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工業男子は七人の女神様に崇拝する  作者: 鹿島夏紀
第一章 管理人とそこはかとなく感じる華の香り
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第16話

「ここまで逃げれば追いかけてこれないだろ…」

女子寮へと逃げ込んだ俺と嘉野先輩。静まり返った女子寮の廊下を歩く。

「何か、飲むものが欲しいな…」

「そうだね。食堂に行こうか」

走ったからか、俺と嘉野先輩は喉が渇いていた。

「じゃあ、食堂に行きましょうか」

「だね」

廊下に俺たちが歩くカツカツという音が響き渡る。

食堂は談話室の隣にあるため、夕食の時間近くになると女子生徒が集まるらしい。しかし、この時間は誰もいないはずなのだが、

「先輩、なぜいい匂いがするのでしょうね」

「さあ? まだみんな授業中だろう? 授業をサボるほど素行が悪い生徒は知らないね…」

「まさか、男子…?」

「なぜ男子がここまできて料理をするんだい?」

俺と嘉野先輩は、そーっと食堂のドアを覗ける程度に開ける。

「あれは…」

どう見ても…

「桃香君だね」

「なんで桃香がこんな時間に?」

「直接、聞いてみれば早いじゃないか」

正体がわかったためドアを盛大に開けようとする嘉野先輩を抑える。

「待ってください、変にドアを開けたらあの怪力で木端微塵ですよ。もう少し様子を見ましょう」

「私は何を作っているか確認したらつまみ食いをするだけなんだけどね」

「十分、殺される理由になります」

「そうかい? じゃあ、もう少し様子を見てからつまみ食いをしようか」

いや、ダメですよ…?

「お、できたみたいだね」

覗いていると料理が完成したのか、片付けを始めていた。

「さて、つまみ食いを…」

「殺されますよ」

嘉野先輩は「うぐっ…」と悔しそうにも、足を踏み留める。

「しかしだね、料理はつまみ食いするためにあるのであって―――」

「あんたたち、そこでなにやってんの?」

あ、処刑だ。天釣緑一終了のお知らせのポスターを作ってもらわないとな…

「うむ、桃香君の料理をつまみ食いさせてもらおうかと、緑一君と話していたところなんだ」

本格的に人生詰んだな。

「あー、天宮先輩。耳を貸してもらえます?」

「なんだい?」

俺には聞こえない程度の声量で、嘉野先輩に耳打ちする桃香。…何を話しているんだ?

桃香が話終わると、

「なるほど、そういうことなら了解した」

そういって食堂の厨房の方へ歩いていく嘉野先輩を見ながら、

「嘉野先輩に何言ったんだ?」

「別に? 緑一をどうやって拷問にかけようか話していただけ」

「把握した」

やっぱり、天釣緑一終了なのか。残念だな、まだ生きたかったのに。

「桃香君、ばっちりだ。包丁の使い方が上手くなったね」

「ホントですか!? よかった…」

 包丁? ああ、斬首刑ってことか。

「じゃあ、私は教室に戻ることにするよ。もうすぐ授業も終わるからね」

俺の人生も終わりますけどね…

人生の終わりに悲しみに暮れるている俺に、「じゃあ、桃香君。頑張って」と一言いうと食堂から出て行った。

「緑一、そこに座って」

「はい」

死刑台に向かう囚人のように、桃香に指示された椅子へと歩く。ああ、死刑囚ってこんな気持ちなのか…?

座ると同時に授業終了のチャイムが鳴る。なんというタイミングの良さ。

「それじゃあ、緑一。これ食べて」

「遺言はな…、は?」

「遺言? あんた何言ってるの?」

「いやいや、それは俺の方なんだけど。斬首じゃないのか?」

目の前に置かれた可愛らしい弁当箱には、美味しそうな色とりどりのおかずが入っている。

「なんであたしが緑一の首を切らなくちゃいけないの? バカじゃないの? 死ぬの?」

「いや、てっきりられるかと」

「朝、ちゃんと言っておいたでしょ」

「…? 昼飯のことか?」

「そう、本当は屋上で食べるつもりだったんだけど… なぜか緑一がここに来てるし…」

桃香は、驚かせようとして失敗したときのような、少し残念という表情をしている。

え、なんか俺悪いことでもしたっけ?

「でも、まあ… こうやって食べてもらえるわけだし」

「毒入りか」

覗きなんかして、ただで済むわけないしな。

「新しい自分専用の包丁を買ったのよね。切れ味を試そうかしら」

「スミマセンデシタ」

うん。反対に怒ったみたいだ。

「じゃあ、ほら。冷めないうちに食べてしまって」

「…了解」

微妙に怒っているため、食べることにあまり気乗りしない。

「いただきます…」

弁当の定番と言える唐揚げを口の中へ放り込む。

「…美味いよ」

毒は入ってないみたいだ。

「ホント? ホントに美味しい?」

「ん。美味しい」

「ちょっと味が薄いかな、って思ったの。でも、そうでもないみたい」

桃香は、少し安堵した表情を浮かべ、「これも食べてみて」と俺から箸をひったくり口元へ運ぼうとする。

「じ、自分で食べれるぞ?」

「いいの。天宮先輩はいいのに、私はダメなの?」

口を尖らせて、拗ねたように軽く下を俯き、視線だけをこちらに向け抗議する。

「あれは…」

天宮先輩? もしかして…

「お前、嘉野先輩に妬いてたのか…?」

頭にふと、ぎった冗談のつもりが、桃香の顔はみるみるうちに赤く染まり、沸騰したかのように頭から湯けむりがあがる。

「ち、違うわよっ! 私は別に嘉野先輩が羨ましいとか思ってないし、ただ単に私の煮魚を選んでもらえなかったことが悔しかっただけ! 本当にそうなんだからね!」

「お、おう…」

そこまで、大声で言わないでもいいじゃないか… でもまあ…

「この弁当、嘉野先輩の料理に負けないぐらいに美味しいぞ」

「また、「られるから」っていう理由なんでしょ。お世辞ならいらないわよ」

「いやいや、本当に。桃香の料理の腕は、嘉野先輩と互角だよ」

「ふ~ん…」

俺の言葉に興味を示さず、納得してくれていないようだ。

「じゃあ、もし、また弁当作ったら食べてくれる?」

「別にいいぞ」

毒が入っていなければな。

横で素直に喜ぶ桃香には悪いが、そんなことを思ってしまう。

「来週のクラスマッチでも一緒に食べるわよね?」

「クラスマッチ?」

「そう、忘れてたの? クラスマッチ」

そういえば、来週にはクラスマッチがあったような気がする…。

「緑一は、種目なんに出るか決めた?」

「まだ、クラスでも話していないぞ」

「そうなの? 早くしないと体育教官がうるさいわよ」

「俺に言うなよ…」

体育委員の野郎、仕事をサボるなよ…

「あと、」と桃香が付け加える。

「レポート終わった?」

「ヤッベェェェェェェェェェェェェェェ!!」

俺の叫び声が学校全体に響き渡った。その後、ゆかりんに怒られたのは言うまでもない…。

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