんだ。時間を決めて各自入るのが当たり前」

「じゃあ僕は!? 僕は男だし、二人なら問題ないよね!」

「娘虎先輩、黙ろうか」

 ついに娘虎先輩までも会話に入り込んでくる。このままだと嘉野先輩も横から食い込んできて大変なことになるぞ……。

「え~、緑一くんも僕も男だよ? なんの問題もないんだよ? 合法だよ?」

「合法ってなんだよ……」

「それなかお母さんと一緒に入る? もう、しばらく入ってないものねー……」

「いやマジで何言ってんの? 母さんと一緒に入る方が絶対にない」

 母さんは「冗談よ~」と言っているが、公共の場でそんなことを言い出したら勘違いされてしまうだろうがよ。そういうところには気を使ってほしい。

「兄さん兄さん! ここは仲良く兄妹で――」

「ない」

「お母さ~ん! 緑さんが虐める!」

「お前、そういうキャラだったか……?」

 母さんに泣きつく夏帆。……おいおい、なんだよその目は。いい年して兄と一緒に入ろうなんて考えるなよ。

「そういえば、レンゲと理胡は泊まるんだっけ?」

「緑一くん、僕。僕を忘れてるよ……」

「あ、そうだった。娘虎先輩もか……」

「なんで、そんなに嫌そうな顔をするの? 僕、悲しい……」

「先輩、そういうキャラだったか?」

 とはいえ、確実にこの人数が寝ることはできない。葵は家に帰るって言ってたし、嘉野先輩も帰ると聞いている。桃香も家に戻るって言ってたしな。

 家が遠いレンゲと理胡、娘虎先輩は俺の家に泊まることになっている。

「メリア、お前はどうするんだ?」

「へ? ワタシですか? ワタシはホテルに荷物を置いているので帰りマスよー」

「そうか。じゃあ、理胡とレンゲか」

「だから僕も……」

「緑さん、嘉野さんは帰っちゃうんですか?」

 娘虎先輩の言葉を遮るように夏帆が割り込んでくる。先輩は面白いぐらいに肩を落としてヘコんでいるけど、放っておこう。

「緑一君に迷惑をかけるわけにもいかない。それに私の母から戻ってくるように言われているからね」

「そうですか……」

 自分も、と頷く桃香と葵。まあ、俺は先に伝えられていたけど夏帆は初耳だからな。

「邪魔者は消える、というワケですね……」

 何か言ったような気がしたが、聞こえなかったことにしよう。

 時間は午後7時過ぎ。そろそろいい時間になってきたなと思っていると、カリエさんが口を開く。

「メリアお嬢様、そろそろ……」

「あ、そうデスねー。そろそろお開きにしまショウ!」

「ええ、緑一さんにも悪いですから。……皆様はどうなさいますか?」

「そうだね。私もそろそろ帰ろうかな」

「それでは送っていきましょう。桃香様もご一緒に」

「うん、そうする」

 夏帆の嬉々とした表情を横に立ち上がる桃香と嘉野先輩、メリア。……夏帆、今のお前は妹と思いたくないぐらい悪い顔をしているぞ。

 俺たちは玄関まで嘉野先輩たちを見送り、リビングに戻ってくる。各自、さっきまで座っていた場所に腰を下ろしてテレビを眺めた。

「夏歩と母さん、先に風呂入ってきていいぞ」

「あら、お客様が最初でしょう? 理胡ちゃんとこのみちゃんが最初ね」

「あ、僕……」

 母さんにまで忘れられるとは。娘虎先輩に同情したくなってきた。

「娘虎くんは緑一と入ってきていいわよ?」

「やったぁ!」

「おい、待て」

 前言撤回だ。同情なんて糞喰らえ。

「母さん? こいつも一応は女神様なんだぞ? 女子として見られているんだぞ?」

「生物学的には男でしょう?」

「女だろ?」

「あら! 緑くんったら女の子として見てるの!?」

「つ、つまり緑一くんからして、僕は恋愛対象……!」

「ないからな?」

 まったく、二人とも何を言ってんだ。男だけど、女っぽいから嫌なんだよ。娘虎先輩は……。

「しかし……。久しぶりにその名で呼ばれた気がするのう」

「レンゲかこのみの二択だろ」

「クラスの連中は未だにらくと呼ぶ輩がいるんでの……」

「まあ、初見はわからないからな。それに、教室にいることが少ないからな」

「それを言ってはいけないのじゃ……」

 表情を暗くして不気味に笑うレンゲ。まあ、期末考査の点数が悪いのは毎度のことだしな。いくら勉強しても意味がない。……一夜漬けでなんとか赤点回避ってところだけどな。

 母さんがレンゲと理胡に風呂を勧めるが、二人は丁重に断った。夏帆と母さんが風呂に入って、その次に理胡とレンゲ。娘虎先輩は最後まで俺と入るって粘っていたけど、無理やり脱衣所に押し込んで解決。

 だけど、いつもより抵抗してこないのが不安だった。俺が最後に入ることになったけど、それが一番危ないような気もする……。

「二度も風呂には入らないだろ……」

 そう思って、俺は脱衣所に入った。


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