第14話
「…」
娘虎先輩のおかげ(?)で7時前に起床。その後すぐに着替えて嘉野先輩、娘虎先輩、俺の3人で食堂へ向かった。しかし、女子寮の書類に下敷きになっていた今日提出のレポートのことで頭の中がいっぱいで、朝食の味がよくわからない。
「…にしても」
女子が多すぎる。
あちらを向いても女子、こちらを向いても女子。ハーレムとかじゃあない、ただ怖いだけだ。
テーブルが丸く、女神様の中に俺が一人座っている。まだ女神様である嘉野先輩たちと食べることができるからいいが、一人で食べるとなったとき、果たして無事に食事終えることができるのか心配だ。
「(ジーッ)」
「…」
「(ジーッ)」
「…」
「(ジーッ)}
「な、なあ、桃香。俺の顔になにかついてるか?」
俺の席の前に座り、睨むように見ていた桃香が口を開く。
「おいしい?」
「ん? ああ、おいしいぞ」
「どのおかずが一番おいしい?」
「どれって…」
真っ白なご飯。輝かしい飴色をした煮魚、寝起きの冷えた体に染みる味噌汁、朝に上げたばかりであろう漬物、丁寧に切り揃えられた牛蒡と人参。それに加えられた良い色をした豚肉に振りかけられた胡麻のきんぴら。どれも美味しそうであり、美味しい。
はっきりいってどれが一番などと決めることはできなさそうだ。
「全部、かな」
「しいて言うなら?」
面倒くせえ…
「久しぶりに食ったし、懐かしい味がしたからきんぴらかな」と素っ気無くいうと、「そ、そう…」と桃香は肩を落としていた。
それとは反対に、
「うんうん。緑一君わかってるね、きんぴらは美味しいよ!」
「え、ええ。まあ…」
桃香とは反対に嘉野先輩は上機嫌なようだ。…なんで?
「しょうがないなあ、私が食べさせてあげよう!」
「いいですよ! なにを好きでそんな恥ずかしいことをしなくてはいけないんですか!」
「別にいいじゃあないか!」
「先輩には周り視線が気にならないんですか!?」
「別に?」
「なんで!?」
周囲から集まる視線。特に白菜と理胡。それは恐らく俺に向けられているものではないと信じたい。
「ほらほら、口を開けてごらん? はい、あーん」
「い、一回きりですからね? …あー、ん」
「どうだい?」
「美味しいですよ」
素直に嘉野先輩は嬉しそうだったが、どうも桃香だけは悔しさ半分、怒り半分といった表情をしていた。
そんな桃香を見ていた俺の視線に気付いたのか、
「緑一。あんた、お昼はどうしてるの?」
「昼飯? 雅哉と食堂だけど?」
「今日のお昼は屋上に来なさい」
「は? なん――」
「いいからきなさい」
「ウィッス」
否定を許さない断言された発言に納得しかできない。
桃香は、それで納得したのかご飯を掻き込むように食べ、味噌汁を口の中に注ぐように飲み、「ごちそうさま」の一言をいうと立ち上がり、厨房の方へと消えていった。
「お昼は面白そうなことになりそうだね」
「桃香を怒らせただけのような気がするんですけど?」
「はあ、つくづく緑一君には呆れるよ…」
「いやいや、訳がわからないですよ」
「まあ、それが緑一君だからね。仕方がないかな」
「え、それってどういう意味で――」
「「ごちそうさま」」と女神様たち(娘虎先輩を含む)はピッタリのタイミングで言うと、立ち上がり、それぞれ散っていった。
「…」
「天釣くん、となりいいかな?」
ひとり残され惚けていた俺に声がかかる。
「琴薗さん?」
「そうそう、やっぱり覚えていてくれたんだね! 嬉しいなあ」
「となりなら座っていいよ」
「ホント? …みんなー! ここ空いてるよー!」
「みんな…?」
琴薗さんが声をかけたのは、席に座れず立ち尽くしている女子生徒。どうやらバスケ部のようで、朝練が終わってそのまま食堂にきたようだ。
「琴薗さんは、バスケ部だったんだ」
「うん、朝練が終わったからそのまま食堂に来たんだ」
「「彩奈、天釣くんに名前覚えてもらってるの!?」」
席に着いた琴薗たちに話しかけると、琴薗さん以外の女子から黄色い歓声があがる。
「抜け駆けはダメって彩奈が言ったんじゃない!」
「べ、別に私はそんな風には思ってなかったし…」
「それでも名前を覚えてもらったんでしょ?」
「そうだけど…」
「…」
ここは非常に居づらい… と思った俺は、確実にご飯を食べながら、琴薗さんたちが質問してくると適当に流し、「レポートどうしようか…」と現実逃避していた。