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工業男子は七人の女神様に崇拝する  作者: 鹿島夏紀
序章 工業男子の成り果てと女子寮
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第9話

「り、緑一君」

「……」

「そ、そんなに怒ることはないだろう?」

「……」 

「そうだ緑一君! 好きだといっていた時雨屋の金鍔だ。た、食べるかい?」

数時間前。といっても1時間前ぐらいだが、俺は、歓迎会という名目で食堂にいた。もちろん主賓であった俺は自己紹介をするのだが、質問攻めにあい、女神様たちから説教を食らった。

それから少し女子生徒たちと会話をしてから、すぐに自分の部屋に戻ってきた。女子寮は完全個室のため鍵が掛けられる。それはもちろん管理人部屋も同じ。

「確かに私たちも言い過ぎたと思っている。しかし、純情な乙女の気持ちもわかってあげるべきだと私は思うんだけどね」

そんなすぐに食堂を出ていった俺の様子を、嘉野先輩は見逃さなかった。管理人部屋に入る直前、「緑一君!」と背後から嘉野先輩の声が聞こえたのだが、そのときはイライラしていて、無視して逃げ込むように管理人部屋に入り、鍵を閉めた。

そのまま座り込むようにドアに寄りかかり、今に至る。

「はあ。緑一君、君のすぐに拗ねて、いつまでも意地を張るところはかわらないな」

「……」

「あくまでも話さないというわけか。…いいだろう、私にも考えがある」

そろそろ話してやってもいいかな、とは思っても、つまらない意地のせいで話すことができない。

「緑一君、聞いてくれ」

ドア越しに聞こえる嘉野先輩の声は鮮明だ。おそらく、ドア越しで鮮明に聞こえるのだから、嘉野先輩のいる廊下にはよく響いているだろう。

「今私は、肌着一枚の状態だ」

「!?」

なにやってんのあの人!!

「このまま管理人の部屋の前で寒そうに立っていれば、間違いなく君に悪評――」

―――ガチャ

「やっと話してくれる気になったかい?」

嘉野先輩は、 本当に肌着一枚で立っていた。

「ち、違います。俺に被害がありそうなので、(かくま)うだけです」

身体のラインが露わになっているため、嘉野先輩を直視できず、顔が熱くなるのを感じながらも視線を横にした。

「なるほど、匿ってもらう代償は、私の身体で支払えということなんだな?」 

「なにいってるんですか? 早く服を着てください」

「何を言うもなにも、緑一君には、私のせいで悪評がつくかもしれない。私は緑一君のせいで悪評がつくかもしれない。それに私は、匿ってもらう身なのだから、身体で代償を払わなければならない」

「いや、嘉野先輩が服を着ていれば何の問題もないですし、なぜ身体で支払おうとするのか理解できません」

「そういうな。こういうときにしか女を(むさぼ)るようなことはできないのだから、今のうちに楽しんでおくべきなんだよ」

「発言が女子高生ではないです。危ないオッサンの発言ですよ、それ」

本格的に病院に連れて行ったほうがいい気がしてきた。

「いいじゃないか、こっちにきて話そう」

「ベッドの上でそういうことを言わないでください…」

「(そういうしっかりしているのか、してないのかわからないところも変わらないな…)」

「??」

「いや、こっちの話だよ」と静かに嘉野先輩は笑った。

「時雨屋の金鍔だ。食べるだろう?」

「言われずとも、いただきます」

ベッドに腰をかけ、金鍔の入った高級そうな重箱の中から金鍔を一つ取りだし、俺に差し出した。

「…おいしいです」

「当たり前だ。わ、私が作ったのだからな」

「え? 実家から送られてきたんじゃあ…?」

「あれは嘘だよ。本当は歓迎会で出すつもりだったが、自己紹介のときに緑一君が金鍔が好きだということを思い出してね。実家から送られてきたことにしたんだ」

「そうだったんですか… おいしいですよ。ありがとうございます」

「ま、まあ。たまたま作ったタイミングがよかっただけだ」

嘉野先輩の照れる表情に、思わず笑ってしまう。「む…」と悔しそうな顔を浮かべる嘉野先輩に、優越感を抱きながら金鍔を口の中に放り込む。 

「しかし、私と緑一君で食べるには、少し多いかもしれないな」

「そ、そうですね」

重箱に入った金鍔たち。美味しそうに輝いているが、2人で食べるには少し多い。いくら和菓子が好きな俺でも、この量を食べるのは無理がある。

「…おや? だれか来たみたいだ」

「?」

「そこで立っていたないで入ってきたらどうだい? 女神様たち」

――ガチャ

「あははは… やっぱりわかりました?」

「誰に向けてか知らないが、あれだけ殺気を出していたらさすがにわかるよ」

殺気…? 全然気がつかなかったぞ…?

「各学科の女神様だけになってしまうが、2次会といこうか」

「「はい!」」

何で乗り気なんだよ…

不思議に思いながらも、話は勝手に進んでいく。

今日は、ゆっくり寝よう。

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