第17話
クラスマッチ。学期末が近くなると行われる行事。運動系の競技は全て球技。文化系は…、オセロとか将棋だったか? とりあえず、まあ、球技という名目で何人の崇拝者が病院送りになったか…
「緑一君、一緒に頑張ろう!」
「まあ、死なない程度に頑張りますよ…」
「期待しているよ、私の騎士様」
「はい…」
なぜ俺がこんなにもやる気がないかわかるか? なぜかって? そりゃあ…
ピィーッ!!
「「ウオォォォォォォォォォォォ!!」」
ああ、始まった…
俺が選んだ種目、というより嘉野先輩による強制的参加させられたのは野球。○チローとかが有名なあの野球。
守備位置はファースト。理由は身長が高いからとかなんとか。…野球はよくわからん。
嘉野先輩はピッチャー。野球部に負けないほどの剛速球を投げるらしく、エースと言っても過言ではないらしい。…野球部、頑張れ。
俺たち電子科は後攻。2回裏にいくまでにコールド負けとか止めてくれよ…?
第一打者は…
「お~い、緑一く~ん! やっほ~!」
「白菜か…」
トップバッターは電気科の女神様である白菜。サイズがなかったのか、少し大きめのヘルメットを斜めに被り、大きく手をこちらに向けて振っている。
「白菜か、って酷いよ!」
俺の発言まずかったのか、白菜は目の淵にうっすらと光るものを浮かべ、俺を見つめている。何がしたい───
「「緑一殺す」」
なるほど。電気科の野郎共の戦闘意欲(?)をあげるためにわざわざ言ったのか。…なかなかの策士だな。
涙を拭うと白菜はバットを空高く掲げホームラン予告、ではなく嘉野先輩に突きつけるようにバットを向けた。
「後輩だからって絶対に負けないよっ」
それに対し嘉野先輩は、「ふふ」と短く笑い、
「私だって負けられないさ。なぜなら……」
「「緑一(君、くん)とデートする権利がもらえるから!!」」
「俺がいないところでなんでそんな話になってんの!?」
俺に自由権と言うのは無いのでしょうか……?
ファーストで嘉野先輩たちに向かって叫ぶそんな俺に、敵である電気科と味方である電子科の野郎から、バットやグローブ、ボールなどのプレゼント|(物理)が飛んできました。
「おい、何やってんだよ! 電子科は俺の味方だろうが!」
「「ヒュ~♪ ヒュルル~♪」」
「全員で口笛吹いてたら怪しいだろ!?」
口笛を吹いて誤魔化そうとする電子科の野郎はおそらく敵だ。いや、絶対に敵だ……
「さあ、かかってきなよっ」
次こそはバットを空高く掲げ、ホームラン予告をする白菜。
「望むところだ」
嘉野先輩は腕を高く振り上げ、膝と額がくっついてしまうかというぐらいに体をコンパクトにたたむと、それが嘉野先輩のフォームなのか、キャッチャーに向かってボールを投げた、……ように見えた。
「嘉野先輩、投げないと反則ですよ」
「投げたよ。ほら」
まわりの生徒達は頭上にクエスチョンマークを浮かべ、首を横にひねっていた。
唯一、ボールを受け取るキャッチャーだけがボールのある場所を知っているようだった。しかし、彼の顔は嘉野先輩の投げたボールに驚きを隠せないといった表情をしていた。
それもそのはず。野球部の先鋭メンバーの中のキャッチャーが、嘉野先輩の投げたボールをしっかりとミットの中に収めることができなかったのだから。
彼は一言、
「速えぇ……」
感心と悔しさ半分のため息に似た呟きを口から下に落とすように零した。
彼は後ろに転がったボールを拾い上げ、ジャージの太股あたりでボールについた砂を軽くこすり落とすと、彼の目は嘉野先輩を女子としてではなく、バッテリーの相棒にボールを任せるように力強く投げた。
それを嘉野先輩は払うように受け止め、白菜を挑発するように、「この程度のボールも打てないのかい?」というと、白菜もこれほどにまで速いボールを投げてくるとは思ってなかったらしく、黙ったまま斜めにずれているヘルメットを被りなおしバットを構えた。
「…次は打つよ」
「それは楽しみだね」
今まで俺に矛先が向いていた野郎共の視線は、マウンドとバッターボックスにいる女神様に向けられた。
ワイワイするクラスマッチには似つかわしくない雰囲気がグランドに広がっている。それを外野にいる野郎共も察したのか、直立の構えからすぐに動けるように少し姿勢を低くした構えに変えた。
少しの沈黙のあとに再び嘉野先輩はボールを構えた。それからまた特徴的なフォームから剛速球を投げる。
「見えないぞ……」
俺には嘉野先輩の投げたボールが見えなかったのだが、白菜は辛うじて見えていたようで、バットの芯で捉えることはできなかったもののファールに持っていくことができた。
「次は外野まで飛ばすよ」
「ストレートしか投げれないとでも思ったのかい? もちろん私は変化球も投げれるよ」
野球部でもない素人が変化球って……。
変化球を投げると聞いたとき白菜も俺も生徒も驚いていたが、嘉野先輩も白菜が自慢(?)のボールを打たれたことに少し焦りを感じているようにに見えた。