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工業男子は七人の女神様に崇拝する  作者: 鹿島夏紀
最終章 女神様の女神様による管理人とのデート
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第33話

カリエさんからのメールを受け取ったことをメリアが俺たちに伝え、帰宅することになった。

 店内、周囲からの視線は冷たく、自分が注文した食べ物が何だったのか覚えていない。

「美味しかったねー!」

 白菜は満足そうに言っているが、俺はそんなことはない。

「そうだな。……なあ、緑一君」

「何がですか……」

 何を注文したか、どんな味だったのかわからないというのがそもそも。

「何がって、美味しかっただろう?」

「ああー、まあ、暖かったですね」

「暖かい?」

 覚えているのは、理胡とレンゲの太ももの暖かさぐらい。

「緑一さん、いやらしい顔をしてます……」

「いやいや、そんな顔はしてないぞ」

「なんじゃ、わしの太ももがそんなによかったのかの?」

 歩道の端を沿うように歩いていた俺の前にレンゲは立ち、華奢な体をくの字に曲げて、尻を突き出してくる。

「ほれほれ、触りたいのなら触っていいのじゃ」

「やめような」

 小学生にも見ることができるような外見のレンゲの太ももを触る男子高校生。端から見れば犯罪のほかなんでもない。……触らないけど。

「理胡のも、触る……?」

「触らないからな」

 尻を突き出してくる二人の間を通り抜け、女神様たちの先頭を歩く。

「そういえば……、メリア」

「おぅ!? どうしたのデスか?」

「いや、メリアは入寮するのか気になってさ」

「あー、もちろん入寮するつもりデスよー」

「そうか……」

 女子寮の人数が増えて、メリアに友達がふえることを願いたいが……。

「空き部屋ってあったか……?」

「ちゃんと部屋数も把握しているようだね」

「そりゃあ、まあ。覚えないといけないらしいですからね」

 結構、大変だったんだ。空き部屋と女子寮に入寮している学生を把握するのは……。

 そのうえ、ゆかりんから脅されるわ変な目で見られるわで、もう管理人を辞めたいぐらい。

「部屋なら白菜の部屋を貸してあげるよー」

「いや、無理だろ」

「えっ、なんで!?」

「なんでって……」

 女神様のなかで部屋が汚いランキングをつけるとしたら、白菜は2位になるからな。

「お前の部屋はレンゲの次に汚いぞ……」

「そうかなあ。週刊雑誌がいっぱい置いてあるけど……」

「雑誌だけじゃねえだろ。洗濯物や制服、教科書、ノートとかな」

 どうやって毎日の授業を受けているのか気になるぐらいだ。

「しかし、儂の部屋よりはマシなのじゃろう? だったら大丈夫―――」

「なわけないだろ」

 レンゲの部屋は汚いという限度を超えている。

 白菜の部屋に追試の答案が散乱しているようなものだ。

「あの答案の量……、お前どれだけ追試を受けてきたんだよ……」

「もう、覚えておらぬのう……。それに過去は振り返るものではないのじゃ」

「お前の場合は『過去を振り返りたくないほど成績が悪い』だろ」

「ま、まあ! 部屋が汚い時は葵に掃除をしてもらえば大丈夫なのじゃ!」

「お前なあ……」

 家事が得意な葵に掃除をさせていたのか……。いや、掃除してもあの汚さは……。

「レンゲさんは私が掃除しても、すぐに散らかしちゃうので……」

「やっぱりか」

「はい、この間なんか1時間もせずに元通りの汚さに戻っていました……」

 もう、なんとも言えない。

 レンゲは何を照れているのか頭をかいて「それほどでもないのじゃ」とつぶやいているが、褒めてないからな?

「やっぱりここは桃香じゃないか?」

「な、なんで私なのよ」

「ほら、お前なら部屋も散らかってないし、なんだかんだ言いながらも優しいしな。メリアも怯えなくてすむ」

「怯えるって何よ……。でも、まあ、私はいいけど」

「よし、メリアもそれでいいか?」

「はーい、大丈夫デスよー!」

 そう言ってメリアは笑ってみせた。

 歩道の中央でくるくると地面の摩擦など気にしていないように軽々と身を回転させるメリアの姿は、通行人の視線を独り占めしていた。工業高校ではあるが、女神様という美少女の集団に囲まれているというのに。

「……でも、前も留学をしていたんだよね? そのときはどうしたの?」

 疑問を投げかけたのは白菜。

 確かに、前に留学していたときはどうしていたのだろう。

「そのときは私の部屋さ」

「まあ、そうなるでしょうね」

「おかげで英語の成績があがったんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。私の部屋では共用語を英語にしたんだ。最初は全く理解できなかったんだが、身振り手振りで伝えて頑張ったよ」

「マジですか……」

 なにそのチャレンジ精神……。

「そうデスねー、桃香も英語で話しマスか?」

「私は嘉野先輩みたいに頭がよくないから……」

「儂に比べればマシなほうじゃろうに」

「レンゲ、お前は例外だ」

「むむぅ。日本人は母国語を話せればそれでいいのじゃ」

「それ、ダメな人の発言だからな」

 もっと、グローバルになろうぜ?

「それはそうと、緑坊」

「なんだ?」

「暇な日はあるかの」

「暇な日? 寮に戻ったら時間はあるけど」

「ふむ、じゃあ部屋の掃除を手伝ってくれんか。……無論、葵もじゃ」

「ふぇ、私もですか……?」

「当たり前じゃ。儂が散らかした家具や書物の配置を知っているのは葵だけじゃからのう」

「……はい」

 葵、とても嫌そうな顔をしてるけど大丈夫か……?

「うむ。よろしく頼むぞ」

「でも、なんで急に片付けるとか考えたんだ? いつも散らかっているんだろ?」

「それはそうなのじゃが」

 レンゲは罰の悪そうな顔をしてこちらを見つめてくる。

「お主、部屋の抜き打ち検査というものを知っているか」

「抜き打ち検査……」

 そういえば、ゆかりんからもらった書類の中にそんなことが書いていたような気がする。

 確か……。

「寮部屋の内装などが傷ついていないか、破損している箇所はないかとかを調べるための検査だったか」

「そうじゃ。ほかの女神様たちや女子は片付けている人が多い。しかしもって儂や白菜は片付けても片付けてもきりがないからのう。抜き打ち検査どころではないのじゃ」

「でも抜き打ち検査ならいつあるかわからないだろ」

「それがどっこい。抜き打ち検査と謳いつつも年に数回と決まっているのじゃ。生徒たちの間ではそれを大体に予測している」

「へえ……」

「無論、お主の部屋も同じじゃ。おそらく紫先生あたりが調べるのではないか」

 俺も部屋を片付けることを強要されそうだな。

「というわけでじゃ。片付けのほうをよろしくお願いするぞ」

「はいはい、了解した」

片付けぐらい手伝ってやるさ。

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