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工業男子は七人の女神様に崇拝する  作者: 鹿島夏紀
第一章 管理人とそこはかとなく感じる華の香り
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第10話

「...」

二次会(嘉野先輩たちが騒いだだけ)が終わり、各部屋に戻った頃。すぐに寝ようと思ったが、風呂に入ってないことに気づき、「浴場は、どういう風にして使うんですか?」と嘉野先輩にメールを送ると、「どういう風、身体の垢を洗い流す場所だろう?」ときたので、「そういう意味ではなくて、俺は、いつ入れば女子と出会(でくわ)さないんですか?」と送る。

「『そんなことは気にすることない。むしろ歓迎しているんじゃないかい? (笑)』」

(笑)が非常にムカつく。軽く殺意が芽生えながらもメールを返す。

すると、嘉野先輩からひとつのメールか届いた。

「『今、確認してきたが、女子は誰ひとり入っていなかったようだ。ドアに管理人、女子寮監督入浴中。と張り紙をしておいたから、しばらくは誰も入ってこないだろう』」

最初からそう返してくれればいいのに。と思いつつ浴場にいく準備を始める。

「タオルと着替えぐらいだよな」

洗濯を白菜に頼もうと思ったが、さすがに男物の服やらなんやらを洗濯させるのは気が引けたため、洗濯は、自分で空いた時間を見つけてすることにした。

共用浴場(といっても女子寮のため女子専用)は1階にある。管理人部屋は3階。冬場はいいが、夏場は部屋に戻るまでに汗をかいてしまいそうだ。

「やっと来たね」

「嘉野先輩? なんでそこに?」

「君を待っていたんだよ。間違って君以外の人が入ったら困るだろう?」

ああ。なるほど。そのためにここにいてくれたのか。

「すみません。湯冷めするといけないので、部屋に戻っていいですよ」

「そうしたいところなんだが、もう湯冷めしてしまってね。もう一度、湯船に浸かろうかと思っていたところだ」

「はい?」

「だからだ、一緒に入っても構わないかと聞いているんだよ」

「はいっ?!」

「ダメかな?」

「えっと…」

落ち着け俺! これより面倒なことに巻き込まれて野郎どもに追いかけられてきたじゃないか! いやまてよここは女子寮だから野郎はいない、ってなんで(やま)しいことをする前提に考えているんだ!? マテマテこれは俗に言うお風呂イベントってやつか!? いやそんな一部の野郎どもがいうイベントなど工業高校(ここ)で発生するわけがない!

「あー、緑一君?」

「ウワァァァァァァァァァァァァ!!」

「ええぇえ!? どうしたんだい! いつも以上の変態っぷりだよ!」

「やかましいですよ!」

「それは君の方だろう!?」

「んな理不尽な!」

「どこが!? …緑一君、一旦落ち着こう。あまり騒ぐと他の生徒に迷惑がかかる」

「そ、そうですね」

落ち着かせるため二人で深呼吸を数回する。

この状況は、周りから見たらすごい変な状況なんだろうな。

「で、どうなんだい?」

「丁重にお断りさせていただきます」

「そんな硬いこと言わずに」

「嫌です」

「昔はよく一緒に入ったじゃないか」

「今と昔は違います」

「ダメかい?」

「ダメです」

「どうしてもダメかい?」

「どうしてもダメです」

「どうしてもどうしてもダメかい?」

「どうしてもどうしてもダメです」

「私が諦めるのは?」

「ダメです。…あ」

()められた! ついダメと言ってしまった!

「ふふ。では一緒に入ろうじゃないか」

嘉野先輩の口元が悪戯に成功した時のように怪しく釣り上がる。

「ダメですって! 卑怯ですよそんなの!」

「男に二言はないんだろう?」

「そ、それは… そうですけど」

「大丈夫だ。お互い体にタオルを巻いていれば何の問題もない」

「全然大丈夫じゃあありませんよ?」

そうだ。俺が後から入ればいいんじゃないか。談話室で雑誌でも見て時間を潰せば…

「談話室で時間を潰して、後から入ろうなんて考えはやめたほうがいい」

「雑誌でも読んで待ってます」

「男子が読むような週間漫画雑誌でもあると思ったかい? ここがどこか考えれば、それがあるかどうかなんてわかるはずだよ。あと、ボイラー室の電源はもうすぐ落ちる。つまり、食堂の給湯器からしかお湯はでなくなる」

「じ、自分の部屋に戻って待ってます」

「わざわざ3階に戻るのかい?」

「…わかりました」

「おお」と嘉野先輩の顔がパァっと明るくなる。

「嘉野先輩は、湯冷めしたまま寝てください」

「なんという鬼畜返答!?」

「じゃあ、どうしろっていうんですか」

「…君には一緒に入るという選択肢はないのかい?」

「それだけは避けたいので」

「なにを避けたいんだ? 避妊か?」

「そんなこと誰も言ってねえよ!? 馬鹿じゃあね―――」

「ほお。教師に向かって馬鹿呼ばわりか。いい度胸だ覚悟しろよ?」

背後から聞こえた下ネタに振り向くと、殺気を混じえた笑顔を振りまく紫先生が立っていた。

「ゆ、紫先生、こんばんは…」

「こんばんは、緑一。遺言はなんだ?」

「殺さないでください。と篠沢紫先生に伝えてください」

「残念だが、それはできない。…ん? 雨宮、そんなところでどうしたんだ?」

「一つ言わせてもらうと、私の方が先に話していたんだけどね。湯冷めしたからもう一度湯船に浸かろうと思ってね、緑・一・君・と」

「ほぉ…」

絶対あらかさまに俺の名前を強調していったよね! 紫先生の笑顔がより一層輝いているもんな!

「それは楽しそうだな。緑一、私も混ぜてもらおう。ちょうど風呂に入りたいと思っていたしな」

「丁重にお断りさせてい…」

「い・い・よ・な・?」

「はい」

俺の本能が命の危険を感じたため、反射的に了解してしまった。

「緑一君、私より篠沢先生に甘くないかい?」

「当たり前だ。緑一は私のことが好きだからな」

「なっ!?」

「何を慌てているんだ? もちろん教師としてにきまっているだろ」

「はっ、そんなことは最初からわかっていたよ」

紫先生、嘉野先輩で遊んでるな… 嘉野先輩は余程恥ずかしかったのか、下をうつむき顔が赤いのを隠そうとしている。しかし、顔を隠そうと下をうつむいているのは誰もが手に取るようにわかり、それが馬鹿にされた悔しさからくるものなのか、恥ずかしさからくるものなのかはわからない。

「嘉野先輩、大丈夫ですか?」

「緑一君、一緒に入ってくれるか?」

「え… まあ、はい」

そうも目尻に光るものを見せられては、断るわけにもいかない。

「じゃあ、決まりだな。ほら緑一行くぞ」

「え、ちょっと二人とも!?」

「「さあ、早く」」

両腕に腕を絡められ、両手に薔薇状態で果たして喜ぶ状況なのか、嫌がる状況なのか考えながらも連行される。

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