第31話
「うおぉぉ……。ご近所さんの視線がヤベェ……」
当たり前である。家の中でも俺意外は全員女子で、あ、いや娘虎先輩がいたな。それにしてもこの女子の人数に男子一人というのは非常に不思議な光景だ。
ただの女子高生ならまだしも、俺は工業生で、女神様と呼ばれる学校の中でも上位クラスの美少女と歩いているとなれば、周囲からの視線は痛い。特に通りかかる他校の男子生徒や女子生徒からの視線が、耐えられないほど痛い。
こんな肩身の狭い状況であっても女神様たちはものせず歩く。流石、と言いたいところだが俺は異様な圧迫感に押し殺されそうなのだ。
「まあのぉ、これだけの美少女を侍らせていれば不思議かつ冷酷な目を向けられるじゃろうな」
他の女神様たちは前方を楽しそうに談笑しながら歩いているが、レンゲだけは俺の隣を歩いていてくれていた。しかし、レンゲの容姿も容姿で、レンゲや俺のことを知らない人から見れば非常に危ない関係に見える。
「ここで儂が「お兄ちゃん」と言えばいいのかの? それとも「おじさん今日はどこのホテルに行くの?」がいいかのう?」
「お前は俺を犯罪者にしたいのか」
軽快に笑い飛ばすレンゲ。笑うのはいいが、さっき言ったことは冗談にしてくれよ?
前方を歩く女神様たちにどこへ行くのかと聞けば、
「ゆっくりできるところがいいんじゃない?」
という桃香の返事がかえってきた。その発言に乗るように葵が口をはさむ。
「あの、可愛い喫茶店があるんですが……。そこなんかどうですか……?」
葵の提案に皆賛成したようで、今度は葵を先頭にその喫茶店へ向かうことにした。葵の後をついていくと、女子高生や若い女性にウケそうな可愛らしい喫茶店があった。
俺ひとりや雅哉と二人で入ろうとは一生思えない喫茶店である。店内も女性をターゲットにした落ち着いているもののテーブルや椅子、カウンターなどをオシャレにしたデザインのお店だ。
「こんなところがあったんだな」
感慨に耽りながら店員に促された席に座って、店員の差し出したメニューを開き、皆でのぞき込む。
数分も経たないうちに注文が決まったため、呼鈴を鳴らし、注文する。
「私は紅茶セットで」
「私も紅茶セットかなあ」
「僕はパンケーキとアイスココアがいいな」
「……オレンジジュース」
「私は、いちごパフェとコーヒーでお願いします……」
「儂はみたらし団子とお茶を頼もうかの」
「白菜はスコーンと紅茶かな」
全くと言っていいほど統一性のないメニューの注文。女神様たちの個性というか、好みがはっきり分かれていてわかりやすい。
少々、慌て気味に注文票を書き込む店員さんだが、メリアに注文を聞こうとしたとき、外国人ということにどう対応していいかという困惑と、日本語が通じるのかという疑問が頭の中で渦巻いているのだろう、見てわかるほどに目を泳がせていた。しかし、そんな表情を見せたのも束の間。メリアが「メリアも紅茶セットでお願いデスよー!」と言ったときには落ち着いた様子で注文票に書き込んでいた。
各自の注文が終わったものの、俺の注文は決まっていない。こういうとき何を頼もうか悩んでしまうのがダメなところなんだろう。だけども、俺一人は来ないような店にきたのである。俺にとっては滅多にないことなのだからいつも以上に悩んでしまうのだ。
店員さんを待たせるわけにもいかず「早く注文をしないと」と慌ててメニューのページをめくるが、その慌てようがますます注文を決めることを拒むようで、繰り返しメニューを見ていた。
「緑一君は変わってないな。一人でくるのが恥ずかしいなら私と一緒にもう一度こようじゃないか」
「まあ、そうですけど」
嘉野先輩には見抜かれていた。
「すみません、俺も紅茶セットで」
やっとのことで注文できた。店員さんは嫌な顔をひとつもせず注文票に書き込み、注文の品を繰り返すと店の奥へ消えていく。
「メリアはやっぱり紅茶なのか」
「そうデスよ、イギリスと言ったら紅茶デス!」
確かにイギリスと言えば紅茶である。アフタヌーンティーというお茶会みたいなものがあるらしいしな。
「しっかし可愛いお店だよねっ。葵ちゃん、よく来るの?」
「え、いや。その……、この前通りかかったときに見つけて、気になっていたんです……」
「なるほどー、白菜もあまりこういう可愛いお店にはこないから大丈夫だよっ」
白菜の言う大丈夫が何をさしているのかわからないが、白菜なりのフォローなんだろう。
しかし、女神様たちだから普通に話しているものの俺の存在が浮いていることに気づく。そりゃそうだ、これだけの女子の中に一人だけ男子なんだからな。それに店内に視線を巡らせれば、若いカップルや女性などの全体的にみても男性の人数は少なかった。




