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工業男子は七人の女神様に崇拝する  作者: 鹿島夏紀
最終章 女神様の女神様による管理人とのデート
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第26話

「へぇ……。ここが緑一りゅういちくんの家かぁ……」

「どうにもな」

 リムジンから降りるのが死ぬほど恥ずかしかったのは、俺の中で一生記憶に残るだろう。

 いや、そもそもリムジンがこんな住宅街にきて、近所の奥さんの息子さんが美少女を引き連れてこんな場所にくるとはどのご家庭の奥さんも思わなかったに違いない。

「うむ。野次馬とはまではいかぬが……、近所の奥方には噂になっておるらしいのう」

「ああ。俺にどんな噂が流れるのか恐ろしくて考えたくもない」

 ピンポーン。

「何やってるのよ。自分の家でしょ?」

「いや。これでいい」

 チャイムの後の静寂。それからしばらくして誰かが部屋の奥で動く音が聞こえる。これは……。

「娘虎先輩、ちょっといいですか」

 横にいた娘虎先輩を俺の前に引き寄せる。

「え、え、え? 緑一くん、こんなところでなんて大胆だよぅ……」

 なぜか俺に向かって顎を突き出すのかわからないが、目をつむっているし都合がいい。

「すみません、少しこのままでいてください」

 娘虎先輩の体を玄関へ向けて回転させ、動けないようにホールドする。

「え? これじゃあキスできないよ?」

 恐ろしい言葉が聞こえたが、俺の予感が正しければすぐに……。

「りゅうさぁぁぁん!! 」

「え?」

 玄関の扉を吹き飛ばすような勢いで飛び出してきたのは、

「我が妹ですよ! 大好きなりゅうさんのために一肌脱ぎました!」

 妹の夏帆なつほだ。

「ああ、緑さんの懐かしい、香、り……? 」

「あの、僕は緑一くんじゃないよ……」

 妹が玄関から飛び出してくるのは予想通りだった。かれこれ何年も帰ってくるたびに飛びつかれたからな。

「誰だテメェ!? 夏帆の緑一さんをどこにしやがった? 」

 実の妹だが、時たまに変化するこの口調は未だになれることはない。決して俺に向けられる言葉ではないが、学校や外でこんな言葉遣いをしていると考えたら心配でしょうがない。

「あ、緑さんっ。お帰りなさいっ」

 娘虎先輩の後ろに隠れていた俺を見つけるなり飛びついてくる夏帆。かわいい妹なんだけどなあ……。

「夏帆、ただいま」

「はい、お帰りなさい緑さん」

「ふぇぇ!! 緑一くん怖いよぉ……」

 娘虎先輩、どさくさに紛れて俺に抱き着かないでください。ただでさえ厄介なのが抱き着いているんですから。

「おいっ!? 誰の許可もらって緑さんに抱き着いてやがる!! 」

「ま、まあいいじゃねえか。 それより母さんは? 」

「お母さんなら、キッチンにいますよ。 さあさあ行きましょう緑さんっ」

「お、おい? 行くから待てって! 桃香、先輩たちをリビングまで通してやってくれ! 」

「わかった」

「さあさあ緑さん行きましょう!」

「わかったって!」

 せっかくの客人というのに、女神様レンゲたちのことなど気にもかけず戻る姿はどことなく恐ろしい。

 夏帆に引っ張られながらも家に入れば、懐かしい風景が映り、匂いが鼻を通る。

 廊下を抜け、自室へと入る。おそらく母さんが部屋を掃除してくれていたのだろう、ほこりひとつない綺麗な状態だった。

「緑さん緑さん。嘉野さんもお母さんと一緒にいますので、自室に荷物を置いた後はリビングへきてくださいね」

「わかった。それとさ、客室に布団を出しておいてくれないか? 」

 嘉野先輩や桃香はともかく、レンゲたちは泊りがけできているため予備の蒲団ふとんをださないといけない。

「はい。女神様あいつらの蒲団は私が準備しますので、緑さんはリビングでくつろいでいてください」

「悪いな」と一言返せば、「大丈夫ですよ」と夏帆はニッコリ笑みを浮かべ部屋を出ていった。

「しっかし懐かしいな……」

 長期休暇などを使って実家には帰ってくるが、たった半年に近い期間とはいえ家を出ていた時間はとても長く感じる。

 大げさだが、母さんは会うたびに老け(もちろん口にはださない)、夏帆は大人びているような気がしなくもないのだ。

 だからこうやって戻ってきたときには、家族との時間を大切にしようと思う。まあ、親父は出張で会う機会が極端に少ないが。

「気乗りはしないけど、しょうがないよな……」

 荷物を降ろし、部屋着に着替えた俺は、自室から出ながら一つのことを考えていた。

 そう。今日の蒲団の配置。

「俺の部屋は娘虎先輩だよなあ……」

 生物学上男性をして扱われる娘虎先輩が、俺の部屋になる可能性は極めて高い。それに客室(和室)の広さからして女神様レンゲたちが寝るとしても四人から五人が限界だろう。

「どうすっかなあ……」

 考えても考えても、頭に流れるのは娘虎先輩が俺の蒲団で寝ている映像。

「うわ、背筋が凍りそうだ……」

 うーんうーんと考えているうちにリビングにつく。

 リビングのドアを開ければ、それはそれは不思議な光景が広がっていた。

「なにやってるんですか」

「「お帰りなさいご主人様」」

「いつからここはメイド喫茶みたいになったんだよ」

 さっきまで一緒にいた女神様たちに加え、見慣れた顔の嘉野先輩も正座していた。……なんでお前ら正座してんの?

「緑一君、実家に帰省するなら一言声をかけてくれてもいいんじゃないかい? 」

「言ったら言ったでややこしいことになると思いますけど」

「それこそ今の状況じゃないか」

「否定はしません」

 俺が頷いたところで母さんが口をはさむ。

「緑君。おかえりなさい」

「ああ、ただいま」

「帰ってきたばかりで悪いのだけれど、ちょっとお使いに行ってきてくれないかしら」

「まあいいけどさ」

「じゃあこれを買ってきてね」とメモと小銭入れを受け取る。

 聞いた限りではそう遠くない。部屋着で行くのも気が引けるが、わざわざ着替えるのも面倒なためそのまま行くことにした。

 最初は、……スーパーだな。

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