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工業男子は七人の女神様に崇拝する  作者: 鹿島夏紀
最二章 管理人と乙女が燃えるクラスマッチ
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第22話

「理胡!? 大丈夫か!?」

 後ろに倒れていく理胡を腕の中でキャッチする。

「理胡、談話室のソファーで休んでろ。 料理ができあがったら呼びにいくから」

「料理の途中」

「料理って言ったってそんなフラフラしてたら危ないだろ」

「大丈夫」

 なかば押しのけるように俺から離れた理胡は、再び包丁ナイフを手に取ろうとしたが―――

「……抜けない」

「そりゃあ、力一杯まな板を叩き割ってステンレス製の調理台に刺さったからな」

 調理台に刺さっている包丁(ナイフ)を引き抜こうとしてもビクともしない。

「無理だな、これ」

「ごめんなさい」

「あ、謝ることはねえって。桃香と嘉野先輩に聞いてみよう」

「うん」

 今にも泣き出しそうな理胡の頭を撫でて慰め、予備の包丁がないか棚を探す。

「……桃香に聞くしかないか」

 もちろん厨房には桃香の姿が見えなかったため、テーブルが並ぶ厨房の外へ行って見ることにした。

「なあ桃香、予備の包ちょ、……何やってんだ?」

「何って、お皿を並べてるのよ」

「それは見ればわかる。なんで熱々の美味しそうな白飯が炊きあがってるんだ」

 桃香が持ってきたのであろうカートの上に炊飯器が乗っている。それは家庭用の炊飯器ではなく、施設で使われるような大きな炊飯器だった。そこからは美味しそうな湯気をたてながらくうへと消えていく。

「女子寮は男子寮と違って、食堂に食べ物が豊富なの。ご飯もなくならないし、冷蔵庫の中身もなくならないの」

「男子寮ってお前……」

 酷い言われようだが、これは事実なのだ。夜練から帰ってくるお腹を空かせた運動部のやつらが食堂の食材を食い漁っていくんだ。夕食の残りだけでなく、野菜などの食材も然り。……ベジタリアンかよお前ら。

「ほら、ルーは出来上がったの? ご飯が冷めちゃうわよ」

「いや、それがさ包丁ナイフが調理台に突き刺さって……」

「え、あのステンレス鋼板でできた調理台が? 理胡じゃあ無理でしょ」

「それがな……」

 包丁ナイフの突き刺さった調理台を指さす。

「うん。なんで?」

「それを俺きくなよ。とりあえず予備の包丁ってどこにある? 」

「さっきタオルに包んであった子供用包丁を見たんだけど、それは? 」

「あれはな、理胡のコレクションになるそうなんだ」

「何のコレクションよ……」

 頭を抱える桃香を放置して厨房に戻る。

「理胡、予備の……」

「終わった」

 切ることができなはずの野菜が、まな板の上にきれいに分けられていた。

「どうやって切ったんだ、これ」

「手」

「手!? え、どうやって!? ジャガイモとか人参って手じゃあこんなに切れないだろ!?」

「気合と勇気」

「いやいや、某菓子パンヒーローみたいなセリフで済む話じゃないだろこれ」

「大丈夫だ。問題ない」

「それどこかで聞いたことあるぞ……」

 何はともあれ野菜の処理が終わり、理胡も満足しているためこれで良しとしよう。(?)

「なんじゃあ、理胡が料理かの」

「まあ、素手でな、 ……いつからいた」

りゅう坊、久しぶりじゃのう。ちと老けたか?」

 女神様こいつは……

「レンゲ……」

「うむ、機械科女神、蓮内(はすうち)このみじゃ」

「お前、最近見かけないと思ったら…… どこにいたんだ?」

「普通に学校生活を楽しんでおったわ」

「嘘つけ、球技大会にもいなかっただろ」

「緑坊、まさか忘れたわけじゃああるまい? わしの成績を」

「あー、納得」

「それで納得されても複雑な気持ちじゃ……」

 機械科女神様、蓮内楽。特徴的な口調が人気を呼び、機械科だけではなく他学科の生徒にも崇拝者をつくる女神様だ。しかも人気が出るのはそこだけではない。身長は理胡と少し高いくらいで、少し釣り目をしたクールな美少女なのだ。つまりは、身長が低く少し強気で大人の色香に誘われて背伸びをしている小中学生を連想させるその容姿が人気を呼んでいる。そして成績が極端に悪い。

 蓮内という名前がしっくりこないため、俺は楽のことをレンゲと呼んでいる。蓮華のレンゲな。

「成績が悪くて球技大会に参加せず補習を受けてたんだろ」

「ご明察じゃ。勉学に励んでいるというのに何故なにゆえわしは成績が悪いのじゃろうか……」

「授業中寝てるからだ」

「まあ、それはどうでもよい。こんな時間にお主ら何をしておったのじゃ?」

「晩飯。保健室で寝てたから食べていないんだ」

「ふむ、おおかた葵のせいだとみた」

「ああ」

 あいつに料理をさせてはいけないよな。と二人でうなずく。

「しかし、嘉野と桃香は夕飯を食べたのではないかの」

「あいつらは風呂上がりに立ち寄っただけだ」

「ふむふむ、桃香と理胡で作るのならさぞ美味なのじゃろうな」

 後ろを振り向けば、俺がレンゲと話している間に桃香が理胡に料理の仕方を教えていてくれたようで、食欲のわく香辛料の香りが厨房を漂う。

「……食べたいのか」

「味見ぐらいはしてやるかの」

「素直に食べたいっていえよ……」

「緑坊、年頃の女子に食べ物の話はあまりするものではない」

「なんでまた」

「年頃の女子は、し、身長や体重を気にするものじゃ」

「レンゲの場合は主に身長だろ」

「む、これでもわしだって体重を気にしているというのに」

「その身長とスタイルでよくいえるな」

「まあ、緑坊が好きな幼女体系だからのう。わしのスタイルに見惚れるのも無理はないじゃろうな」

「自分で幼女体系って言うな。てかさりげなく俺が変な趣向の持ち主みたいに言わなかったか?」

「なあに。事実を述べたまでよのう」

「やっぱり緑一、ロリコ……」

「桃香勘違いするなよ!? 俺は決してロリコンとかではないからな!?」

 厨房で俺とレンゲの会話を聞いていた桃香が、変質者を軽蔑するかのような目つきで俺のことを見ていた。

「でも、あの本は、理胡に似ていたし……」

 ボフゥッ!!

「理胡ぅぅぅぅ!!」

 管理人になって男子寮から運ばれてきた荷物の中に、情操教育上よろしくないものが入っていた時のことを思い出したらしく、理胡は頭から湯煙を出して倒れた。

「はっはは、お主らといると飽きがなくてよいな」

「笑い事じゃねえよ!! 桃香に変な勘違いをされた挙句、理胡は倒れちまっただろうが!!」

「まったく、あの本を緑坊の机の上に置いたのはわしだというのに」

「お前かよ!! どうみても俺の趣味じゃねえし、雅哉が持ってきたのかと思ったらあの本はお前のかよ!!」

「緑坊がよろこぶと思っての。恥ずかしながらもコンビニで買ってきたのじゃ」

「買うな! お前の身長じゃあ危ない事件に巻き込まれてると思われる!! てか喜ぶの意味が違う気がする!!」

「まあ、緑坊もあの本を捨てることはなく、管理人室に移ってからもタンスの引出しの中に板を敷いてその上に挟んで板を敷いてその上に布を敷いてその上に服を入れてカモフラージュして隠し持っているぐらいだからの。さぞ気に入ったものと見た」

「なんで知ってんだよぉぉぉぉぉ!!」

 なんでこいつは、俺の隠し方を……。

「緑坊、男なればそれぐらいのこと健気でよいじゃろうに。気にすることはない」

「女子にそれを言われると精神的ダメージがすげえよ……」

「む、カレーができたようじゃぞ。緑坊、食べに行くとするか」

「人の話をきけ……」

 俺の話は聞いていないようで、レンゲは匂いに誘われるようにフラフラと歩いて行った。 

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