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工業男子は七人の女神様に崇拝する  作者: 鹿島夏紀
最終章 女神様の女神様による管理人とのデート
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第25話

緑一りゅういちくんっ、緑一くんっ♪ 私服姿もカッコいいねっ」

「それはどうも」

 娘虎先輩に見つかった直後だった。俺が危機を察知して逃げようとすると、ニッコリと微笑みながらよだれをたらす娘虎先輩が目の前に現れ視界を奪った。

 女子より女子らしい娘虎先輩は骨格や顔だち、女子特有の匂いまではそのまま普通の女子だ。しかし、胸や男女を分けるものだけは男子と何ら変わりない。それが面倒な時もあるのだが。

「いい加減俺の顔面から離れてくれませんかね」

 腕を後頭部に回し、頭をがっちりホールドしていた娘虎先輩を引きはがす。

「うわーんっ、緑一くぅんっ」

「男ですよね……?」

 本当に疑問である。

「うんっ、立派な男の娘だよっ」

「俺が知っている男の子とは違うような気がしますけどね」

 そういえば、バッグの中に……。

「緑一くん、なんでバッグの中からひもを取り出しているの? 」

「え? 娘虎先輩を縛るためですけど? 」

「そんな当たり前みたいに言われても納得しないよ!? 」

 見つかったからにはこうやって行動を規制しておかないと、娘虎先輩が何をしてくるかわからない。

「ふむふむ。緑坊は美少女を縛り上げる趣味があるのじゃな」

「いや違う、防衛本能と言ってくれ」

「ならわしに任せるのじゃ」

 数分後。

「緑一くん……、流石さすがにこれは恥ずかしいよぅ……」

「まあそうだよな……」

 俺の目の前にはレンゲに亀甲縛りをされた娘虎先輩が座っていました。

「ははは、色々と食い込んで危ない感じじゃな」

「ならなんで縛った」

「興味本位じゃ」

 興味本位っすか。

「そういえば、白菜しろなと娘虎先輩だけなのか? 」

「うん。白菜は娘虎先輩から「一緒に緑一くんの家に遊びに行こーっ!」って言われたから来たんだよ」

「僕のことは放置なんだね……」と娘虎先輩が何か言っているが、とりあえずは放置でいいだろう。

「そうか、住所も知ってるんだよな」

「うん。白菜は知らないけど、娘虎先輩が知ってるよ」

「まあ、嘉野先輩も来ると断定しても間違いではないだろうな……」

「嘉野はともかく、桃香はどうなんじゃ。あやつ一人だけ寮においてくるのも可哀想ではないかの」

「葵や理胡がいるだろ」

「いや、理胡ならあそこにいるのじゃが」

「ぅえ!? 」

 俺たちが座る席の五つ後ろの席。レンゲと同じような麦藁帽子をかぶった少女が座っていました。

「理胡だな」

 絹のように滑らかで白い髪。それから病的なほど白い肌。間違いなく理胡だろう。

「おーい、理胡。こっちにこいよ」

 ビクッ。

「……」

 なぜビビる。

「あれでも必死に隠れているつもりらしいのう」

「頭も尻も隠せてないぞ」

「理胡ー、飴ちゃんがあるぞー」

「いやいや幼稚園児じゃああるまいし……」

「飴ちゃん」

「うん。とりあえず理胡は食べ物に弱いことがわかった」

 俺がレンゲに視線を移した間に理胡は飴を頬張り、近くの席へ移動していた。

「女神様が四人か……」

「なんじゃなんじゃ、美少女に囲まれてうれしいのかの?」

「男もいるだろ」

「いい加減 ほどいてよぉ……」

「(モキュモキュ)」

「あはは……」

 まったく、これじゃあ帰省じゃなくていつも通りの風景だな。

「まあ、いいか」

 たまにはこういうのも。

『まもなく、肥前長城ひぜんながしろに到着いたします。お荷物の置忘れのないようにご注意ください。降口は左手、一番降り場に停車いたします。ご利用ありがとうございました。』

「お、もうすぐだな」

「変わった駅名じゃな」

「まあな。ここを通る電車は、ワンマン以外基本的に快速だからこの駅には停まらないんだ」

 だから電車を乗り間違える人がいるのも事実なのだ。

「緑一くん、今頃だけど白菜たちが家にお邪魔しても大丈夫?」

「大丈夫。父さんは出張中だし、客室もあるから」

「そっかぁ、よかった」

「緑一くん、僕は? 僕もいい?」

「今頃追い返せないでしょう……」

「やった! たのしみだなぁ」

娘虎先輩、喜ぶのはいいのですが、自分がかなり特殊な恰好をしていることに気づいてください。

「緑坊の荷物はわしが持とう。かわりにアレを運んでくれんかの」

「ああ、いいぞ」

ホームセンターのレジにありそうな梱包材に引っ掛けて持ち手を作る道具を、亀甲縛りをされた娘虎先輩の背中に引っ掛けて運びやすくする。

「うん。さっきはツッコミを入れなかったけど、僕は荷物じゃないからね?」

「むしろ道具ですね」

「え、緑一くんが僕を道具のように……? いやらしいよぉ……」

「線路の上に投げましょうか?」

「ごめんなさい」

引っ掛けて持ち上げようとすると、思いのほか紐が娘虎先輩の体に食い込んで痛そうだったため、俺の監視のもと開放することにきめた。

駅につくと、美少女を連れた俺に世間の冷たい視線が刺さる。夏手前で熱い日中が涼しく思えるほどだ。

「おお、ここが緑坊の故郷。驚いた……」

「「何もない」」

「それは俺が一番わかってる」

街から少し離れた場所にある駅だからな。まあ、道路を走ればすぐにお店が見え始めるのだが。

「やっときたわね。ずいぶんと遅いじゃない」

駅を出てやや左方向。公衆電話機の手前。見慣れた薄紅色の柔らかな髪をした少女が立っていた。

「げ、桃香……」

「なに、私が迎えにきたらダメなの?」

「いや、てかなんで俺が帰省することを……」

「んーと、嘉野先輩に聞いて葵に教えた感じ」

「つまりは女神様全員が俺の帰省を知っているんだな」

「そういうことになるわね」と桃香はうなずく。

「で、葵は?」

「葵なら緑一たちがくるのを待ってる。……ほら」

桃香が指さした先には、日本車道を走るのに適さないほど大きいブラックカラーのリムジンが停まっていた。

「さすが朋山財閥の娘……」

「乗るのはいいけど、降りる時が恥ずかしいから私は歩いてきたの」

そうだろうな。こんな場所にリムジンが来るはずもないし、有名人がくるような場所でもない。ここであれから降りてくるのは恥ずかしいだろう。

「待たせるわけにもいかないし、葵のところいくか」

「そうね」

荷物的にも歩くのはつらいし、朋山家の送迎にお世話になることにした。

ドライバーさんは葵の家に仕えるメイドさんで、表情も柔らかく口調からも優しい人だという印象だった。

さて、行こうか。嘉野先輩と家族が待つであろう俺の家へ。

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