第15話
「ぐぬぬ…」
「緑一、諦めろって」
「まだだ。まだ諦めるときじゃあない!」
「やれやれ…」
3時限目の休み時間。俺はレポートに追われています。
食堂で地獄を味わい、飯を食ったら逃げるように教室へ駆け込むと同時に机の上にレポートを広げ、休み時間も使い書き続け、今に至る。
「次は運良くも自習だろ? 神様に感謝しないとな」
「そういうお前は終わったのかよ…」
「俺か? 俺はお前と学科が違うだろ。実習日は同じでも、レポートの提出日までは同じじゃあねぇよ」
「まあな」
藤本雅哉。建築科で葵の崇拝者で、唯一、中学の頃からの貴重な悪友だ。
「で、もう4時限目なわけだが。なんでお前がここにいるんだよ」
「俺たちも自習だから(笑)」
「そのムカつく顔を、今すぐ電子科コイルガンでぶっぱなして殺りたい」
「それって、俺が木端微塵になるフラグだよな」
「大丈夫、使い捨てカメラのコンデンサを使った簡単なハンドコイルガンだから」
「銃弾は?」
「鉛。がいいけど、飛ばないから鉄釘で代用」
「十分、痛えよな」
雅哉の声をBGMに、レポートを書き進める。だが、
「なんの話をしているのかい?」
「コイルガンの話で、…なんでここにいるんですか」
その声を聞いた瞬間、1つの疑問と、レポートが終わらないことを悟った。
「緑一に会いにきちゃった✩」
「柄に合わないこと言わないでくださいよ」
「うむむ、篠沢先生に「最近の男子はこういう風に話したほうがいい」と言われたんだけどね」
「性格の問題です。嘉野先輩には合いません。嘉野先輩がそんな話し方だったら黙っていたほうがいいです」
「そこまでキッパリと言うかい…?」
「とりあえず、自分の教室へ戻ってください。俺は忙しいんですよ」
「残念ながら、私も自習でね。まあ、おそらくは全学科全学年自習だと思うよ」
「それはまたなんでですか?」
「管理人のことさ」
「あー…」
「私の推測だと、緑一君は逃げる羽目になると思うよ」
確かに、野郎どもに俺が女子寮管理人ということがバレれて、追いかけられるだけでいいならまだマシ。崇拝者|(特に嘉野先輩の崇拝者)は、自分たちの技術を駆使して俺を捕まえようとするだろうな。
「捕まえるときには、これを使うと思うよ」
机の上に置かれたのは、銃にしては歪な形をしたもの。
「なんですか、これ」
「電子科コイルガンの改良型さ。発射時初速度は亜音速。20メートルまでなら腕がいいと確実に当てることができるよ」
「なんつーもんを作ってるんですか!」
銃刀法違反とか大丈夫なのか…?
「大丈夫、これは3年の研究課題だからね。それに、ここにある一台だけだし、設計図は私が保管してある」
「でもさっき、「捕まえるときはこれを使うと思うよ」て言いましたよね?」
「あー、そうだね。失敗作が何丁もあるから、それを使うだろうっていう意味だよ」
「機能性は?」
「失敗作はすべて散弾銃。2丁ほど狙撃銃。散弾銃はクレー射撃部が使って、狙撃銃はレーザーライフル射撃部が使うだろうね。運良くも電子科にはキャプテンがいるし」
「どこが運がいいですか… というかなんで狙撃銃を散弾銃を作ったんですか… 軍事開発部ですか電子科は…」
「きっと、大丈夫さ」
机に顔を伏せて嘆く俺とは反対に、嘉野先輩はどこか嬉しそうだ。
「まあ、お二人さん。あんまりイチャイチャしていると何も言わずとも捕まえられるぞ」
「そうか。緑一君、どうやら私たちは恋人同士に見えるそうだ。よかったな」
余計なことを言うなよ…
電子科男子一同そろっての「「ガタッ」」と立ち上がる様子から反射的に嘉野先輩の手を握って後ずさる。
「ど、どうしたんだい? もしやこれは「駆け落ちイベント」!?」
「「ピシッ」」
あー。やべぇや。
「駆け落ちイベントとか何の話ですか! それに別に恋人同士に見えるって誰も言ってないでしょう!?」
「何言ってるんだい、昨日あれほど激し―――」
「「リゥぅイチァァァァッァァ!!」」
「だからなんで余計なことを言うんだよォォォォォ!!」
飛来してくるドライバーと鋏。それから机に椅子。お前ら… コイルガン使うより強いんじゃないのか…?
体勢を低くしながら教室の入口まで走り、「緑一!!」と俺の考えがわかっていた雅哉が投げてきた教室の鍵を受け取ると、「少しは大人しくしてろ!!」と走ってくる野郎に吐き捨てるように言いながら鍵を閉め、犠牲となった雅哉に感謝しつつ教室から逃げる。
おそらく雅哉は電子科の崇拝者に捕まるだろうな。南無三。
「とりあえず、女子寮に逃げましょう! あそこなら崇拝者は入ってこれません!」
嘉野先輩の手を引いて走っているため、提案。とはいえない。半ば無理やり女子寮へと逃げる。先回りとかやめてくれよ…?