最終話
将軍を失ったガッルス隊の後処理を終え、バルバ隊はロサに帰還した。
アンジェリーナは、王都のバネン家に戻った。しかし、バネン家をとりまく状況は今後厳しいものになるだろう。
「ま、どうしてもって言うなら、助けてさしあげることもあるでしょう」
ベリンダはそう言っただけだった。けれども裏で、商売人やら退魔将軍やらのツテを使って、かなり工作してきたらしい。彼女なりの優しさだったのだろう。
***
ロサの街はふたたび賑わいを取り戻していた。
当然、城でも宴が開かれた。けれどもそれが、ただの祝いでないことをカイは知っている。夜闇にまぎれて酒を飲み、悲しみを忘れるためでもある。
それでも楽しんだ。ジョージアの踊りに誘われるのも苦ではなくなった。
「エレナ……?」
エレナが宴席を抜けるのが見えた。
「にゃ?」
「うん、行ってくる」
カイはそっと大広間を抜け出した。
***
月は出ていない。
エレナは空を見上げていた。
「エレナ」
「カイ? どうしたの?」
「主役が抜け出しちゃダメだろ?」
「おたがいさま」
クスクスとおたがいに笑い合う。
カイも空を見上げる。星が綺麗だった。
「大事な話があるんだ」
「なあに?」
「今までゴメン」
カイは頭を下げた。エレナは目を丸くしている。
「エレナ。もし、エレナがよかったら……これからは、ずっと一緒にいたいと思ってる」
「え……」
「僕が守るから。だからずっと……一緒に」
エレナの瞳が零れそうなほど大きく開いて――そしてほほえみに変わる。
「わたしも……」
緑色の瞳に、澄んだ涙がたまっていく。
「わたしも、あなたとずっといたい」
けれどもその涙は悲しみではない。喜びがまじり、夜風に美しく砕ける。
二人は抱き合った。いままでの距離を埋めるように、強く。
「ありがとう、エレナ」
「カイ……カイ、大好き」
「僕も……好きだよ、エレナ」
夜風が涼しい。だからおたかいの温かさがよくわかる。
どちらともなく腕をゆるめ、見つめあった。
「おっめでとー!!」
「は!?」
「ふえ!?」
突如としてわいた声に、カイとエレナは同時にのけぞった。
「いやーめでたいね!」
「青春だな、うらやましい限りだ」
「恋するのは精神の成長にもいいのヨネ」
「ねー」
「ねー」
バルバ隊の面々が、ニヤニヤしながら茂みから出てくる。
もしかして聞かれていたのか。カイは、これまたニコニコしているベリンダに尋ねた。
「えー……つかぬことをお聞きしますが」
「何?」
「どのへんから聞いてました?」
「そうね、『大事な話があるんだ』のあたりかしら」
「さ、最初からじゃないですかぁぁぁっ!!」
エレナが恥ずかしさのあまり、オーバーヒートする。顔どころか首や手まで真っ赤だ。
「さー、この若い二人の前途を祝して、宴の続行と行こうじゃないの!」
(つ、つかまったら一晩中からかい倒される!)
カイは蒼ざめる。
「みゃー!」
「チビ!?」
チビが飛び出してきて、くっと身をかがめた。人を乗せるときのポーズだ。
「エレナ、乗って!」
「え、え?」
カイはエレナを、強引にチビの背に引っぱりあげる。
「行くよ!」
「行くってどこに……きゃああ!」
笑い声を尻目に、チビは駆け出した。塀に上り、屋根を伝い、あっという間にかなりの高さまで上った。ロサの街が一望できる場所だった。
「大丈夫?」
「もう! いきなりなんだから!」
口調は怒っているが、顔は笑っていた。
カイはエレナの手を取って、屋根の上に下りた。
「綺麗……」
街の明かりが、地上に降りた星のようだ。魔法も精霊術も使っていない。それでもこんなに美しい。
カイは嬉しくなった。この街で生きていく。それがとても誇らしく、嬉しかった。
エレナの手を握る。握り返してくる。
ふたりは、見つめあう。真顔で、おたがいの瞳をのぞきあう。そこに想う相手しか写っていないのを確かめるように。
そっと、エレナが瞳を閉じた。綺麗なまつ毛に、緑色の瞳が隠される。ぽす、とカイに抱きついた。赤い顔を隠すように、彼の胸元に顔をうずめる。
「ずっといっしょね?」
「ん」
「にゃお」
「チビ!」
お前まで邪魔するか! とカイは頬を赤らめた。
やがて弾けるように、二人の笑い声が星空に零れた。そしていつまでもいつまでも、二人は寄り添っていた。
―「退魔将軍はかわいいのがお好き」終
初出:2014年甲午04月27日




