第3話
バイトで培われたスキルは異世界でも役立っています。
◇◇◇
神獣としての生活も1か月が過ぎ―――。
バレることこそなかったものの、着ぐるみでの生活は思った以上に大変だった…。
まず、しゃべれない。いや、声は出せるのだが、神獣の声は神々にしか聞こえないらしいので、しゃべるとバレてしまう。この世界に来てから声を出さなかったことは奇跡と言える。偶然とは言え、言葉を発しそうだった私を止めてくれた王子には感謝している。
私の異世界の住人達との意思疎通方法は…、ボディランゲージだ。
バイトで磨かれた対お子様用スキルは、異世界でも遺憾なく発揮されている。
今は高級菓子をお茶請けにティータイムを満喫中だ。私以外が。
「これはお口に合いませんか?」
神官長。この口刺繍なんですが、あなたどう見えているんですか?
「やはり虫などのほうが良かったのではないか?」
私に何を食べさせようと言うのです。王子が食べて下さい。
2人は期待に満ちた瞳で私を見つめてくる。
いや、だから食べられないよ!?
この1か月、あなた達の前で食事したことないよね!?
「こいつは人前で食事をとらない」
「なっ!?あなたに神獣様の何が分かると言うんです!!!
私のほうが神獣様を愛していますっ!!
あと、神獣様を“こいつ”などと呼ばないでください。馴れ馴れしい」
団長ナイスフォロー、さすが私の護衛騎士。決して目が合わないアイコンタクトもばっちりです。
ああ、神官長は死んでください。と言うか、あなたこそ私の何のつもりですか。
◇◇◇
今私と共にいるのは
私の護衛騎士に任命された、騎士団長ジークフリート。彼とは良い関係を築いています。
見た目以外に王子の要素が見つからない、レオンハルト殿下。彼のアホでKYな発言にはいつもイラッとさせられます。
もはや私の中で変態に成り下がった、神官長アレン。…もう彼にかける言葉はありません。
そして、目下の敵である――――
『バァーン!!』
「ようやく尻尾を掴みましたよ!!」
―――宰相サマが現れた。
◇◇◇
宰相ギルバートの発言で、皆の視線は私のプリチーなお尻に釘付けだ。
イヤン。そんなに見ないでよ。
宰相を除く3人が私から目をそらした。ジェスチャーは正しく通じたようだ。
相変わらず宰相は私にキツイ視線を向けてくる。
彼ぐらいだ、私を警戒しているのは。
「そいつは瞬きをしていません!!!」
「「………」」
無言。私と団長は言葉もない。
「ほ、本当だ!?」
王子は黙っててください。
「何か反論はありますか?」
私はドヤ顔のウザイ宰相を
見つめる。
見つめる。
見つめる。
「………」
「……くっ、こんなときでもポーカーフェイスとは!!」
「………」
「……この国大丈夫か」
訂正します。宰相も敵ではなく、ただのアホだったようです。
宰相の迷言を書きたいがために、この話を書きました。
後悔はしていない。