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第十四話

 数日して、カイはガッルス・バルバ隊の合同部隊に追いついた。


「やっぱり来たわね」

「思ったより早かったな」

「ちぇー、何日で追いつくか、賭けでもしときゃよかったぜ」

「レディの予想どおりなのー」

「なのー」

「はは……」


 バルバ隊の面々は、当然のように二人を迎えた。カイは乾いた笑いを返すしかなかった。


「レオナルドたちから預かってきたものがあるでしょ」

「あ、はい。この荷馬車の中に」

「これは目録です」


 預かってきた武具・道具類を全員で確かめる。


「新しい脚甲です、レディ」

「ぴったり! うふ、相変わらずいい腕ね」

「そのヒール、変わってんな。何でできてるんだ?」

「うふふ、知りたい? ド・ラ・ゴ・ン・の・牙!」


 ベリンダはくるくる回って履き心地を確かめる。


「こんなに早く仕上げてくれるとは思わなかったわ」

「そのドラゴンの牙って、もしかして……」

「そう、この間の任務で倒したドラゴンのものよ。ドラゴンが守る財宝より、ドラゴンの方がよほどお宝ね」


 ほかの者も、次々と荷物を受け取る。武具の支給も、女たちにかかればちょっとしたファッションショーになる。


「レディー」

「レディ・ベルー」


 レイとライの姉妹もやってきた。


「レディ、お使いが来てるのー」

「バネン将軍のお使いなのー」

「バネン将軍の? 荷物が届いたのをお聞きになったのかしら?」


 もし、それをよこせと言われたら厄介だ。またあのピリピリした空気を味わいたくはない。


「ちがうみたいなの。バルバ隊の猛獣使いに来てほしいみたいなのー」

「たぶん、カイのことなのー。アンジェリーナ姫がお呼びなのー」

「ぼ、僕?」

「まー馬以外の獣に乗ってんのは、カイだけだぜ」

「どうしますかー?」

「ますかー?」

「カイ、お行きなさい。エレナもついていってあげて」

「わかりました」


 使いの者に案内されて、バネン将軍らの幕舎に向かう。宿営地はそれなりの規模だが、兵士の士気はあまり高くないように見えた。


「あっ、来た来た」


 デルロイ・バネン将軍息女アンジェリーナは珍しく機嫌がよいようだ。


「あれ? あのオオヘキジャネコは?」

「えっと……長旅で疲れていますから、休ませています」


 この少女は苦手だった。年下だというのに、見下されている感じがする。


(たまにいるんだよな、こういう人)


 カイも旅先で様々な人間に出会った。相手の立場が下とわかると横柄な態度に出る人間も多い。この少女も、まさにそんな感じだ。


(でも、レディはそんな感じはしないんだよね)


 ベリンダも、周囲を評価するとき、自分を絶対的中心に置いている。けれども嫌みはない。たまに子供扱いされることはあるが。

 それがこの少女とベリンダの違いだった。


「あのネコ、どこで手に入れたの?」

「山間部に行けば、普通に飼っているものです」

「アンジー、あのネコが欲しい。譲って。お礼はするから」

「それは……できかねます」


 カイはすぐに断った。

 アンジェリーナは明らかに不満そうな顔になった。


「僕の家族ですから」


 なるべく穏便に納得してもらいたい。

 エレナがつけくわえた。


「アンジェリーナ様、我々は家族を魔物に奪われた者です。あなたにはわからないかもしれませんが、その寂しさは耐えがたいものです。だから……」


 それには答えず、アンジェリーナはぶすっとしたまま尋ねた。


「魔物、憎んでる?」


 カイもエレナも黙ってうなずいた。


「本当に?」

「もちろんです」

「じゃあ、聞くけど。どうしてアンジーをさらった魔物を逃がしたの?」

「え!?」


 二人は顔を見合せた。


「わざと逃がしたんじゃないの?」

「な、何を根拠に!? 」

「ふーん、知らないんだ?」


 アンジェリーナの眉がわずかに上がる。無知な者を蔑む目だ。


「宮廷……帝都では有名なお話だもん。マリーヤ・ガデューカは、元退魔将軍。闇に堕ちて魔物となる前は、人間だったの」


 人が魔物に転じる――まれにあるという。魔王が生まれて五百年、その闇に惹かれて、幾人かが人間を辞めた。

 ガデューカもその一人なのだという。しかも彼女は、退魔将軍という魔王討伐の先陣を切るべき立場にいながら、魔物へと堕ちていった。


「それからもっと言うと。ベリンダはガデューカの部下だったんだってね」

「ええ!?」

「ガデューカが魔王の呪いを受けて魔物になる直前まで、親しくつきあってたの。絶対、あの二人の間には何かあるに違いないもん!」

「レディは……」


 エレナがぎゅっと拳を握った。


「レディはそのようなお疑いを受ける方ではありません。わたしは知ってます。あの方がどんな思いでこの十年間、ガデューカと戦ってきたか……」

「そんなこと言われても、人は見かけじゃわかんないわよ」

「わかってたまりますか! レディも同じように、魔物にいろんなものを奪われたんです!」

「エレナ! やめろ!」


 カイがエレナの前に立ち、彼女を制止した。初めてのことだった。


「アンジーは警告しただけだもん! もういい、出てってよ!」


 アンジェリーナは気まずさを振り払うように二人を追い出した。

 二人はトボトボと、バルバ隊の場所へ戻った。


「エレナ、大丈夫か?」

「くやしいよぉ……」


 エレナはポロポロと涙をこぼした。


「レディは……レディは……」

「うん、わかってる。わかってるよ、エレナ」


 エレナをなだめる。


(無理もない。親がわりだもの)


 そんなに慕われているベリンダをうらやましく思った。


(それにしても……)


 ベリンダとガデューカの関係は知らなかった。それを知った今、カイの心にはちいさな引っかかりが生まれていた。


(レディが、ガデューカをわざと逃がしていたんだろうか?)


 疑い始めると、際限なく妄想がふくらむ。

 しかしそれをエレナに悟られるわけにはいかなかった。何とかなだめすかし、乗ってきた荷馬車で休むようにさせた。


「ただいま戻りました、レディ」

「お帰りなさい。あら、エレナは?」

「ちょっと疲れたみたいで……あっちで休ませてます」

「そう」

「レディ」

「なに?」


 カイは思い切ってベリンダに尋ねた。不安を消したかった。


「ガデューカを、倒せますか?」

「ええ、倒すわ」


 ベリンダは眉ひとつ動かさずに答えた。


「いつか必ず、ね」


 知らぬ者には、それが揺るがぬ決意に聞こえる。

 けれどもカイは不安をぬぐい去ることができなかった。

初出:2014年甲午03月08日

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