序
魔王軍の城が落ち、退魔軍は人間の救出に当たっていた。
「誰か! 誰か返事をしろ!」
兵士は大声で呼びかけた。ただ一人で、ツタに閉じられた扉を蹴破る。
暗い部屋の中は、魔王軍の屋内農園だった。ツタがあふれる室内に、巨大な半透明の果実があちこちにぶらさがっている。
中には、人間が一人ずつ入れられていた。そこは液体で満たされ、まるで胎児を直接見ているような不気味さがある。
兵士はナイフで、果実の皮を切り裂いた。液体が流れ出し、中の人間が床に落ちた。
「だめか……」
しかし、その者はすでに死んでいた。
「ひどい! これが魔王軍のやりかたか!」
ほかの者も同様だった。この果実に入れられた人間は、みな生命を吸われて死んでいた。それでも兵士は、ひとつひとつから人間を取り出していった。
そのうちに、奇妙な果実に当たった。ほかのものと違い、金色に光を帯びている。中には裸の幼女が丸まっていた。歳は五つか六つといったところだろうか。
「こんな子供まで……!」
兵士がこぶしを握りしめた瞬間、幼女の目が開いた。
「生きてる!?
兵士はすぐさま皮を切る。果実の中に手を突っ込み、幼女を引きずり出した。
「ゲホッ、ゴホッゴホッ」
「しっかり。しっかりして」
幼女を抱きかかえ、液体を吐かせる。
「おとうさん、おかあさん……」
「怖い思いをしたのね……もう大丈夫よ」
ベリンダは幼女をぎゅっと抱きしめる。幼女はベリンダの腕の中でつぶやいた。
「カイは? カイはどうなったの?」
「カイ? 誰かの名前?」
「カイ……」
そのまま彼女は、兵士にすがって泣き出した。すすり泣く声が、むなしく響いた。
「ベリンダ、生き残った者はいたか?」
兵士の名を呼んで、女将軍が入ってきた。
「生きているのは……この子だけです、ガデューカ将軍」
「そう……」
将軍は果実の林を見上げ、眉を寄せる。
「人間の生命を吸い出す装置か……悪趣味な。魔王は、人間なんか家畜としか思っていない。たとえ魔となった人間でも……」
幼女がブルリと震えた。兵士はあわてて、幼女を強く抱きしめた。
「大丈夫よ。子供は目を閉じて、何も聞かなくていい」
「うん……」
幼女は素直に目を閉じた。
アダマース暦四九四年、帝国退魔軍ウメルス隊、魔王軍領となっていた城を奪還。
オリュザの悲劇から、半年後のことだった。
初出:2013年癸巳09月23日
※作品の完成は2010年5月頃です。




